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先生のあの手紙

わたしが忘れられないのは中学2、3年のときの担任の先生のことだ。

その先生はちょうどわたしが中学2年生に進級する春に、他校から赴任してきた。

先生の名前は加藤先生。
担当は社会科。

加藤先生は
「皆さんで決めて下さい」が口ぐせで
いつもどこか飄々としていておもしろいので
すぐに生徒に人気の先生になった。


卒業式の最後のHRで加藤先生は、
赴任してきたばかりでクラス担任になるのは実は戸惑いもあったことを教えてくれた後、
クラス全員のひとりひとりに宛てた手紙を手渡してくれた。

その手紙のことばをわたしは今でもずっと頭の片隅で大切にしまっている。

人は自分のためには頑張りきれない。
「誰かのために」と思ったときに、
思ってもいなかったような力が出せる。
だからこれから先「この人のために」と思えるような人を見つけて、
素敵な人生を歩んでいって下さい。


それまでのわたしは確かにいつも自分のためになにかをやってきた自負があった。

14歳なんて自我のかたまりで
自分のことだけで頭の中がいっぱいの時期だった。
その頃の1番の目標は「留学したい」だったから英語の勉強には積極的だったし、
自発的に目標を見つけてそれに向かって進んで行くのは達成感も充実感もあった。

そんなわたしに先生がくれたこのことばは、
「大切な誰かがいるってどんな気持ちなんだろう?」という、まるで雲を掴むようなものだった。

でも確実にそれまで考えたこともなかったことを考えるきっかけを与えてくれた。



あれから20年以上が過ぎ、
36歳になった今になって思うのは、
「この人のために」と思える人のいることの
心強さを先生は教えてくれたんじゃないかなということだ。

当時は早く過ぎてしまえばいいと思っていた学生時代は、
振り返ってみるととても短くて尊い。


もしあのときの担任が加藤先生じゃなかったら、
わたしには「忘れられない先生」と呼べる先生はいなかっただろうし、
あの手紙のことばを貰うことは一生無かったのだろう。

加藤先生がどうかお元気でいてくれることを願う。



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