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「企画を通すには、センスやロジックよりも『君に任せたい』と思わせる信用と実績が9割」高橋弘樹さんの仕事の流儀

「結局、企画は通してなんぼの世界なんですよね」と話す高橋さんは、とても活き活きとしているように見えた。

(左)高橋弘樹さんと(右)阿部広太郎さん

コピーライター・作詞家の阿部広太郎さんが主宰する「自分の物語をつくるための連続講座・企画でメシを食っていく2023」は中盤に差し掛かっている。

第4回『映像の企画』のゲストは、現在、ABEMAで演出・プロデューサーを務める高橋弘樹さん。

彼が担当し今夏配信された『世界の果てに、ひろゆき置いてきた』が記憶に新しい人も多いだろう。

運営するYouTubeチャンネル『ReHacQ』の配信も頻繁に行い、鋭い切り口で人々の興味関心を惹きつけ続けている。

18年間務めたテレビ東京を退社した後も、常に「見たことないおもしろさ」を届け続ける高橋さんの魅力を、今回は『言葉の企画2020』の企画生・きゃわのがお届けしたいと思う。


メディアに影響された多感な時期

阿部さん:10代の頃、最初に自分で何かを企画したという思い出はありますか?

高橋さん:小学生の頃は、別に誰に頼まれるわけでもなく壁新聞を作ってましたね。承認欲求と表現欲求が強かったんだと思います。

阿部さん:なるほど!自分が見聞きしてきたことを誰かに伝えるというのが、今、高橋さんが作られてる映像に近しい気がしました。

10代の頃はドキュメンタリー番組やバラエティ番組を“人並みに”摂取していたという高橋さん。

中高生の頃には『朝まで生テレビ!』が好きで観ていたり、ワイドショーでも多く取り上げられているからという理由で政治分野に興味を持ち始め、政治家を目指し政治学科に進学。

政治家の秘書のアルバイトを経験したが、就職活動の頃には政治家を目指すことは辞め、銀行や保険会社なども受けた中でたまたま辿り着いたのが「テレビ業界」だったという。

信用と実績を積み重ねる新人AD時代

若手の頃は、とにかく目の前の仕事を一生懸命やることを意識していた高橋さん。当時は1週間のうちに家に帰れるのが1~2日、仮眠室で寝て仕事をする日々が4~5年続いたそうだ。

そんな日々でも擦り切れずに続けてこれたのは、映像の世界が奥深く、自分も早く一人前になりたいという気持ちが強かったから。そして、先輩たちの作るものが面白く、当時はそのコツが無限にあるように見えて早く追いつきたかったから。

「最初の半年はこの作業に何の意味があるのか、技術的なことも完璧にはわからないんですね。60分の番組を作るのに30〜40本のテープがあって、指示を出されてもパソコンの中で何が行われているかもわからない。早くディレクターになって映像を作りたかったら、いっぱい仕事をした方が覚えるだろう、というのが当たり前だと思っていました」

同期が華やかな現場に参加する中、高橋さんはあえて試練だと思う現場に真剣に向き合っていたという。その懸命さが現場でも認められ、巡り巡って会社からの“信頼ポイント”が貯まっていった。

『置かれた場所で咲きなさい』とよく言われるけど、自分が興味のない場所に置かれないようにするのも結構大事なんですよ。だけど、やるからにはちゃんと成果を出したい。それがブランドの基礎になります。嫌でも、巻き込まれたら好きになれるように頑張りました」

「勝負する道」を決めて企画を通す

「企画は通してなんぼの世界。ただ正直、企画の内容はあまり関係ないんですよね。企画のロジックやセンスは1〜2割必要だけど、訓練すれば身につくものだから。残りの8〜9割は信用と実績でしかないですよ」と語る高橋さん。

テレビ業界は、半年に1回ほど企画募集があるそうだ。

1年で約1000通もの応募があり、その中で企画が通っても4、5個。それだけ応募があったら、誰かしらの企画はかぶる。だから、「誰に任せたら面白くなるか」が大事になってくる。

どんな戦略で企画を通していくのかは、様々な道がある。高橋さんのように演出力で企画を通す場合もあれば、芸能界との関係性を築きブッキング力で企画を通す方法もある。時には、社内のパワーバランスで企画が通ったりもする。

「ディレクターは2ヶ月に1本くらいVTRを作って、プロデューサーに試写してもらうんです。そこで僕はあまり滑ったことがなくて。だから、『高橋を番組に入れておくと良いな』みたいになって。『人の企画を任せても面白くするから、高橋に企画も任せてみるか』って」

入社3年目に渾身の企画が通らなかったという高橋さんがようやく自分の企画が通り始めたのは、5〜6年が経った頃だったそうだ。

傷に魔法をかけると企画になる

後半は課題の講評。高橋さんからの課題は、番組の企画書を1枚でまとめることだった。

「まず企画書を作る大前提として、初めの2行で企画の内容がわかるようにすることが大事ですね。そして、体験談をストレートに企画するのではなくて、そこに一発魔法をかけましょう

例えば、会社に苦手な上司がいるとする。上司に怒られる苦痛を回避するために「美女に怒られている」と妄想する。そんな高橋さんの実体験をもとに魔法をかけて作られたのが『吉木りさに怒られたい』だった。

高橋さんが良いと講評した企画書は、“考えられたもの”だった。

他の企画生の企画書は文字数が多くなるのではと考え、できるだけ余白を意識し、その企画書はシンプルにまとめられていた。暗闇の中にある公衆電話が中央にぽつんと佇み、その横にタイトルとボディーコピーがあるだけで、その他の説明はできるだけ下部にまとめられていた。

やっぱり考えるって強いですよね。自分がこうしようということだけじゃなくて、他の人がどうするかを考えられていることで一段深くなるんですよね。設定も具体的で興味もあります。どういう作り手を連れてこれるかですが、ドラマの企画としては成立しそうですよね」

企画とは「やりたいことをやるための手段」

阿部さん:最後に、高橋さんにとって、企画とはどういうものですか?

高橋さん:企画は、やりたいことをやるための手段ですね。何のためにこの仕事をしているかというと、自分に描きたい世界があって、社会に対して表現したいことがあるからで。それを実現するための手段でしょうか。あと「企画書」って大きいお金が動く魔法の紙なんです。不思議ですよね。

当日の講義が始まる直前まで“画面の前を一歩も離れず”仕事をしていたという高橋さん。今は家族との時間を確保するためにも昼夜問わず働くことはできないので、いかに「密度」を高めて仕事をするかを意識しているそう。

『ReHacQ』の名称は、中国古代の詩人・李白からとられている。学生時代に漢詩が好きだった高橋さんは、物事のミクロとマクロを行き来する李白の視点に影響を受けているという。

『世界の果てに、ひろゆき置いてきた』にも文学的な要素を活用し、彼の独特な編集・構成で人気を集めた。圧倒的な仕事量とスキルを着実に身に着けた彼が、今「やりたいこと」とは何なのか?

これから生み出される高橋さんの企画も、1秒も見逃せない。

執筆:きゃわの(言葉の企画2020)
編集:阿部広太郎

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