自分の手

つい最近まで絵の具まみれだった手。
少し長いくらいの爪にお気に入りの色を乗せて、ふとした時にその色が目に入るのが好きだった。もともとお洒落は苦手で、ブランド物みたいな服は着なかったし濃いお化粧もしなかった。でも、手だけは女性らしく見えてて、自分の体のパーツで唯一好きだった。

調理関係のお店で働く今の手。
短く切りそろえられた爪。マニキュアは塗れない。絵の具も頻繁には使わなくなった。染み付いた油絵の具の匂いが、料理の匂いに変わった。絵の具のかわりに付いたのは火傷の跡や切り傷のくすんだ色。

べつに嫌いじゃない、嫌でもない。
ただ少しだけ寂しくなる。悲しくなる。

たぶん、ちょっとだけ心が削れたんだろう。

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