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コミックバンチ創刊当時に想いを寄せて〜今泉伸二の「リプレイJ」を振り返る。


ああ、タイムリープしたい。
願わくば2019年あたりに。そんな気分に襲われてるひと、今の時代に多いだろうなァ。
いや、いっそ1992年とか93年とかな。ダウンロードなんて概念もなくサブスプリクションってなんぞやな90年代真っ只中。チーマーはいなくていいす。コギャルもうざいのでノーサンキュー。

とりあえず気分だけ2001年に戻ってみる。

おそらく昭和40〜50年生まれのひとなら「おおおお」と反応しただろう。
何がって週刊コミックバンチにである。
創刊は2001年5月。元少年ジャンプ5代目編集長を勤めた堀江信彦が起こしたマンガ週刊誌であり
店頭で見つけたときのインパクトたるや。思わずしばらく買ってたもんね。

何が凄かったかって誌面から沸き起こる猛烈な1980年、特に85年以降の時代の匂い。
掲載作品が違うのにまるで80年代中盤のジャンプを読んでいるような錯覚。
原哲夫、北条司、次原隆二といったその時期のヒット作家がずらり並んでいるのも要因としてあったとは思う。だけどやっぱり作り手の「俺たちが思うマンガってのはコレよ」という強烈なプレゼン力のせいなんですよね。こせきこうじ、ながいのりあき(がんばれキッカーズfromコロコロコミック)までラインナップされ「努力・友情・勝利」を掲げるその姿勢はかつてのジャンプ読者なら一度ぐらいぐらっとヤラれてしまった経験あるはずよ。ボクは常々思ってるのは「リングにかけろ2」は当時のバンチでやるべきだったし、今も続く「銀牙」や「男塾」のスピンアウトはバンチで連載してたら、、と思う。実現していないんだし色々事情はあったと思う。だけど読みたかったなァ。あのラインナップの中で。

そんな強力な連載陣の中にひっそりラインナップされていた漫画家がいる。今泉伸二である。
ジャンプでは新体操ものの「空のキャンバス」、ボクシングものの「神様はサウスポー」をスマッシュヒットさせた人情お涙ものを得意とする作家だが、バンチ創刊号から連載された今泉作品はなんと原作つきだった。K・グリムウッドの「リプレイ」。いわゆる「夏の扉」の系譜に位置するタイムリープものの傑作。それを今泉風にアレンジされるとどうなるのか。結論からいえば今泉ワールドでしかない世界観が出来上がった。

原作はローカルFM局のディレクター。これが今泉の手にかかるとリストラ寸前のくたびれた中年サラリーマン(しかもカツラという細部へのこだわり)。元ラガーマンで今はさえない証券会社のサラリーマンって設定から柳沢きみおの「妻をめとらば」を彷彿とさせるバブルな80年代を経ての気苦労満載の中年男がとにかく泥臭くて冴えない。そう、タイムリープをする設定以外は原作のスタイリッシュなSF風味は完全に無視され人情お涙ちょうだいエピソードが連発というもはや別物となった「リプレイ」は初期コミックバンチを支えた重要な連載コンテンツとなった。

おそらくボクの推測だとバンチを立ち上げた堀江さんの趣味嗜好だと思うんですよね。武論尊は監修、実際は原作まで深く関わっている「蒼天の拳」、シティハンターのパラレルワールド的位置付けの「エンジェルハート」にしろ、ジャンプ期よりも義理人情&お涙ちょうだいな物語構成になっていると思うし、こせきこうじによる山田たろーシリーズに関しては甲子園を沸かしたヒーローがいきなり職なし四畳半、主食は玉ねぎという悲惨なシチュエイションからスタートする。しかも出版社でマンガ編集者としてリスタートなんて80年代のボクらは想像すらしなかったことだ。
で、今泉伸二の話だ。まず「空のキャンバス」。ラブコメかと思いきや70年代少女マンガのアナクロ的設定、下手すりゃ大映ドラマだ。幼い頃、少しの間だけ接触のあった2人。女の子を救うため自らの体を犠牲にして助けるのは「愛と誠」を彷彿とさせる。そして年月が過ぎ新体操のスターとなった女の子の前に現れたその男。そのときの致命傷が元で余命いくばくもない、、って話を80年代中盤のジャンプで連載する勇気。でも読んじゃうんだな。単行本は7巻と短めだけどあの時期の激戦区のジャンプで1年連載したのはそれなりに支持があったからこそ。

