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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(12)発見と行動のための対話(DAD)

 今回取り上げるのは「発見と行動のための対話(DAD:Discovery & Action Dialogue)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はこちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 発見と行動のための対話(DAD)は、グループやコミュニティが、ある個人が(特別な資源を利用できず、同じ制約に直面している)共通の問題に対して仲間よりも優れた解決策を見出すことを可能にする実践や行動を発見することを容易にします。これらは良い意味での逸脱(PD)行動または実践と呼ばれます。DADは、グループ、ユニット、コミュニティの人々が、これらのPDの実践を自ら発見することを可能にします。DADはまた、参加者が安心してより効果的な新しい実践を生み出すことができる空間で、参加者の創造性を刺激する好条件を生み出します。どの実践を採用するか、どの問題に取り組むか、参加者が自由に選択できるため、変化に対する抵抗がなくなります。DADは、解決策を現場のオーナーシップで実現することを可能にするのです。

”LS Menu 10. Discovery & Action Dialogue (DAD)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 ここに書かれているように、参加者たちが改めて自ら問題を分析しなおし、今までとらなかった解決のための行動(良い意味での逸脱)を導き出すことを目的としたLSである。

5つの構造要素

1.始め方
・グループ、ユニット、コミュニティの人々の間に隠されている、共有された課題に対する暗黙の解決策を発見するために人々を招待する。問題解決に関心のある人に、小グループに参加し、DADに参加するよう依頼する。グループ内で、7つの改善をもたらす質問をする。
(1)問題Xが存在するとき、どのようにして理解していますか?
(2)問題Xの解決に効果的に貢献するには、どうすればよいですか?
(3)いつもこのようなことをしたり、このような行動をとったりするのを妨げているものは何ですか?
(4)あなたは、問題 X を頻繁に解決し、障害を克服している人を知っていますか?どのような行動や習慣が、その成功を可能にしたのでしょうか?
(5)何かアイデアはありますか?
(6)それを実現するために必要なことは何ですか?ボランティアはいますか?
(7)他に参加する必要がある人は?

2.空間の作り方と必要な道具
・DAD は、狭い範囲の人々またはひとつの編成集団単位(unit)で行われる。
・グループは、立ったり、座ったりしてテーブルを囲む。
・気づきと行動を記録するために必要な紙、フリップチャート、またはPC画面を写すプロジェクター

3.参加の仕方
・進行役が質問を紹介する。
・周りにいる人全員を招待し、参加させる。
・グループ内の全員に平等に貢献する機会が与えられる。

4.グループ編成の方法
・進行役は、記録係としてパートナーと協力する。
・グループの人数は5~15人。
・役割と経験の多様性は重要である。

5.ステップと時間配分
・このの目的とDADを説明し、相手を交代しながらの簡単な自己紹介を求める。5分。
・7つの質問を順に1つずつする。グループ全体に向けて質問し、各質問に対して全員が発言する機会を与える。思いがけない時に、大きなヒントが得られるかもしれませんので、記録係を配置して記録しておきましょう。15〜60分。
・記録係に、気づき、行動アイデア、他に参加させる必要のある人物をまとめてもらう。5分

”LS Menu 10. Discovery & Action Dialogue (DAD)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 このLSの一番のポイントは「始め方」にある(1)〜(7)の問いにある。この7つの問いがこのLSの全てといっても過言ではないくらいだ。この問いの順番を守って皆の声を反映させながら、検討を積み上げていくということである。

(2023.2.8追記)
 この問いについて、裏にある狙いも含めて、より詳細な表が紹介されているので以下に日本語訳版を示しておく。

”LS Menu 10. Discovery & Action Dialogue (DAD)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 問い以外の進め方の説明は比較的、シンプル(その分、大雑把)であるが、ファシリテーションのコツについて紹介のページに「してはいけないこと・すべきこと」の表があるので、以下に日本語訳をつけておく。

”LS Menu 10. Discovery & Action Dialogue (DAD)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・困難な課題を解決するために、現場の人々を巻き込む。
・常識から逸脱した暗黙の行動や慣習を発見する。
・新たな解決策の出現を喚起する。
・複雑な問題を解決するための行動を強制するのではなく、鼓舞する。
・解決策を外から持ち込んで押し付けるのではなく、現場で発見し、新しく作ることで持続的な変化を生み出す。
・ローカルな問題をローカルに解決し、その勢いをユニット全体に広げる。
・問題解決のために協力し合うことのない多様な機能、レベルの人々の間に関係を構築する。

”LS Menu 10. Discovery & Action Dialogue (DAD)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 問題を解決するのは自分たちなのであり、自分たちで考えなければならない。そして自分たちの足元に解決につながる知恵が眠っているという考え方が感じられる。

