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いつ1000万人を超える?~2023年6月末で在留外国人322万人~

 出入国在留管理庁は2023年10月13日、同年6月末現在の在留外国人数を発表しました。前年比14万8,645人増の322万3,858人で過去最多となったことは、周知のとおり。リーマンショックや東日本大震災、新型コロナウイルス感染症の拡大級の事案が起きない限り、人口減が続く日本では在留外国人数は毎年最多を更新し続けていくのは、疑いようのない事実だと思います。大事なのは、その伸び率。そして、約3倍となる1000万人を超えるのはいつか。あらゆる数字から考察してみました。


7~8%の伸び率をキープするか

出入国在留管理庁データをもとに、伸び率を計算

 2023年6月末現在、日本に在留する外国人の数は、322万3,858人で、前年比14万8,645人の増加です。前年比の伸び率は5%です。2021年-22年の伸び率は11%。外国人の増え方は鈍化しているのでしょうか?

 これはおそらく、コロナ禍から少しずつ回復が見えた2021-22年の11%という伸び率からの「揺り戻し」というのが、正しい見方かと思います。水際対策の緩和により、本来、留学や技能実習生、特定技能で入国する予定だった外国人が2022年に一気に戻ってきて、2023年は自然増に戻った、というものかと思います。

 では、今後どれだけ外国人が増えていくのか。注目すべきはコロナ禍前です。前年比で言うと、2016年7%、2017年8%、2018年7%、2019年7%と、「7~8%ずつ外国人が増えている」という状況でした。2022年が11%、2023年が5%と、単純に足すと16%、1年平均で8%。年平均7~8%で増える余地がある、ということは言えるかと思います

1000万人をいつ超えるのか

 では、今後もこの7~8%の伸び率ペースを維持すると、どれだけの在留外国人が増えるのか。推計したのが下の図です。

人口伸び率が7%と8%でそれぞれ在留外国人数を試算

 単純計算で、8%の伸び率だった場合。2029年には500万人を超え、2038年には1000万人を超える可能性があります。また、7%の伸び率だった場合、2030年に500万人を超え、2040年に1000万人を超える可能性があります。

 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計によると、日本の人口は、2029年に1億2077万1千人、2030年に1億2011万6千人、2038年に1億1439万1千人、2040年に1億1283万7千人となる予測です。

 これに合わせると、総人口に占める外国人比率は、8%伸び率説で500万人超え(2029年)で4.24%、1000万人超え(2038年)で8.94%となります。7%伸び率説では、500人超え(2030年)で4.31%、1000万人超え(2040年)で9.03%となります。

 もちろん、送り出し側の事情(人口ピラミッドや人口規模、災害や戦争など)などで、ずっと同じ伸び率を続けるというのは、かなり非現実的ですし、社人研の統計では、2070年では940万2千人と推計されています。ただ、もっと早く1000万人を超えてもおかしくない、と思うのです。

今後日本で受け入れる余地のある国は?

 次に、国籍別のこの10年の推移を見てみました。

出入国在留管理庁統計と、米国中央情報局のFactbookの人口推計より作成

 この統計によると、2013年では中国や韓国が多かったものの、ベトナムが10年の伸び率620%で、2020年以降は2位に。10年の伸び率では、ミャンマーの709%を筆頭に、ベトナム620%、カンボジア600%、ネパール396%、インドネシア348%と高い伸び率を見せています。多くが、技能実習生や特定技能などの単純労働による受け入れと思われます。

 人口規模を考えると、他国へも人材のプッシュを続けるベトナムは伸び率は鈍化傾向を見せる一方、インドネシアはかなり高い伸び率を見せ、社会不安のあるミャンマーも日本への渡航を希望する人が多く、まだまだ人材受け入れの余地があると思います。

特定技能はこれからどれだけ増える?

 最後に、在留資格別にみると、別の傾向が見えてきます。

在留資格別の統計から伸び率を計算

 永住者や家族滞在、定住者、配偶者などは大きな変化は見られないものの、この5年で減少に転じたのは技能実習。コロナ禍で一気に減少したものの、コロナ前を回復するほど、人数が戻っていません。政府の有識者会議で2023年5月に出された、「技能実習制度の見直し」という中間報告が影響しているのでは、と思います。特定活動の2020年、2021年の増加は、コロナ禍で帰国できなかった技能実習生と、2021年2月の政変により帰国できなかったミャンマー人の救済、というのが背景にあると思います。

 その中で高い伸び率を見せるのが特定技能です。2019年4月に創設された新しいビザですが、同年末の1621人が、2023年6月末には17万3,101人まで増加。ただ、制度創設当初は、2019~23年の5年間で、最大34万5,150人を見込んでいたことを考えると、まだまだ達成率が低いと言わざるとえません。

 技能実習制度に比べ、特定技能は、転職が可能▽「特定技能評価試験」と「日本語能力試験」が必須ーなどがハードルとなるのか、まだまだ「様子見」が続いているのかもしれません。今後、技能実習制度が見直されれば、特定技能での受け入れには余地がある、といえるでしょう。制度見直しの最終報告に向け、就労から1年を超え、一定の日本語能力がある場合に転職が可能となる「育成技能」などの新制度案も報道されています。今後、どのような形で外国人材を受け入れていくのか。政府の動きを注視する必要があります。

人数よりも環境に注視を

 ただ、単に「外国人労働者の人数を増やせばいい」という問題ではありません。きちんと、外国人が安全に暮らし、その能力を最大限発揮した職場環境を提供できているか。これが大事だと思います。

 例えば、佐賀県では、佐賀労働局の調査で、技能実習生を雇用している事業場の7割で違反している、というデータがあります。

 これは、全事業場を調査したのではなく、抽出して訪問調査したデータではあると思いますが、2020年調査で78%、2019年調査で75%、2018年調査で59%と、年々増加を続けています。外国人の環境が改善している、とはとても言えない状況です。

 人口減社会では、外国人材の受け入れはさらに加速するでしょう。でも、「誰でもいいから来てくれ」では、「選ばれる国」になることはないでしょう。外国人に選ばれる国になるためにも、きちんと外国人が活躍できる社会をつくること。それが重要だと考えています。

 きちんと、この目標に向けたアクションを起こすため、私たちは今、準備をしています。まもなく、報告できると思います。ぜひとも、一緒に社会を変えていきましょう!

山路健造(やまじ・けんぞう)
1984年、大分市出身。立命館アジア太平洋大学卒業。西日本新聞社で7年間、記者職として九州の国際交流、国際協力、多文化共生の現場などを取材。新聞社を退職し、JICA青年海外協力隊でフィリピンへ派遣。自らも海外で「外国人」だった経験から多文化共生に関心を持つ。
帰国後、認定NPO法人地球市民の会に入職し、奨学金事業を担当したほか、国内の外国人支援のための「地球市民共生事業」を立ち上げた。2018年1月にタイ人グループ「サワディー佐賀」を設立し、代表に。タイをキーワードにしたまちづくりや多言語の災害情報発信が評価され、2021年1月、総務省ふるさとづくり大賞(団体表彰)受賞した。
22年2月に始まったウクライナ侵攻では、佐賀県の避難民支援の官民連携組織「SAGA Ukeire Network~ウクライナひまわりプロジェクト~」で事務局を担当。
2023年6月に地球市民の会を退職。同8月より、個人事業「人とヒトの幸せ開発研究所」を立ち上げ、多文化共生やNPOマネジメントサポートなどに携わる。

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