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誰の心にも巣食ってる「柳沢きみお」を解き放て!〜SHOP自分がキミに語りかける。


「東京人」最新号を読み、「渋谷系狂騒曲」を読了。そして思ったのは誰の心にも“柳沢きみお“は住んでいるってことだ。なんでだ。いや、そう思ったんだから仕方がない。

もういちど断言する。いるんだよ、君の中に。

たとえば渋谷系全盛期、柳沢はどれぐらい連載を持っていたのか。ボクの記憶が正しければ8誌同時連載とかやってたはず。あの90`s、渋谷宇田川町がレコードの街として華やかな色気を発していた頃、ビッグコミックスピリッツ、ミスターマガジン(いまはなき大人向けヤンマガ)、漫画アクション、ビッグコミック系のどこか(スペリオールとかオリジナルとか)別冊マガジン(おそらく)、ヤングチャンピオンなどなど、、日刊アスカにも連載持ってたような気がする。今はなき週刊宝石とか。そりゃあね、柳沢イズムが心のどこかに巣食うのも仕方ないと思いませんか?40代以上限定かもですけど。

考えてみてくださいよ。通勤途中の電車の中。リモートミーティング中、ふと気を許すと「ここではない、どこかへ」ふらりとトリップしたい自分がいるでしょ?え?いない?絶対いますよ。どっか遠くへいきたいなァ、とか、なにもかも捨てて気ままに暮らしてみたいよなァとか思ったことあるはずだ。俺には俺の唄がある、なんて言いながらね。

朝起きて氷一杯のグラスにアイスティーを淹れ(薄く切ったオレンジは浮かべなくてよろしい)ギョクギョクとノドを鳴らして「アー。寝起きのアイスティーは美味しだなァ」とかやってたら重症。真夜中にカップ焼きそばとビールは美味しだな、とかチビチビ始めてるレベルだともうどうしようもない。毎晩、「健康のためには白菜鍋。シメはうどんで」だともはやこれまで。毎晩じゃなくても土鍋で白菜鍋とビールを一度でもやったことがあるようであれば間違いなく柳沢きみお患者である。つまりボクと一緒。語り合おうぜ、柳沢ワールドって話。

昔、冗談はさておき、まず菊池桃子ってキャッチコピーがありましたが、あえて2021年の今、冗談はさておき、まず、柳沢きみおって宣言したい。もうね、そういう気分なんです。たとえば落語って人間の業の肯定、しょうもない小市民のしょうもない失敗談を面白がりつつ、どっかで「オレもやりかねんな」と共感するとこあると思うんです。柳沢ワールドはまさにそれ。「青き炎」は男の欲望の全肯定、気にいらねえやつは全員抹殺、世界の女はオレのものbyダイアモンドユカイじゃないですか。ちなみにユカイのソロデビュー曲「ダーティーヒーロー」ですよ!歌い出しから最高なんですよね。

♫太陽がいっぱいさ 昼下がりのプールサイド 
自由を感じて 

やー、モッ最高。自由を感じてってところに柳沢イズムを感じますね。ソロ第1作に迷いなしだよ!と思いつつユカイの件は本項とはまったく関係ないのでここまでにしとく。


で、君の心に巣食う柳沢きみおの話だ。柳沢は男の欲望のすべてを肯定する。人妻寝取りも復讐による殺人も食い逃げも中年〜老年期には禁断の真夜中のカップ焼きそばも。俺の人生まだまだこれからだと脱サラしてプロ野球を目指すのも、あてもなく家出して新宿でヤクザ稼業を立ち上げるのも、大手メーカーを退社して飲食ホールスタッフやるのも、同僚(男)に恋してモヤモヤするのも全部肯定。妻の不貞に目を瞑り、社内女子に手を出しポイ捨て後に「オレの人生、なんだかなァ」とハードボイルドな気分を噛み締める。すべての物事がキュークツ(辻仁成のソロアルバムは「言葉はキュークツ」)になりがちな今の世の中。だからこそ、心の中の柳沢きみおを解き放ってみたらどうだろうか。

