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あなたもきっと、世之介が好きになる。

吉田修一原作、沖田修一により映画化された「横道世之介」。
この作品は横道世之介という人間の、だいたいがわかってしまうような等身大な映画だと思う。


決して華やかな人生ではない。
けれど呆れてしまうくらい素直でまっすぐな世之介の心に、心がゆっくり溶けていくようなあたたかさを感じてしまう。

早々に映るイモくささ全開な姿で新宿をよろよろ歩く姿。
いつも汗のしみたTシャツを纏い、警戒心のかけらもない強烈な印象にさっそく愛おしさを感じてしまうのは私だけではないだろう。

世之介とその友人ら

長崎から上京してきた大学生。
天然パーマと強い長崎弁に「横道世之介」という落語家のような名前。負けずにキャラクターを発揮するのは世之介の友人でもある。

当たり障りなく出会った同級生とサンバサークルに入るというなんともシュールな幕開けだが、無神経男の倉持や阿久津唯との会話なんかにどこか親近感を感じる。

様々な出会いの形があると思うが、案外こんな面白くもない素朴なきっかけの友情が長く続いたりする。


「いや、付き合ってるっていうか…いや、そこなんだよな〜…」

ちなみに驚くのが倉持と世之介の会話がどこまでも平凡な男子大学生というところだ。サンバの夏合宿での風呂場のシーンが結構好きでキュンとする。

倉持、阿久津唯に加え、ひょんなことから想い焦がれてしまうお姉さま「千春さん」、世之介の一方的な誘いで友達になった男「加藤」、生粋のお金持ちお嬢様「与謝野祥子ちゃん」。
彼らもまた、クセは強いもののとびきり輝いているわけではない。けれどこういう人いるよな〜という感覚を思い出させてくれる。

図々しいくらい近い距離

クーラーのある家に住んでいるからと加藤の家に居候したり、弟のフリをしてほしいという千春さんのお願いもすんなり。「プールに行きません?」という祥子からの突然の誘いすら渋々ながらもついていく。(どうにも見るに耐えない光景となってしまったが)

自らを同性愛者だと思い切ってカミングアウトする加藤。てっきり動揺すると思っていた加藤に対し、キョトン顔でいる世之介。「これからも友達でいちゃまずいのか?」と前屈みで突っ込んでくる。
理解されないなら友好関係も考えていい、という少し繊細な部分を必然的に抱える加藤にとって腰の抜ける世之介の態度はウザいながらも呆れながらも、少し嬉しさを感じたように見える。

「また、ゆっくり会おうね」
お姉さまからの社交辞令に舞い上がり日程を問い詰める世之介がなんとも愛おしい。

滲み出る優しさ

大学デビューで慣れない二重メイクをしている阿久津唯の目元に気づいた世之介。冷やかすでもなく深掘りするでもなく、「目、お洒落だね」と言える優しさがすごく好きなのだ。

彼の天然さが拍車をかけるのだけど、自然豊かな長崎で人のあたたかさを当たり前に感じながらのんびり育ったんだなという印象をうける。
20年近く生きてきながら、打算的なものも器用さも持ち合わせていない。まさに純粋無垢というのはこのことかと。

「…え、じゃあさ、お金貸してくれよ?」
「いいよ。」

随所に垣間見える[ただの横道世之介]が好きになってしまうのは、このらしさにあるらしい。


時が立って彼の名を聞く時は、どうしても懐かしい思いと納得する気持ちが混在してしまう。

最後まで優しくあたたかな世之介。
祥子ちゃんもまた、どことなく世之介と同じくらい優しいのだ。


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