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きみお★THE GREAT。ハードボイルドロマンスな柳沢きみお作品を貴方に捧げたい。

80年代、少年ジャンプ隆盛期。華々しく連載スタートするも短期間で散っていった数々の作品に想いを馳せていたら1日が終わってしまった。

時期としては82〜83年頃から90年ぐらいまで。ボクがなんらかの形で(読者として)毎週アクセスしていた頃の作品限定。もちろんほんのひと握りだと思う。あくまで印象に残っている作品だけだ。


「アカテン教師梨本小鉄」(春日井恵一)に「飛ぶ教室」(ひらまつつとむ)、「サスケ忍伝」(黒岩よしひろ)。まだまだある。「キックオフ」のちば拓が長い沈黙を破り連載した「ショーリ!」に「虹のランナー」。「すもも」(天沼俊)なんてのもありました。やまさき十三を原作に迎えた「あした天兵」(幡地英明)はジャンプっていうよりもサンデーなら長期連載してたんじゃないかなァと今でも思うクオリティだし、ジャンプで打ち切りされても他誌で活躍する方々はけっこういたと思います。実際この時期のジャンプで1年以上連載を続けることってかなりの偉業なんですよね。「北斗の拳」に「ドラゴンボール」、「シティハンター」、「きまぐれオレンジロード」、「ついでにとんちんかん」、「奇面組」というアニメ化されて人気の作品が普通に連載続く中、「こち亀」がどっしり基盤を固めている。まさに国民的マンガ雑誌。

「ラブ&ファイヤー」(平松伸二)、「メカドッグ」のあとがなかなか続かない次原隆二の「ROAD RUNNER」、「特別交通機動隊SUPER PATROL」、「隼人18番勝負」。「ウイングマン」のスマッシュヒット以降、試行錯誤を続ける桂正和の「超機動員ヴァンダー」(女の子が実に可愛く描かれている点で評価高し)「プレゼント・フロムLEMON」(異色の芸能モノ)が不発、「電影少女」までこの状況が続く。

ある意味異常事態なんですよね。前作がヒットし貢献していても他の人気作が終わらない限り枠は空かない&空けられない(物理的に)。デビュー以来、短期で連載が終わりがちだった荒木飛呂彦は「魔少年ビューティー」「バオー来訪者」の連続不発を受けて増刊で「ゴージャス⭐︎アイリン」を連載し読者を掴んで本誌カムバック1作目が今も続く「ジョジョの奇妙な冒険」である。1987年ですね。この時期になると「キン肉マン」のウルトラヒットを受けてのゆでたまごの次作「ゆうれい小僧がやってきた!」も短期で終了。80年代を支えた作家陣の次作がなかなか当たらない状況が増えていきます。同時期、アフター「北斗の拳」の「CYBERブルー」(原哲夫)も不発。「きまぐれオレンジロード」のまつもと泉は本誌ではなく衛星誌であるスーパージャンプでマイペースに作品を発表、「奇面組」の新沢基栄は作品を描かなくなりジャンプ本誌の連載陣の顔ぶれもジョジョに変わっていきました。

このへんになるとボクも完全にビッグコミックスピリッツ読者になっているため、ほとんど本誌を手に取ることがなくなり、単行本でフォローするのが「こち亀」と「花の慶次」。あとはこせきこうじの山田たろーシリーズは時々読んではいた。冨樫義博の「てんで性悪キューピット」が1989年より連載開始で翌年には次作にして大ヒット作「幽遊白書」の連載が始まっているが正直どちらもぴんとこなかった。1990年から連載開始の「SLAM DUNK」(井上雅彦)は「ほお。「カメレオンジェイル」のひとがバスケ漫画をなるほどね」と思ったぐらい。連載完結まもなく単行本を大人買い&読みして激しく後悔したっけなァ。

あの頃連載の長期化は事件だった。週刊ペースで全25巻だと期間としてだいたい約5年じゃないですか。
15巻越えするだけでもとんでもないことだった。「こち亀」10年いくかなァ、やべえよな、なんて時代。
今じゃ10巻越えなんて珍しくもないし長期化は当たり前。なんでこの作品が続いているのか説明不能なものも多いはずだ。「キャプテン翼」はもはやゴールが見えないままシュートを撃ち続けているし「聖闘士星矢」も掲載誌&出版社を替え小宇宙を爆発させ続けている。高橋よしひろの「銀牙」シリーズはもはや本編を軽く超えて野良犬版「仁義なき戦い」となり壮大な犬物語はSTAR WARS以上のサーガとなってしまった。いやァ、まさかの「銀牙」ロングラン。この状況、いったい誰が想像したことでしょう。

いちど終わった物語がまた始まる。これはマンガだけに言えることではなく解散したバンドが復活したり活動停止していたアーティストがまた動き出すことに似ている。サニーデイ・サービス、GREAT3。ユニコーンに一時復活したプリンセスプリンセスにレベッカ。もちろん絶対に動かない二大巨頭BOØWYやフリッパーズ・ギターはいるものの、あの当時注目度だけは高かったがブレイクスルーにはほど遠いエレファントカシマシがデビュー30年以上の時を経て多くの支持を集めるなんて想像もできなかった。

