わたしのすきな短歌 その1

 この記事では、わたしが好きな短歌に簡潔な感想を添えて紹介したいと思います。自分の性質上、喋りすぎてしまうので、もし書きすぎていたら焼いてください。では、Let's go !

すてきな短歌たち

 今回は、戦後の歌人の中で、前衛短歌で有名な三人、塚本邦雄、岡井隆、寺山修司の短歌を(期せずして)紹介します。どの短歌も今から半世紀ほど(以上?)前の短歌ですが、どれも、今でも煌々と輝きを放っています。

ペンギンのうた

日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも
                            塚本邦雄

 とってもPOPな短歌ですよね。芸術作品の評価軸は様々だと思いますが、一つに「色あせない」というのがわたしの中では大きな位置を占めています。この短歌は1958年の『日本人霊歌』に収録されていますが、60年たった今でもこの短歌は全く古めかしさを感じさせません。
 おそらく、皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも、何か、のっぴきならない理由があって、日本を「脱出」せざるをえなかったのでしょう。脱出したのはペンギンとヒトなのですが、「皇帝」の二文字が作品全体の重厚さを演出しています。「皇帝(ペンギン)」と「従者(飼育係り)」が亡国を追われている……というイメージ 。しかし、いざ脱出すると、二人(一匹と一人)は自由そのものになる。そこにはもう、水族館の人気者とその飼育係りでもなく、皇帝と従者でもない、二つのわたしがそこに、ただ、ある。「日本脱出したし」というフレーズが、その先茫々と広がる「余地」を予感させ、しがらみから解放された二人は佇んでいる。もの寂しさと開放感が同居している、そんな短歌です。もしかしたら、ペンギンが「寒さ」を連想させ、全体の調子を落ち着かせているのかもしれませんね。

まあるい丘で

抑圧のかなたにまろき丘たちてダダダダダダダダダと一日
                           岡井隆

 先日、亡くなられた岡井隆さんの一首。岡井さんはもちろん偉大な歌人でありますが、同時に医師でもあり、文化人でもあります。そんな岡井さんの短歌の題材は本当に様々で、歌集を読んでいると、目に映るもの全てを詩にのせてるのではないか、と圧倒されます。
 必ずしも感覚的な短歌だけではない岡井さんの作品の中で、この作品はとりわけ感覚的な作品に感じられます。
 抑圧の遠い向こう側にまあるい丘があって、ダダダダッと一日(は過ぎていく)、という感覚が(わたしには)あります。後半の「ダダダダ……」は何となく、機銃掃射のイメージ、声を上げる間もなく一日が過ぎていくイメージ、抑圧のかなたにあるまろき丘は誰もいないゴルゴダの丘みたい、そんなイメージがわたしの中を駆け巡っては通り抜けてゆく。この短歌は様々なイメージが混在していて、読んでいるうちに言葉がもつ「深さ」に触れられる短歌だと思います。
 ちなみに、わたしはこの作品、「ゆうやけ」をイメージして鑑賞しているのですが、皆さんはいかがでしょうか。このイメージは、わたしの中の丘と結びついているからなのか、はたまた「ダ」の文字が夕焼けの「夕」に似ているからなのか……。

コーヒーってこんなにも苦い

ふるさとの訛りなくせし友といてモカ珈琲はかくまでにがし
                          寺山修司

 まったくそのつもりは無かったのですが、塚本邦雄、岡井隆、ときて、寺山修司を外すと怒られそうな気がしたので……。
 この短歌は連作「美しき日々」に収録されています。「美しき日々」が収録されている『少年歌集・麦藁帽子』には、15~19才のときの寺山修司の青春が詠まれています。この歌集には、恋に関する歌も多く、それはそれは甘酸っぱくストレートなのですが、今回は、友人が主題のこの歌を紹介します。
 わたしは東京出身で、こういった、「故郷を離れて都会に染まってしまった友への悲しさ」というものが、これまでいまいちピンときていなかったのですが、この短歌を読んで、一発で腑に落ちました。うわべの理解を飛び越えて感覚的な理解にまで引き込んでしまう点がこの短歌の卓越した点でしょう。
 コーヒーはそもそも苦いのですが、都会にでて垢抜けた友人といると、自分だけ取り残されている気がするような……、彼らは遠い存在になってしまった気がするような……、あるいは、都会への憧れを抑えきれない自分の情けなさもあるかもしれない……、様々な気まずさがコーヒーを「ここまで苦く」する。
 恋愛の歌ではありませんが、青春特有の短歌としてこの短歌は、今風にいえば「エモい」の一言でしょう。
 なんとなく、18才くらいの、「コーヒー苦いけど頑張って飲んでる」という状況で、自分の「背伸び」が、実際に大人びていく友人の前では、なんだか空ぶっている、そんな青年の姿まで連想されます。コーヒーを飲むことで、大人になれる気がしてしまうのは、今でも変わっていないような気がしますね。

むすびにかえて

 いかがだったでしょうか。結局、結構長くて絶望しています。今回は前衛短歌の歌人を中心に紹介しましたが、好きな短歌はまだまだたくさんあるので、これからも紹介していけたらな、と思います!
ご精読ありがとうございました。

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