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世界と言葉の関係。民族(言語集団)によって、外界の切り取り方は同じではない!?

タイトルの「民族(言語集団)によって、外界の切り取り方は同じではない」の部分の意味がよくわからい、と思った人もいるのではないでしょうか。

例えば、日本語の基礎語彙である「足」という単語がありますが、英語では「foot」「leg」などの言葉が存在します。
また、その単語が用いられている範囲(「足」という単語が体のどこからどこまでを指すか)も、それぞれの言語集団で対応しているわけではありません。

同じ「雨」という現象でも言語によって指し示す対象が違う!?

冒頭の説明を言語学の言葉で解説すると、「日本語を話す言語集団と英語を話す言語集団とでは、言語対象の分節の仕方が一様ではない」という言い方になります。

ますますわからん!と思った人もいるかも知れませんが、例えば、日本には雨に関する表現がたくさんあります。

梅雨、小ぬか雨、小雨、霧雨、雷雨、五月雨、氷雨、長雨、豪雨、時雨、春雨、緑雨、秋雨、秋霖 etc.


上記に対応する英語表現もありますが、すべての言葉を英語に置き換えることはできません。

つまり、外界の現象(=雨)に対して、「言語対象の分節の仕方が一様ではない」ということになります。

四季が明確な日本は、天候に関する言葉が豊富

上の段落では「雨」に関する日本語の表現をご紹介しましたが、四季の移ろいがはっきりしている日本では自然現象――例えば「風」や「雲」の表現なども多彩です。

風の表現
鎌鼬(かまいたち)、神渡し(かみわたし)、瑞風(ずいふう)、花散らし(はなちらし)など

雲の表現
寒雲(かんうん)、雲に梯(くもにかけはし)、雲行き(くもゆき)、卿雲(けいうん)、東雲(しののめ)、瑞煙(ずいえん)、鳥雲(ちょううん)、初霞(はつがすみ)など


すべての言語に、こんなにたくさん雨や風、雲の表現があるわけでありません。理由は、「民族(言語集団)によって、外界の切り取り方は同じではない」からです。

日本の場合、雨がよく降ったり、四季の移ろいが明確だったりするので、自然に関する言葉が多くなっているわけですね。

何十種類とあるアラブのラクダに関する言葉

一方で、例えば、砂漠地域の言語には、ラクダに関する言葉が多くあるそうです。アラビア語ではラクダの性別や年齢によって呼び名が代わり、

  • ジャルマ(ラクダの総称。8歳以上のオスを指す)

  • ナーカ(メスのラクダ)

  • ハワール(生後6か月までのラクダ)

  • ドゥハーミジュ(フタコブラクダ)

といった感じに、細かく呼び方が変わります。


しかも上で紹介したのはラクダに関する言葉のほんの一部で、「水の飲み方」や「繁殖の時期」などによって呼び方が変わるなど、アラビア語にはこの何倍もラクダの呼び方があるといいます。

これは、アラビア語を母語するアラブでは、それだけ普段の生活にラクダが密着しているということでしょう。

雨が少ないアラブで「雨」の言葉が多い理由とは?

余談ですが、アラビア語には「雨」を指す言葉もたくさんあります。

え、話が違うやん。と思った人もいるのではないでしょうか。


たしかに、日本は雨が多いから、雨に関する表現が豊かという話をしていので、雨の少ないアラブで「雨」に関する言葉が多いのは違和感があります。

ただ、これは逆の発想で、雨量の少ないアラブでは雨が貴重なもので、だからこそ「雨」をいろいろな言葉で表したのかもしれません。

環境がまったく違う2つの地域で、独自に「雨」に関する表現が豊かになっているのも面白い現象ですね。

各言語共同体で違いがあるからこそ面白い!?

近代言語学の父といわれるソシュールの概念に、「意味する内容(所記)が、各言語集団で一致していない」というものがあります。

別の言い方をすると、これまで見てきたように外界の切り取り方は、各言語集団によって一様ではないということです。


もし仮に、外界の切り取り方と言葉の関係が一様であるなら、

A言語の単語の意味は、B言語の単語の意味と一対一で対応することになり、外国語の語彙を学習する際には、ただ単語帳をもって、暗記すれば済むことになる。

出典:柿木重宜『新・ふしぎな言葉の学』

しかし、実際はいくつかの事例を見てきたようにそんなく、「身体の名称」といった基礎語彙にしても、各言語共同体で同一では決してありません。

これが語学を学ぶことの難しさや楽しさになっているとともに、言葉というもののダイナミックな一面ともいえるでしょう。


再び、ソシュールを引用すると、

観点に先立って対象が存在するのではさらさらなくて、いわば観点が対象を創り出すのだ

とのことで、私たちの目の前(外界)にあるものが「対象」となるのは、言葉として定義づけされたときに、初めてその存在を浮かび上がります。

そして、その「対象の切り取り方」は、国や民族によって違い、それが言葉としての差異にもなっているわけですね。

さいごに

国際日本学科では、語学の勉強として高度な英語運用能力の修得をめざします。それとともに、日本語についても専門的に学び、その知見を広げます。


日本語については、高校生の皆さんをはじめ、多くの方が「よく知っている」と感じているかもしれませんが、実はわかっているようでわかっていない、日本語の奥深さや“未知の部分”がたくさんあります。

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