続く「神様はサウスポー」は設定は「がんばれ元気」。さえない中年ボクサーを父に持つ男の子が主人公。パパは飢えと寒さと長年酷使した体にガタがきて雪の中で男の子を抱いたまま死んでしまう。男の子はそれを見つけた牧師に教会で育てられる。父の残したグローブで練習してるうちに自らの左腕にとんでもないパンチが眠ってることが発覚。男の子は母国日本に戻り幼い頃に縁のあった兄妹が経営するジムで世話になりながら世界チャンピオンを目指すお話。「空のキャンバス」も泣かせるエピソード満載。

どちらかといえば泥臭い作風の今泉に「リプレイ」をコミカライズさせた編集者のセンスはすごいと思う。タイトルが「リプレイJ」なので単なるコミカライズってことではないんです。クレジットも原案だし。どっちかと言えば真逆の作風だからこそ起こり得るケミストリーを期待してのことだと思うのだが残念ながら化学反応は起こらなかった。理由はケミストリーが起こる前に今泉の泥臭さが原作を飲み込んでしまったから。もしかするとそれも狙いだったのかもしれませんがね。つまり「リプレイJ」はひとりの漫画家が原作を飲み込んで完全に自分のものとして吐き出した作品なんですよ。


バンチ創刊当時、マンガって新人でも洗練されてサブカルチャー風味でどっちかといえばモテそうな要素があったと思うんですよね。泥臭いやつは古くさい、いや、そんな論議すらない時代。その風潮に対しての反発精神の塊。それが創刊当時のバンチだったんじゃないかと。マンガって熱だろ?とね。

多少下手でも稚拙でも熱気で読者を巻き込んでしまうことで砂利もダイヤモンドとして輝く。かつての本宮ひろ志や永井豪、そして続いた多くのジャンプ出身の漫画家がそうだったように。そんな有無を言わさぬ熱気の再現こそが後発青年マンガ誌コミックバンチの矜持だったと思うのだ。

バンチはその後、ジャンプ3代目編集長の西村繁男著「さらば我が青春の少年ジャンプ」を原作としたマンガを次原隆二を起用し描かせている。「少年リーダム〜友情・努力・勝利の詩〜」と題された少年リーダム創刊当時の物語。リーダムとはもちろんジャンプのことで当時のジャンプ編集者や連載マンガ家陣をモデルにしている話だが主人公は実在しない架空の人物。連載始まったときは驚いた。だって他誌の話じゃないですか。出版社も違うし、そういうことで「少年ジャンプ」は「少年リーダム」と名前を変えての話だったんでしょうが単行本巻末で元ジャンプ編集長対談として西村さんと堀江さんが当時のジャンプやバンチ創刊時のエピソードを熱く語ってるし。もしかすると人情お涙ちょうだいジャンルの堀江さんの中で一番マンガ作品にしたい、てゆうかもしかするとコレを掲載するためにバンチを立ち上げたとしか思えないんですけど考えすぎですかね。それぐらい熱いマンガなんですよ、この少年リーダム物語は。だけど次原さんではなく今泉伸二がもし描いていたら、、きっともっと泥臭く泣ける話になってたんだろうなァ。

バンチはその後堀江さんたちが離れて月刊ペースで今も継続している。堀江さんたちは別の出版社と組んで月刊コミックゼノンを今も継続中だ。今泉伸二はバンチを離れたあとゴラクなどでいくつかの作品を発表、今は「空のキャンバス」のフルリメイク作品、「VIVA!空のキャンバス」を連載している。つまり熱きマンガ魂は今も現在進行形で燃えさかっている。すげえよ。フルリメイクってのは要するに続編でもなく現代に置き換えて今の絵で勝負しているってこと。WEBゴラクで連載中なので未読の方は読んだ方がいい。熱い。とにかく燃えさかってることだけは間違いない。

願わくば「神様はサウスポー」も同時フルリメイクして欲しいな。現代にアップデートされた設定で読んでみたい。おそらく作者も気分を(ジャンプで)連載開始時の気分にタイムリープしながら描いてるんだと思う。もしかすると今泉伸二なりの「リプレイ」へのおとしまえが現在進行形の「空のキャンバス」なのかもしれないですな。

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