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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

あらすじ・目次 


第三部 六章

リベルタドーレス ~解放者たち~

1447.林の中


「ここにはモンスターはいないみたいですね」

 両手で油断無く武器を構えたままで、少し安堵の気配を漂わせたブロルの声が林間に響く。

『あら、どうしてそう思うの?』

 ペトラの問いに返した声には、更に自信と確信が加えられている。

「我々以外の匂いや気配が感じられないからですよ、最近耳と鼻が以前よりずっと利くんです! こうして集中すると息遣いだけじゃなく心臓の鼓動まで聞こえるんですから」

 そう言って大きな耳をピンと立てて見せている。
 ペトラは大きな鼻から勢い良く息を吐き出させながら言う。

『頼もしいじゃない! でも、それだけじゃ危ないわよ、アンタ』

「「えっ」」

 ブロルだけでなく声を揃えたミロンも又、驚いた表情を浮かべていた。
 恐らく相棒と同様の自信を感じていたのだろう。

「感覚が鋭敏になる事自体は良いんだけどな、それに頼り過ぎるとヤバイって意味だよ」

「は、はあ……」

「ほら、呼吸したり心臓がある生き物ばかりじゃないじゃんか? モンスターも同じだからさ」

「「あっ」」

『実際今も周りをモンスター共が遠巻きにしているのだ』

「「えっ!」」

 キョロキョロと周囲を見回す二頭、いや二人に対してレイブの声は陽気に弾んでいる。

「少し離れた所に不自然に背の低い樫の木が並んでいるだろ? あれがトレントで操っているのがドライアドなんかの樹妖だな!」

 バッ! ザワワッ……

 レイブが指で示した方向、二人がそちらに目をやると周囲の木立から唐突な葉ずれが沸き起こる。

『グガッ、トレント共が慌てているのだ』

「「っ!」」

 更に不自然極まり無い事だが一斉に葉音が止んだ、判り易い。

『後はアンタ等のすぐ後ろね、白くて小さな花が咲いているでしょう? ソレ、アルラウネよ、噛むから気を付けてね』

「「ええぇっ!」」

 心底驚いていたのだろう、モンスターだと指摘されたにも拘らず、狼と虎に似た二人は後ろに生えている白く可憐な花を凝視したまま武器を構える事も忘れているらしい。

「花にしか見えないのですが……」

「本当にコレがモンスターなのですか?」

「ああ、そうだよ、あっ、ほら、今ちょっと動いたぞ」

「「マジでっ?」」

 再び花に意識を戻した二人には、一瞬目を離す直前とは明らかに移動した場所で儚げに咲いている可憐な白い姿が映った。
 今度は慎重に距離を取って見つめ合う二人と一輪。

 一瞬の静寂の後、

『キシャーッ! キ、キィッ! キィーキィー!』

「「うわあっ!」」

『ジジッ?』

『言ったじゃない、噛むわよって』

 逃れられないと観念したのか、正体を現して二人に牙を剥き飛び掛ったアルラウネの白い花は、レイブの肩から飛翔したバッタに捕らわれて真っ二つ、程無く静かに動きを止めるのであった。
 尻餅をついて固まっている二人の前で、無機質な表情のままでアルラウネを咀嚼しているバッタの口元からは、花色とはかけ離れた真紅の樹液が滴り落ちている。



お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です('v')
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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