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支配する見えないチカラを考える〜透明人間

8月の頭に透明人間を観に行った。たまむすびでの町山さんの解説を聞いて、クラシックホラーの現代解釈であること、人は思い込みのバイアスがあることから本当でも変なことを言うと誰も信じてくれないこと、誰がそれを言うかによって信じることが変わることの多さ、思い込みの恐ろしさなどなど普通に生活してると起きることがたくさん共通部分としていると思い、映画の中にどんな人物描写があるのか気になって観に行った。

声を上げているのに耳を傾けてもらえない女性の話

富豪で天才科学者エイドリアンの束縛された関係から逃げることの出来ないセシリアは、ある真夜中、計画的に彼の豪邸から脱出を図る。失意のエイドリアンは手首を切って自殺をし、莫大な財産の一部を彼女に残した。セシリアは彼の死を疑っていた。偶然とは思えない不可解な出来事が重なり、それはやがて、彼女の命の危険を伴う脅威となって迫る。セシリアは「見えない何か」に襲われていること証明しようとするが、徐々に正気を失っていく。(引用:https://toumei-ningen.jp)

富豪で天才科学者が夫ということが後々物語に響いてくるのだが、力で屈せさせようとしているDV夫から逃げるところから始まる。力は筋力的な力とも見えるし、パワーバランスということも見れる。ブラック企業はDVする人と一緒ということを以前聞いたことを思い出してしまった。

誰もいない場所でコンロに火がついて火事になりそうになったり、突然扉が空いたり、誰かが座っている気配がしたり…。終いには、妹に罵詈雑言のメールを自分のアドレスから勝手に送られて縁切られたり。主人公の彼女の周りで奇妙なことが起こり続ける。当然そんなことを身近な人に言ったところで彼女は誰も信じてもらえず孤独になっていく…。が、そこからがこの映画の面白いところだった。映画の後半はセシリアがいろんな意味を含む力に屈せずに立ち上がる物語なんじゃないかと思ったからだ。

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聞いてもらえない状況はどこにでもある

セシリアが置かれている立場は、自分は本当のことを言っているのに受け入れてもらえず弱い立場だ。特に今回は実態の見えない恐怖に襲われている。実態の見えない何かというのは周りにもたくさんある。周りの同調圧力やSNSにおける無数の目だったり、それって常識でしょっていうような思い込みだったり。権力から発生するパワハラだってそうだ。会社では上司にこうやったほうがいいと言っても聞き入れてもらえないことも多々ある。聞く耳を持たないという状況は身の回りにたくさんある。自分自身もそうしているかもしれない。

セシリアの過去はこの映画では描かれない。観てる観客はいきなり透明人間がいるといっている彼女の話を聞かされる親しい人と同じ感覚で物語を追いかけることになる。過去が見えないからこそ謎に包まれると信じてもらえない状況もいまたくさんあるなと感じた。

SNSなどで繋がることは容易になったというけれど人を信じることは、今も昔も変わっていなくて信じることができないと真に繋がるということは言えないんじゃないかと思う。まさに現代版の透明人間だった。

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演技力も見どころ

この映画は登場人物が少ないが、出演俳優たちの演技力がとても魅力的に映る映画だった。

セシリアが透明人間と格闘するシーンは観ているときは一人演技がすごいなと思っていたがグリーンバックで後から合成したらしい。しかし透明人間と対峙している見えない敵と戦っている表情やアクションは見もの。また雨のシーンでは目も開けられないような雨の中、どこにいるかわからない透明人間を探すあのセシリアの表情は見ている観客をハラハラさせて映画に没入させるような表情だった。

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この映画は透明人間より怯える主人公を軸においていることが特徴の映画だ。透明人間、他人に見えない、そこに存在しないようにみえるなにか。その背景には冒頭に出てきたDV夫の異常性が見え隠れして見えないなにかにその異常性が反映していくようだった。

しかし、後半で彼女自身が自分自身の強さに気づき対峙していく決意をしていく流れは表情が徐々に変わって変化していくことでも見て取れる。最後はネタバレになってしまうので書かないがどんな表情の変化を辿っていくのかは是非注目してみてほしい。

カメラワークが演出する恐怖

この映画でもう1つ魅力を伝えたのがカメラワーク。ホラー映画だからこそカメラワークはとても重要。観客がどこに注目するかどのシーンを頭の中に残すかが後々びっくりさせたりハラハラさせるきっかけになるからだ。特に良かったと思うのが冒頭の家から逃げ出す場面と戻った家全体を見渡す場面。家全体像を見せないでなにか起きるかもしれない場面を予め移しておく。ゆっくりとパンしながら…。

心臓がキュッと掴まされるような恐怖はカメラワークによる演出がよくて、透明人間が出るってわかっているのにとても怖く感じる映画だった。

テーマも演出も良い映画だったからまた数年後見返したいし、人におすすめしたい映画だった。

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