あとがき

帰国してひと月半が過ぎ、いつの間にかもう年の瀬です。

すぐにあとがきを更新しなかったのは端的に燃え尽き症候群によるもので、ではなぜこのタイミングで書く気になったかというと、申請していたネパールでの医療費が全額保険適用されたとの知らせが先日届いたからだ。
これであの旅のすべてが文字通り精算されたというか、ようやく冷静に振り返る気分になったというのが大きい。

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38日間で3カ国10都市。当初の計画では帰路にシンガポールやカンボジアにも立ち寄る予定だったのだけど、これは完全に絵に描いた餅でした。3カ国といってもタイは2度目の訪問だったので、実質ネパールとインドに全振りした形となる。途中に予期せぬタイムロスがあったとはいえ、行程相応の日数だったのではないか。かかった費用の概算は以下。

  • 移動費:14万7千円

  • 飲食費:3万8千円

  • 宿泊費:3万8千円

  • 娯楽費:8万2千円

  • その他(装備品、土産など):9万5千円
    計:40万円

自分でも驚いたのが飲食と宿泊費で、それぞれアベレージが1日約1000円!これは欧米ではまず達成不可能な金額であり、僕の食住へのこだわりのなさが伺える。
宿は最低限のインフラ(Wi-fiやホットシャワーなど)さえ確保されていれば、極力ドミトリを選ぶことで出費を抑えた。インドでは長距離移動に寝台列車を利用することでも宿代を浮かせている。ちなみに止まった宿の数は17軒。ベストはここで紹介しているゲストハウスです。

食費が安かったのは、現地のローカルフードがどれも舌に合わず、単純に食欲が湧かなかったからだ。選択肢の大半を占めるカレーにしても(価格の差があるとはいえ)日本のインド料理屋の方が10000倍美味い。まあそれは日本での適応能力が高い店のみが生き残っているだけなのかも。何にせよ、インドのカレー屋は全員日本で修行し直して欲しい。
こないだもセブンのビリヤニを食べて感動してしまった。少なくとも向こうでこのレベルのカレーを安価で食べれる店はたぶん存在しないと思う。あったら教えてください。

装備費用については、新たに買い足したリュックやカメラ、ポーチなど今後も長く使えるアイテムも含まれているため、純粋に今回の旅のみにかかった金額は30万弱といったところか。初めての中期バックパックにしてはかなり健闘した方だと思う。

さて、「インドに一ヶ月行ってきました」というパワーワードはなかなか食いつきがよく、インドに対する解像度は人それぞれであるにしても、やはり皆マイナス寄りのイメージを抱いているようで、どのようなトラブルに遭遇したのか目をキラキラさせながら聞きたがった。

そこで僕は手札の最強カード「インドに不法入国して取り調べを受けた話」を披露するも、「それはお前の自業自得だろ」「インドのせいにするな」などのお言葉をいただき、これには確かに返す言葉もない。皆が期待するような食あたりやぼったくりのエピソードをもっとこさえておけばよかったと後悔することしきりである。

こういう話をすると、よく「英語話せるんですか?」と聞かれる。

実際のところ超初級のトラベル英会話程度なら、というレベルなのだが、1ヶ月もクセの鬼強い非英語圏の国で揉まれると、さすがにヒアリング力は多少向上する。道中で「真っ当な英語教育を受けた国」の方々に出会ったとき、その発語のあまりの聞き取りやすさに感動したものだ。ただ、この辺りのスキルは筋力と同じく使わないと衰える一方なので、本当なら継続して勉強しないといけないのだけど。
対して、スピーキングで身につけた慣用句といえば「Get lost(失せろ)」「Out of the question(話にならないよ)」といったスラングばかりなので、インドをサバイブする以外でこのスキルはあまり役に立たないかもしれない。やはりアウトプットは環境よりも本人のやる気次第だと実感(反省)した。

38日という期間は、終わってみれば一瞬のようだった。

旅人として糧になることが多い旅ではあったものの、人間的に何か成長できたかといえば全くそんなことはない。強いていうなら、“健康に勝るものなし”を改めて学べたことくらいか。
カトマンズで死ぬほどの咳に苦しんだことも、バラナシでチャイの美味さに感動したことも、入国スタンプを往復30時間かけて半泣きで押しに戻った道中も、過ぎてしまえばみな等しく尊い思い出だ。それもこれも、五体満足で無事帰還できたからである。
人間、三十路も半ばを過ぎればちょっとしたことで芯は揺るがない。代わりに、自分だけは身体を壊さないだろうという根拠のない自信はいとも容易く崩壊した。自分という人間の心身を、良くも悪くも見つめ直すことができたことが、この旅の一番の収穫だったかもしれない。


日本を発って3日目の朝、バンコクの宿でK氏という日本人と話をする機会があった。静岡から来たというK氏は50代の男性で、バンコクには二週間滞在する予定だという。バイク乗りであるK氏は、あの交通地獄のホーチミンをもバイクで駆けたという剛の者で、計画しているロシアからポルトガルまでのツーリングプランを嬉しそうに話してくれた。
僕の旅程を聞いた彼は、「インドかあ。僕は行ったことないけど、きっと大変な旅になるでしょうね」「でも帰ってきた後で、またすぐ出かけたくなると思いますよ」と言ってくれた。「僕の年齢でもまだいくつもイベントを残しているんだから、あなたにはまだたくさん楽しいことが待っていますよ」とも。
あの時のK氏の言葉は、旅を終えた今でも少なからず励みになっている。当面は海外などこりごりという気分なのだけど、きっとまたすぐにでも。

次は少なくとも、路上に糞が落ちていない国に行きたいな。

〜エンドロール〜
サニーデイ・サービス/成長するってこと

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