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みんな手がかりを求めている

1983年から2021年3月まで特別支援学校に務めていました。2021年3月に定年退職。運動やコミュニケーションに大きな制約があるお子さん(重度重複障害児という表記には違和感を感じるようになりました)からとても多くのことを学びました。そのことを書き綴っていきたいと思います。


Bさんが教えてくれたこと

 前回、給食の時に「手がかりが欲しい」と伝えてくれたAさんから学んだことを書きました。その数日後だと記憶しています。

 Bさんも見えにくさがある方でした。Bさんと出会った当初、目前に提示されるものには視線を向けない様子で、それは支援者が目前で顔を見せても変わりませんでした。外出の時に、家の窓に映った太陽に視線を向けている様子をよく覚えています。

 中枢性視覚障害(Cortical Visual Impirement:CVI)の支援の手立て、つまり見えにくさを軽減する環境の工夫を重ねていく中で、目前の支援者に視線を向けるようになってきた頃のことだと記憶しています。

 Bさんはなかなか給食が進まない方でした。特に介助者が変わると(介助者は一週間から数週間で交代していました)食が進まなくなる。その理由がどうしてもわからずにいました。できることと言えば、なるべく介助者を変えないでおくことだけでした。

 その様なときにAさんから「スプーンの動きの手がかり」の大切さを教えてもらったので、Bさんにも同じ状況を用意することにしました。

 私がスプーンを持っている腕の手首にBさんの手をかけてみました。Bさんの手首は内側に曲がっていましたが、それでもなんとか手をかけることができました。すると驚くことに、その瞬間からBさんがパクパクと食べ始めたのです。介助者が変わっても大丈夫でした。そしてAさんと同じように、「食べたい」ときの引きつける動きと「今はいらない」ときの押し戻す動きはよく伝わってきました。

 私たち支援者は、「自分で食べることができないから食べさせる」とだけ考えてしまうことが多いですが、子どもたちは「何が口に運ばれてくるのか、どんなタイミングで運ばれてくるのか、わかる手がかりがとても大切で必要」だと一生懸命に伝えようとしていたのだと理解しました。

 「食べさせてもらう」ということは一見受動的に見えますが、実は子どもたちの高度な主体的な活動だと考える必要があると教えてもらいました。

 いまでもBさんには深く感謝しています。


補記  中枢性視覚障害のお子さんの支援の手立てについては以下のリンク他、としけん視機能支援部のホームページを参照ください。https://shikinoushien.org/wp-content/uploads/2020/05/okuyama-1.pdf

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