坂上忍がバラエティタレントとして再ブレイクを果たし、猿岩石の有吉が売れっ子芸人として人気をキープし続ける2010年代。どんなに暑い日もマスクを着用しワクチンを接種し手洗いうがいに余念のない日々を送るサマー・オブ・ラブ。梅図かずおの「漂流教室」や「14歳」が予言していた未来のように、どうやらボクらを待っているのは明朗快活、品行方正な未来ではなさそうな気がしている。誰もが気軽に交流可能なSNSで求められるのは鈍感力&スルー力。承認欲求を満たすのはtiktokとインスタグラム。盛れるメイクと写真加工でそこそこ可愛い女の子はどこでも見つけられるようになった。草食男子は草食のままで社会のコンプライアンスをしっかり守りながらさしずめラブコメに出てくる王子様的役割を現実社会でも担うのを目指して徹底的にクリーンな生活を目指す。どこまでも無味無臭。まるで味の抜けたスポロガムみたいに、だらだら長期連載が続く「どこにも辿り着けない」マンガみたいに。

そんなわけでボクらが成すべきことは何だろうと自問自答した結果、やはり柳沢きみおなんですよね。柳沢きみおが足りない。日本全国柳沢きみお化。「只野仁シリーズ」の只野は裏仕事もせず唐揚げ屋に向かい「ここの唐揚げが絶品なんですよ」と上司に勧める様は「大市民」の山形鐘一郎だ。山形は当初ホープ軒らしきラーメン屋で「美味し」を連発していたがその嗜好は変化、真夜中のカップ焼きそば、駅にある立ち食いそばとよりリーズナブルな方向へシフト。ああ、炒ったゴマをかけて白米を食って日本酒をキメるなんて回もあったけ。いや別に「大市民」を目指せって話じゃないんですよ。

「流行唄」(超名作)の主人公、郡司正直(すごい名前)はレコード会社の名A&Rマンにしてヒットメーカー。社内の出世競争にも勝ち抜くも最後はすべてを捨てて放浪の旅。「俺には俺の唄がある」、「未望人」、「俺にもくれ」の主人公も皆すべてを捨てる。持つべきものは友人、そして旨い酒。行き着く答は決まってコレだ。女子大生に社宅の隣の部屋に住む部下の奥さん、そして女子高生と若き愛人への果てなき男の欲求を描いた「愛人」シリーズに関してはほぼ主人公の男は女と別れる&飽きられる。シーズン1のみ元サヤ家庭にカムバックですが基本的に「行き着く先は女じゃないぜ」なハードボイルドな結末じゃないですか。ああ、「ONE PIECE」とか読んでる場合じゃないよ。

答えが見えない2021年。ここで国策やらもろもろを批判するのは実に簡単、キスより簡単by石坂啓。まるで延々続く砂漠のような先行き不透明な視界の中で役に立つのはハードボイルド期の柳沢きみおのマンガしかありません。他に選択肢はない。読んだことないひとはすぐに読んでほしい。

「翔んだカップル」はなんとなく読んだことある、「妻をめとらば」知ってるけどあんまり深く読んだことがない。ああ「特命係長」は知ってる、高橋克典のドラマでしょ。ええ、そうです。間違いない。もう何度でも書く。そこだけじゃないの。男が生まれながらにして持つすべての煩悩を全肯定した作風をボクらはなめるように今こそ味わうべきなんですよ。「逃げちゃダメだ」ではなく「逃げていい」。てゆうか、なんなら全部投げ出しちゃいますけどと柳沢きみおのハードボイルド期の名作を彩る主人公たちはとにかくすべてを投げ捨てる。元プロ野球選手がサラリーマンとして順当な人生を歩んでいたのに家庭の反対も顧みずプロ復帰を目指す男の中の男の話「男の自画像」の主人公、並木雄二は会社での安定収入、地位を投げ出しあまつさえ美人の愛人も放り投げる(しかも2人!)。「俺にもくれ」では物語冒頭、いきなり家庭をぶん投げちゃいますからね、佐々木秀夫は(主人公ね)。「青き炎」の海津龍一に至っては欲望の全肯定。後輩の女子高生をたいした好きでもないのにさんざん陵辱してポイ捨て、並行して田舎のホステスとただれた生活をエンジョイ、大学入学と同時にさらにエスカレートしバイト先のホストクラブで常連客入れ食い状態、ついでに金持ち財閥のお嬢様もゲットオン。同時期に並行して連載していた「妻をめとらば」の八一とは真逆のほとばしる男性ホルモンそのままの男なわけで佐野元春風にキメるならば「このビートが欲しい!」ってことですよね。

もろもろ弱気になりがちな時代じゃないですか。だからこそ読むべき。何をって柳沢きみおをだ。
「流行唄」、「男の自画像」、「青き炎」の3作品はマストバイ。「俺にもくれ」「愛人」「妻をめとらば」は朝ドラ録画して観てる時間を削ってでも読んで欲しい。話はそれからだ。この自分勝手な主人公たちの生き様にエネルギーを貰って、タフでハードボイルドな人生を送れるようになるかもだよ。って求めてないかァ。アハ。

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