 コツとワナ
・質問(2)は、問題が自分にどのように影響するかという部分と、他の人にどのように影響するかという部分の2つで構成されていることが多い。例えば、「感染から身を守るために何をしていますか、または、感染の拡大を防ぐために何をしていますか」「生徒の関心を引くために何をしていますか、また、自分自身の活力と熱意を保つために何をしていますか」など。
・参加者が働いている場所でDADを開催し、参加への障害を最小化する。
・その場をスタートするときに、即席の招待状を作成しましょう。
・自己紹介と適切な場合は逸話から始め、固苦しくない「雰囲気」を作る。
・アイコンタクトを保ち、グループと一緒に座る(高い位置や離れた位置には座らない)。
・参加者よりも口数が少ないことを確認し、全員がストーリーを共有し、行動の機会を「ふるいにかける」ようにする。
・第3部の「現場からの話」にある「感染症予防のための行動変容をドラマチックに」のように進める。
・何が正しいか間違っているか、頭の中で判断していることに気づき、それを10まで数えてから発言する(記録係やファシリテーターに手伝ってもらう必要があるかもしれない)。
・「それは良いアイデアですね」といった発言は避け、参加者が自分で判断できるように余裕をもたせる。
・質問には答えず、皆の貢献に真の好奇心を示す: 仕事をする人の足元で勉強すること。
・課題を与えたり、受けたりしない。
・このようなファシリテーションの手法を高いレベルで身につけるには練習が必要であるため、自分を厳しく評価しないこと。必ず記録係に直接フィードバックを求めること。

”LS Menu 10. Discovery & Action Dialogue (DAD)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 最初の2つめの問いに対する指摘は重要で、問題を自分ごとの部分と他人にどう影響するかの部分に切り分けてそれぞれ考えていくことで問題が「自分ごと」になる。他のコツもいかに問題を「自分ごと」にさせるかというところに集中している。

繰り返し方とバリエーション
・最初の3つの代わりにTRIZ的な質問を使う、すなわち、
(1)問題Xがもっと悪くなるようにするために何ができるのか?
(2)あなたがやっていることの中に,今挙げた慣行のどれかに似ているものはないですか?
(3)これらの実践を止めることを妨げているものは何ですか?
・浮かび上がった洞察や障壁をもとに、「即興劇プロトタイピング」のための台本を作成し、即興セッションを開催する。
・1対1の会話でも、同じ順序とタイプの質問を使う。
・バーチャルでのグループにおいては、チャット機能を使って各質問に対する回答を共有し、グループ全体の声が反映されるようなパワフルなストーリー/行動/アクションを選択してます。

”LS Menu 10. Discovery & Action Dialogue (DAD)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「TRIZ」はLSの一つである。これについては以下の記事で紹介している。確かに、問いの立て方として参考になる。

 また1対1のコーチングのような場にもそのまま持ち込めるということである。問いに沿って考えれば確かに1対1(一人でも)考えていけそうだ。

 「即興劇プロトタイピング」については以下の記事で紹介している。問題が対人間のものであれば効果を発揮するだろう。


事例
・患者への安全性の欠如(例:誤操作、患者の転倒、投薬ミス、異所性感染)を、部門横断的なグループで一緒に減らすために。トロントのUHNで行われた、感染症の伝播を減少させるためのDADを撮影したビデオがある。
・多施設共同研究プロジェクトにおけるエスノグラフィーデータ収集ツールとして使用。
・専門家がクライアントの非生産的な行動を変えるのを妨げている慣習をなくすために。
・地域住民が慢性的な問題(例:教室で騒ぐ子供、犯罪者を罰するだけでは解決しない暴力の連鎖)の解決策を見出すための一連の地域対話に使用する。
・専門的なコンピテンシーを構築するための研究と行動を解き放つために(例:医学部や社会福祉施設において)。第3部の「現場からの話」で紹介される「医師教育のためのコンピテンシー開発」を参照。
・困難な課題に対するアプローチを見つけるために、1対1の会話で使用する。

”LS Menu 10. Discovery & Action Dialogue (DAD)”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 第3部「現場からの話」は事例集で、LSの公式ページの中のコンテンツとして15の事例が紹介されているが、そのうち2つがこのDADに関係している。どのような分野でも一定の成果が出そうな普遍的な問いがこのLSの中心となっているので使い勝手は良さそうだ。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 「始め方」の(1)〜(7)の問いは、問題の分析から解決までの流れができているのでレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのワークでも応用できそうだ。そのまま少しずつモデルを作って加えていって、一つのテーブルに問題の構図と解決策を表現でするようなワークになりそうだ。

 問いを中心としたLSになっているため、その進め方については特段の工夫がなく、結果として「このようなファシリテーションの手法を高いレベルで身につけるには練習が必要である」というコメントが「ワナ」の中に書かれている。この点についても、参加者がフロー(集中力が高まって創造的な思考が展開されやすい状態)に入って前のめりに参加しやすいようなプロセスが確立されているレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドで行うメリットは大きそうだ(このLSで紹介されている標準時間よりもかかるので、そのこととのバランスを考える必要がある)。

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