まあ柳沢きみおってなに?マンガ家?なーんてひともいるだろう。ああ、特命係長のひとねって思うムキも多いだろうし。昔、スピリッツ買ってたとき「SHOP自分」ってマンガあったなァ、読んでないけどってひともいるだろう。読めよ、「SHOP自分」。会社がいきなり倒産して裏原宿で古着屋起業する話だよ!白Tシャツを紅茶で染めて売る話!うん、オレはそんなTシャツ欲しくないって思ったけど(笑)店の商品が売れなくても近くの中華屋で冷やし中華や炒飯を「あー、うまいなァ」と爆食する主人公のタフネスには共感したな。フリマの売り子のミーナの立ち位置がいまいち曖昧だとか、チョク(主人公の名前)が原宿で古着屋開業するには全然お洒落ピープルに見えないとか突っ込みどころは盛り沢山の作品ではあるけれども、ボクはこの2021年の状況下、「SHOP自分」を激推しさせていただきたいと思っている。

緊急事態宣言延長にオリンピック問題。なにもかもがグレーなことばっかですけど、だからこその柳沢きみおだよ。「SHOP自分」イズムですよ。この主人公のチョク、他柳沢作品の主人公の誰と比べてもタフなんですよ。すごいよ、チョクは。「形式結婚」で女嫌いの主人公は男嫌いの女性と世間体のためだけに結婚して煮詰まる。大手ビールメーカーを退職して飲食業移りつつも女を心底愛せない自分にひたすらモヤモヤ悩む。「翔んだカップル21」の主人公は好きな女を二股かけて逃避行。「極悪貧乏人」は女に騙されて全財産貢いで多額の借金。復讐のためさらに借金して整形してホストに転身、騙された女の家族全員に復讐する話かと思いきや、途中で全身整形のツケで体調不良で悩むし。基本柳沢作品は人間の業、つまり欲望の全肯定を柳沢はすべての作品で行いつつ、さらにドヨーンと悩む。悩みまくる。「SHOP自分」の主人公、チョクも悩むは悩むけど、眠れない夜を過ごした直後も中華屋行って「アーッ!ここの冷やし中華サイコー」と悶え苦しむ。「やっぱ家で作る餃子はサイコー」とビール飲んで寝ちまうタフネスぶり。「SHOP自分」と「自分のセールスポイントって何よ?」と読者に問いかけつつ、チョクは爆食キングby土山しげる並にひたすら食べ続ける。アーッ悩むなァ、どうしようかなァ、と悩むけどお気に入りの中華屋の炒飯は忘れない。そして物語後半で地ビール作りに熱中する展開も断じてアリ。好きなもんを好きなように作りたい。その煩悩に素直なところは好感持てるじゃないすか。ね?

ちなみに柳沢初心者には「流行唄」、「男の自画像」、「青き炎」、「妻をめとらば」を薦めます。まだまだ先が見えない人類在宅全自粛時代。柳沢きみお作品をじっくり読んで欲望の全肯定を楽しんで欲しい。いや、ほんとに。そして解き放とうぜ。君の心に棲む、柳沢きみおをさ。

とりあえずこの2021年、今ボクらに必要なのはSHOP自分イズムかなァ。なんとなく起業してみようかなァ、やることもないし。さしたる目的でもないけどTシャツ大量に購入して紅茶で染めてみるかァ。ってぐらいのテンションで毎日行きつけの中華屋で「アーッ。ここの炒飯はほんと美味いなァ」ぐらいの小さなシアワセ噛みしめつつ過ごしていくのがいいのかも。いわゆる「死ぬこと以外はかすり傷」イズムとは真逆のベクトルね。顰蹙は金を出して買わなくてよし。そんな時代なんだよ、おそらく。

もう今、ボクは週刊少年ジャンプを読んでいない。ジャンプ系はグランドジャンプの「プレイボール2」を立ち読みしてるだけ。ヤンジャンの「九龍ジェネリックロマンス」の単行本は出ると買ってるな。モーニング系も「クッキングパパ」は毎巻買ってるし最近「OL進化論」掲載されてないよなァ、気になるなァとかそんな感じ。山田芳裕の漫画は変わらず買ってるけど。ボクはね、願うことは今こそ柳沢きみおをちゃんと掲載すべきだと思うんです。2ページでも4ページでも。もう終わっちゃったけどサンデー毎日でやってた大市民シリーズ。あれをちゃんとヤッテほしい。願わくば「SHOP自分」のチョク、大市民の山形鐘一郎とのコンビで。現役世代の代弁者とリタイヤ世代の代弁者のツートップ体制での柳沢きみおの「大市民最終宣言」。いいと思うんだけどなァ。週刊朝日、週刊現代、どうです?もしくはSPA!とか。徹底した中年愚痴マンガ。サイコーだと思うんですけどね。ダメ?

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