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「タピオカブームももう終わるな」と言う人は一生タピオカを買わないし、タピオカを売れない

安西くんという友達がいて、彼はタピオカのことをなぜかすごく嫌悪している。

「マスメディアがタピオカって言い始めたから、タピオカブームももう終わるな」
「陰キャのオタクがタピオカについて言及し始めたぞ。タピオカブームもそろそろ終わりかな」

安西くんはこの前ツイッターでそう呟いていた。

いやお前誰やねん。
お前はタピオカのなんなん。
陰キャのオタクに親でも殺されたんか。

安西くんは、よく、雑居ビルの4Fあたりのベランダから祭りを眺めたかのような発言をする。20秒ほどその祭りを見学した後、その4Fの4畳半の畳の間にでも戻って、胡坐をかいてワイドショーを観るのだ。

安西くんはきっと、原宿の子たちが4年も5年も前からタピオカミルクティーを飲んでいたことなんて知らないし、世にタピオカを商材にした店舗がどれほどあるかなんて調べたこともないだろうし、何ならタピオカを飲んだこと自体、ないかもしれない。

みんながいいと言っているものに対して、冷笑的に俯瞰する行為は楽しい。


「同じ一つのものに群がってきゃあきゃあ騒いでいる皆とは違う」ということを手軽に表明し、アイデンティティを確立する楽な手段だ。
「一段上から見ている自分は視座が高い」という、なんとなくみんなより上位にいる感覚を味わえる手段でもある。

「タピオカブームももう終わるな」と言うとき、安西くんは、タピオカを飲んでいる人よりも、あるいは東京タピオカランドに熱狂する人たちよりも、一段上の立場からものごとを鳥瞰しているという感覚に浸っていると思う。

けれど、だいたい「もう終わるな」みたいに言った後は、梅雨早く明けないかなとか、会社の上司がむかついたとか、もう関係なさ過ぎてびっくりするようなツイートをしている。興味がないのだ。
興味がないだけならまだいいんだけど、特に知りもしないのに、なんとなくで「もう終わるな」とか言っているのだ。
特段興味もなく、分析するつもりもなく、中身もそんなに見てないのに、「もう終わるな」って言ったら先見の明があってかっこいいっぽいから、言っている。

だって安西くんは、パンケーキの時だって、フレンチトーストの時だって、
「エッグスンシングスとかいうのに行列ができはじめたからパンケーキブームなんてもう終わるな」
「加藤がフレンチトーストの写真インスタに上げ始めたぞ。フレンチトーストブームなんかもう終わるだろ」
といっていた。

安西くんはいつも、その熱狂の中に入っていったり、渦を真正面から分析して原因を探ったり、そういうことをせずに、表層の0.5ミリくらいにだけ触って、「あーなるほどね」みたいな顔をして、
全部わかったように「もうそろそろ終わる」なんて涼しい顔して言うのだ。

私は、安西くんを見ていると辛いというか、悲しくなってくる。なぜなら、彼はすべての事象に対して、表層だけ触って「あーなるほどね」という顔をして去っていくからだ。彼はタピオカを買って飲んで「あ、意外とおいしいかもね」とか「なんかぬちょぬちょしてるね」とか、くだらないことを友達と言い合う時間を人生に持たない。
かといって、なぜ皆がタピオカに熱狂しているのかを考えて、その熱狂を利用したコンテンツや商売を考えてひと盛り上がりするような熱も持たない。
彼はいつも、ただ、祭りを上から見下ろして、鼻で笑って部屋に戻ってワイドショーを観る。そんな彼の、何も起きない人生に、私は悲しくなる。

実は、安西くんはタピオカについてツイートしていないし、
パンケーキについてもフレンチトーストについてももう終わるなんて言っていないし、
安西くんは私の友達ではないし、
ていうか安西くんなんて存在しない。

しいて言うなら、安西くんは、私の心の中に住む15歳の子どもだ。
(別に安西“くん”である必要はない。安西さんでも安西ちゃんでもなんでもいい。)
私は常に、心の中に安西くんを飼っていて、すこし心が怠惰になると、彼が「タピオカブームももう終わるなってツイートしろよ」ってにやにや小突いてくる。
けれど私は抵抗する。
私は、特に美味しいと思わなくなって、皆が好きなタピオカを飲んでなんで好きなのか考えてみたいし、特に好きじゃなかったとしても、なんでタピオカが売れているのかを一生懸命勉強して、
今後の仕事に活かせるところがないか考えてみたりしたい。
そうして、安西くんとけんかする。

カッコつけたがりで面倒くさがりな、お手軽に視座の高さを見せつけたい、小さな自分が、いつも心の中に住まっている。

そんな自分とけんかしながら、少し頑張って背中を押しながら。
面倒でも、かっこ悪くても、私は、その熱狂に足を踏み入れてみたい。
その熱狂について考えたい。

おばさんでも、面倒くさくても、タピオカを買うし、売る人を目指すのだ。


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