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ほつまなんきん

小学生のころ、うちは学区の中で一番遠い所に住んでいた。小学生の足で学校まで徒歩30分くらい。
対して、おばあさん(母方の祖母)の家は私の通っていた小学校の三軒となりにあり、チャイムが鳴りはじめてから家を出てもダッシュで遅刻せずにすんだと母は昔話していた。

季節は冬至、小学生低学年のころ、おばあさんはうちに「ほつまなんきん行くでー」と早朝から押し掛けてきた。6時くらいで私もまだ寝ていた時間。母だけは起きていたかな。
おばあさんは近くの生根神社に私を連れて行きたいらしかった。小学生の足で歩いて一時間位。
正直疲れるし、寒いし朝早くから一時間も歩きたくないし行きたくなかった。
でもその頃のおばあさんは強健で(結局死ぬまで強烈な大阪のおばあさんという人種であったが)逆らえる者など誰もいなかった。
かくして私はおばあさんに連れられて、小学生には近くない、面白くもない(ファミコンの方が何倍も面白いのに)神社に連れて行かれた。

生根神社では、毎年冬至の日にお祭りが行われていた。
私も実はつい先日まで知らなかったのだが、その神社のあった地域の特産品として「こつま南京」というかぼちゃがあり、その収穫のお祭りとして、焚いたかぼちゃが参拝者に振る舞われていた。
小さな私には「ほつまなんきん」という覚え間違えた謎の言葉が脳にこびりついていて、30年越しにその謎が解明した瞬間だった。

私とおばあさんは朝一番乗りの勢いで参拝を済ませて、社務所の横で行われていた振る舞いのかぼちゃを頂いた。
そのかぼちゃは、あずきと一緒に煮られていて、下にお餅が入っていた。
寒い日にとても暖かく、ホクホクとしてその甘さも体の疲れを癒してくれた。

先日ハロウィンの時にそぼろとかぼちゃを煮た際に、いとこ煮という料理の話を伺った。私はネットで調べてあずきとかぼちゃの煮物を見て「食べたことない料理だな」と思った。思っていた。

私は忘れてしまっていた。かぼちゃとあずきの煮物の味を。おばあさんと寒い中朝早く、神社に出掛けて食べたあの暖かい料理を。
テレビの取材が来ていて、その日のお昼のニュースの放送で、私のかぼちゃを食べる顔が全国に放送された事を。シャイな私はテレビカメラに向かって一言も話せず、結局一秒位の映像だったけど。
すっかり忘れてしまっていた。

このnoteで出会い、言葉を交わし、ふとしたきっかけで大事な想い出を思い出す奇跡。
その奇跡を私は一昨日の夜のスーパーで受け取った。

週末の仕事帰り、一週間の疲れでくたくたの中、スーパーでかぼちゃの売り出しがあった。冬至にはかぼちゃがいいですよーというやつ。
noteでの会話を思いだし、いとこ煮作ってみるかとかぼちゃとあずきの缶詰めを買い物カゴに入れてレシピを検索する。
いとこ煮のレシピ。作り方の画像。それらを見てふと思い付く「ほつまなんきん」という言葉。
検索する。「こつま南京」というかぼちゃのことと昔住んでいた近所の神社のお祭りの話が出てくる。
つられて思い出す、おばあさんとのかぼちゃの想い出。

このnoteは、好きなことを好きな時間に好きな文字数でつらつらと書き連ねていける。
ダラダラと書けるのは気楽でいいなーなんて、そんな雑な動機で始めたけれど、こういう事があるから好きだ。

おばあさんも別にこんな歳になった孫が思い出す想い出のために連れて行った訳ではないだろう。
しかし私の中では確かに、おばあさんとの想い出として残っていた。すっかり忘れていたけれど。

noteで出会った新しい想い出と、おばあさんとの古い忘れかけていた想い出。
掛け合わされて私の中で奇跡の出会いが生まれる。…なんて大層な物言いをしていますが、まあ単に私の記憶力が弱いだけかも知れませんけどね(なんか照れた笑)

明日は冬至。前夜だけど今日はそんなかぼちゃのいとこ煮を頂きたいと思う。

本日はここまで。素敵な出会いをありがとう。

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