ピーチティーとレモンティー3
彼はいつものコンビニに入り、ピーチティーを手に取った。
「ん?」
僕の視線に気付いたのか、不思議なものを見るような目で彼は僕を見ている。
「兼近くんの役に立ちたい……」
あの日、気付いたら知らない部屋の中にいて、体中の怪我が手当てされていた。
驚いて周りを見ると沢山の喧嘩相手の姿があって、彼もその中にいた。
普通なら身の危険しか感じないと思うんだけど、なんとなく、本当になんとなく、あそこにいるよりは安全な気がしたんだ。
それから僕は母に泣いてお願いし、転校させてもらった。
彼のいる学校に。
「はぁ……」
ため息をついた彼はピーチティーとレモンティーを1個ずつ取りレジに向かった。
「あ、僕払います!」
僕が財布を出した時には既に遅く、彼が払ってくれた。
「お前はレモンティーな」
「えっ?」
そう言って彼は僕にレモンティーをくれた。
彼は僕に暴力を振るわないし、お金を要求してくることもない。
パシられはするけど、代金はくれる。
彼には好きでパシられてるんだけどね。
「お前にピーチティーはまだ早ぇ」
「でも僕強くなりたい!兼近くんの役に立って恩返ししたい!」
「だから、あの時連れてきたのは俺じゃねぇって言ってんべや」
うん、運んでくれたのは彼じゃない。
それは知っている。
でもあの時、気を失っていた僕に1番に声を掛けてくれたのは絶対に彼だった。
それに、周りに聞いたら教えてくれた。
彼が僕に声を掛けてくれて、僕を運ぶように言ってくれたのも彼だと。
彼を筆頭に、周りがみんな僕に優しくしてくれる。
こんな幸せな環境にいられるのも彼のお陰だ。
でも、彼が認めたくないならもうそれでいいや。
「兼近くん!」
「あ?」
僕を面倒そうな表情で見る兼近くん。
このダルそうな感じもかっこいい。
「レモンティーありがとうございます!」
「おう」
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