魔剣使いのリリィさん①

「んー!今日も天気がいいなぁ」
私はゆっくりとベッドから出て窓のカーテンを開けた。
空の青がとても眩しい、暖かな光は今の季節だとほんの少し汗ばみそうだ。
初夏の朝…これから何かいいことが始まる様な、そんな予感さえさせる。
「ご飯でも食べようかなぁ」
私は寝室を出て、キッチンへと向かう。
食材を確かめて、朝ごはんを作り始めた。
ジュー
美味しそうな音である、目玉焼きの焼ける音に、私は思わず微笑み、出来た目玉焼きとトーストをテーブルに置いた。
コーヒーを淹れて、席に座る。
「いただきまーす!」
ぱくぱくと私は朝食を食べ始めた。
とても気持ちのいい風が、開け放たれた窓から吹き込んでくる。
その日私は新たな旅立ちの日を迎えていた。


私の名前はリリィ・アンダースロープ
18歳
髪の色ははちみつ色、瞳の色はグリーン。
私はある特殊なことが出来る。
私はキッチンから出て、リビングへと来た。
そして
リビングに立てかけられているのは、一振りの剣だ。
物々しい雰囲気の剣。
シルバーの持ち手、同じ素材の柄。
真紅の鞘。
柄についた紫の宝石が怪しく光る。
この剣は魔剣だ。
魔剣・セルシスリード
この剣は持ち手を選ぶ。
私リリィはこの魔剣の唯一の持ち主なのだ。
魔剣に選ばれた魔剣使いのリリィとして
魔剣に選ばれたこと、それは私の住むこの国の人々も良く知っている。
ウェザード王国、私の住んでいる国だ。
首都シルベスタ、この国の首都であり貿易の中心だ。
主な特産品は銀細工。
この国には銀の鉱山がある。
そこから掘り出した良質の銀で細工したアクセサリーなどを売り出すのだ。

私たちの様な武器を持ち戦う者たちは冒険者と言われる。
剣を使う者、槍を使う者、様々だが魔法を使う者もいる。
魔法使いと呼ばれる人種たちは、特別な存在である。
その力は絶大で、この国の中でも地位の高い職業である。
その魔法使いまでは及ばずとも、私の様な魔剣使いという存在がわずかにいる。
魔剣とは、特殊な力を封じられた剣で、魔法を使うのと同等の効果を発揮する。
この剣セルシスリードにも特殊な力が宿っている。
私はまだこの剣と出会って2ヶ月だが、その力の片鱗を感じつつあった。
属性は闇。
光を受け付けない圧倒的な闇の力だ。
闇を呼び、相対した者の魂を食べてしまう。
そう、この剣は魂喰い、ソウルイーター。
それがこの剣の力だった。
私はまだ剣士としては駆け出して、本来ならこんな魔剣など手に入れるはずのない身分だ。
なのに私はこの剣に選ばれた。
何故かはわからない。
自分に特別な力など感じたこともない。
ただ剣を振り、強くなることだけを目指して生きてきた。
その私が魔剣使いになった。
私と同時期に剣術道場に居た同期たちにも、なんであいつが?と言われている。

そうだ、私は特別強い訳じゃないのだ。

私にもわからない、この状況。

私はゆっくりとコーヒーを飲みながら、今日の予定を考えていた。
この後身支度をし、騎士団の詰め所に行く。
今日は公開演習の日。
私はそこで魔剣の力を見せることになっていた。
魔剣使いになった私のお仕事は、こうやって魔剣の力を示すだけではなく、ダンジョンに入って魔物を討伐したり、駆け出し冒険者のサポートをしたり、道場に呼ばれたりする。
結構忙しいのだ。

私は身支度を整えた。
私の姿は軽い革のアーマーに肩当て、黒いパンツにロングブーツ。
そして右手に魔剣を持った。
ずっしりと重いはずのその剣は私の手の中で軽々としている。
まるで羽の様に重さを感じない。
他の者が持とうとしても、剣が急に重くなり持つことは出来ないのだ。
これが私が魔剣に選ばれた証拠。
魔剣使いになった証拠なのだ。

私はゆっくりと家の門を出た。
家の東の方向に、大きなお城が見える。
そのお城に騎士団の詰め所があるのだ。
コツコツと足音をさせて、道を行く。
途中の道では誰とも会わなかった。
詰め所につき、人を呼ぶ。
「良く来て下さいましたね、リリィさん!」
詰め所には騎士団のメンバーがいた。
そして私に声をかけてきたのはこの騎士団の実質No.2。
ルーク・ファブネルだ。
歳は私よりだいぶ上の32歳。
剣の腕前もさることながら、とても人当たりのいいタイプだった。
「今日はリリィさんの魔剣捌きを直に見られるということで、みんな楽しみにしていたんですよ!」
ニコニコと優しそうな顔でルークが言う。
「ありがとうございます、ルークさん。私も光栄ですわ。」
騎士団の面々は好奇心丸出しの顔で私を見ている。
魔剣の力を試すなんて、本来ならとてもじゃないけど受け入れない仕事だ。
なんせ、この剣は魂を喰うのだから。
私はその力は見せないつもりだった、ちゃちゃっとパフォーマンスして終わりにしよう。
「リリィくん、良くお越しになられた。」
私の背後から声が掛けられる。
私が振り向くとそこには年配の白い髭の老騎士が立っていた。
彼の名はフェスト・ノヴァ。
実は彼がこの騎士団の団長だった。
歳は重ねているが体力は無尽蔵で、その実力は随一である。
力もさることながら、人望も厚い人格者だ。
「ファスト様、お久しぶりでございます。」
「堅苦しい挨拶は抜きだぞ、リリィくん。早速だが、今回はこちらのモノと戦ってもらいたい。」
私はフェストの言葉に驚いた。
まさか実戦をすることになるとは。
フェストの指差した先には1匹のモンスターがいた。
大きく黒い姿、威嚇する口からは牙がのぞく。
大きな狼の様な姿だ。
「これは…」
「先ほど街の外れで捉えられた。ダンジョンからやってきたらしい。暴れ回る前に捉えられたのは幸運だったな。このモノと戦ってもらいたい。」
私はフェストの言葉に、そのモンスターをまじまじと眺めた。
大きなこのモンスターでも、私の魔剣の力を解放すれば、すぐに天に召されるだろう。
私はフェストに向き直った。
「フェスト様、こちらのモンスター、私がどの様に扱っても問題はございませんか?」
「無論だよリリィくん。よろしく頼む。」
私はフェストから離れ、モンスターに向き合った。
モンスターは鎖に繋がれてはいたが、抑えている騎士団員の手から今にも飛び出しそうに興奮していた。
私は魔剣を鞘から抜き放った。
青く輝く刀身。

これが、私と彼との出会いだった…。



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