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ユルスナール「東方綺譚」レビュー

ユルスナールの短編集「東方綺譚」を再読しました。

初めて読んだのは4~5年前だったか、そこそこ面白く、ユルスナールにしては読みやすかったけど、あんまりぽくないなと思ってサラっと読み流した作品。
最近「ハドリアヌス帝の回想」を読んだり「とどめの一撃」をまたまた再読したりした流れでもう一度「東方綺譚」も読んでみることに。

本作はタイトル通り(ヨーロッパから見た)東方、ギリシャや中東、中国、そして日本の不思議なお話が並べられています。
後に花開くユルスナール一流の、人物の心の奥の奥まで入り込み、人物そのものになって描写する一人称体というのはまだ見られませんが、初期作品としては「青の物語」よりは全然完成度が高いです。
ジャンル的にいうと幻想文学とか怪奇文学に近いのでしょうが、結果的にユルスナールはそっちの人ではなかったので、どこか抑制されたというか、伸び伸びとはしていない印象がありますが、それも味になっている気さえします。
評判の高い作品「老絵師のゆくえ」も確かに美しいのですが、「とどめの一撃」を先に読んだ身からすると『でも、これが書きたかったんじゃないんだよね』とこちらの読書にも抑制がかかって若干没頭できない気がしました。
かといって「東方綺譚」からユルスナールに入ると「とどめの一撃」や「ハドリアヌス帝の回想」にびっくりしてしまうでしょうが。

今回再読して、博学さや取材対象の広さ、そして皮肉の効いた内容にちょっと芥川っぽさも感じましたが、たぶん知ってはいても作風に影響は受けていないでしょう。
日本の作家だと三島の影響を受けたようですが、ユルスナールの中に三島っぽさは微塵も感じられません。

個人的に好きなお話は「老絵師の行方」と「死者の乳」です。
後者は芥川か!と突っ込みたくなるような構成でした。
「東方綺譚」は読み物としては面白いんですが、ユルスナール入門として果たして機能するかというと疑問です。
三島で例えると「潮騒」みたいな感じでしょうか?
小説として面白くて読みやすいけど、三島の真骨頂ではない。
ここから入ってしまうと真に三島らしい「金閣寺」や「禁色」が逆に異質に思えてしまうかもしれない……。
「東方綺譚」も同じです。
かといって「とどめの一撃」や「ハドリアヌス帝の回想」から入るとはじき返されてしまう可能性が高い……。
ユルスナールはいろんな意味で難しい作家だと再確認しました。

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