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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(18)援助のヒューリスティクス

 今回取り上げるのは「援助のヒューリスティクス(Helping Heuristics)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 参加者は、自分自身の相互作用のパターンや習慣について洞察することができます。ヒューリスティックスを活用することで、どのように他者との関わり方を変えることができるかを、実践的な手法の積み重ねによって体験することができます。ヒューリスティックスとは、新しい状況に入ったときに、何が重要かを見極めるための近道です。ヒューリスティックスは、自分自身の相互作用のパターンを深く理解し、より賢明な判断を素早く下せるようにします。一連の短いやりとりの中で、生産的な助け合いのためのヒューリスティックスや簡単な経験則が明らかになります。ぜひお試しください。

”LS Menu 16. Helping Heuristics”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 上記の文章のキーワードである「ヒューリスティックス」は心理学やそれを取り込んだ行動経済学でよく使われている用語である。複雑な計算や熟考を経ずに、手短に答えを得ることができる経験則や判断方法のことである

 手短に答えを得る分、短絡的になり合理的でない行動につながってしまうときがある。そのネガティブな面に注目して語られることが多いが、実際に私たちはかなりの程度ヒューリスティックスを経験から構築し、それを使うことによって、一つ一つ判断に思い悩むこと少なく快適に生きることができている。この傾向を「人間は認知的倹約家である」といったように表現することもある。

 ヒューリスティックスの負の側面や、その研究から何を心に留めておかねばならないかを解説しているものとしては、以下の本の評価が高い(著者のダニエル・カーネマンは2002年のノーベル経済学賞の受賞者である)。

 このLSでは、こうしたヒューリスティックスのネガティブな面ではなく、かなりの場面で役にたつヒューリスティクスもあるのだとポジティブな面に焦点を当て、効果を上げやすい4つの応答パターンの修得を狙いとするものである

5つの構造要素

1.始め方
・参加者に、すべての人間関係を、受け入れるかブロックされるかのオファーとみなすよう促す(例:即興劇アーティストは、すべてのオファーを受け入れるよう訓練されている)。
・参加者に行動、反応、または4つのパターンの相互作用を観察してもらう。
・自分のパターンを振り返るとともに、助けを求めたり、提供したり、受け取ったりする方法を変えることを検討するよう促す。
2.空間の作り方と必要な道具
・参加者は何人でもよく、立って行う。
・対面して立つ人の邪魔になるようなテーブルを置かない。
3.参加の仕方
・誰もが等しく学び、貢献する機会を持つ。
・参加者はアクティビティの進行に応じて3つの役割のいずれかに切り替わります。
4.グループ編成の方法
・ 3人で1グループ:対面してやりとりするクライアントとコーチ、そして横でそれをみるオブザーバーが各1人ずつ。
・グループ全体による報告会をする。
5.ステップと時間配分
・1~2分間の即興でのやりとりを4ラウンド行うことを説明する。2分
 →グループでは、1人のメンバーを「クライアント」、2人目を「コーチ」、3人目を「オブザーバー」として選ぶ。役割はラウンドごとに同じでもよく、変えてもよい。4ラウンド目には、5分間のディブリーフィングを行う。
・各ラウンドで、クライアント役の人は、自分が情熱を注いでいる課題を共有する。オブザーバーが見ている中、コーチは以下のようにラウンドごとに異なる一連のパターンで応答する。
 (1)最初のラウンドでは、応答パターンは「静かな存在」:コーチは思いやりのある聴き方ですべての申し出を受け入れる(「聞く・ 見る・尊ぶ (HSR)」を参照)。2分
 (2)2ラウンド目の応答パターンは「発見を導く」:コーチはすべての申し出を受け入れ、相互発見のための質問を導く(「真価を見出すインタビュー」を参照)。2分
 (3)3ラウンド目の応答パターンは「愛ある挑発」:コーチはアドバイスを差し挟み、クライアントが見ていないものをコーチが見たときには受け入れ、必要に応じてブロックする(「トロイカ・コンサルティング」を参照)。2分
 (4)4ラウンド目の応答パターンは「プロセス・マインドフルネス」:コーチとクライアントは、互いからのすべてのオファーを受け入れ、斬新な可能性がどのように増幅されるかに気づきながら、知性の限りを尽くして対話する。2分
・クライアント、コーチ、オブザーバーが経験した、4つの支援のパターンすべての影響を報告する。5分
・報告に基づいて、参加者全員が様々な反応パターンを練習するために、すべてのラウンドを繰り返すか、一部のラウンドだけを繰り返す。

”LS Menu 16. Helping Heuristics”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 4つの応答パターンのうち3つは他のLSとも密接に関わっているものである。このうち2つ目の「真価を見出すインタビュー」と3つ目の「トロイカ・コンサルティング」については別のNoteで詳しく紹介している。

 1つめの「聞く・ 見る・尊ぶ (HSR)」もLSであるが、またの機会に紹介したい。

 4つ目の「マインドフルネス」については、本当はトレーニングを経ないとなかなか掴みにくいといえる。基本は「今、起こっていること(話されていること)」に全ての注意を向け、それを受け入れることから見えてくることを知ることである。そのような精神状態に持っていくために、呼吸の方法とか、その先の瞑想などの技術があるが、そもそも「マインドフルネス」というものがどういうものかイメージを持つことから入るのが良いと思う。

 そのために以下の本が参考になる。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・援助を与えたり、求めたりする際によくあるエラーや罠を減らす、またはなくす。
・望まない援助の与え方のパターンを変える。悪い例:早すぎる解決、必要のないアドバイス、アドバイスを使わせようとするプレッシャー、次のステップに進むのが早すぎる、援助しすぎないよう努力しすぎる。
・援助の求め方の好ましくないパターンを変える。悪い例:不信感を抱く、本当の問題を共有しない、主体性のない助けを受け入れる、助けではなく承認を求める、十分に得られないことに憤慨する。

”LS Menu 16. Helping Heuristics”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 援助をする側と援助を求める側の双方に失敗を導く態度があるという指摘は興味深い。「コーチ」だけではなく「クライアント」にもトレーニングが必要だということだ。

コツとワナ
・ラウンドごとに役割を変えるように促す。
・信頼関係を築き、謙虚に問いかけ、互いに発見しあう風土を作る。
・クライアントが自分自身の解決策を見出すのに役立つパターンに焦点を当てる(グループでの自己発見)。
・地位の違い、環境、ボディランゲージ、態度、微妙なシグナルを無視しない。
・4ラウンドの最初のサイクルを、一つの応答パターンに深く取り組むための準備として使うことができます。
・最初のサイクルの後、3人がグループ内で焦点を当てたい応答パターンを選択する。

”LS Menu 16. Helping Heuristics”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 信頼関係を気づくための、基本エチケットは参加者に最初にしっかりと伝えることがスムーズに進めるためのポイントになりそうだ。

 また、4つのパターンを全てを学ぶことは大事であるが、参加者本位の場にするために参加者が焦点を当てたい応答パターンを選ばせるという工夫も参考になる。

繰り返し方とバリエーション
・参加者に自分のプロフィールを作成してもらい、自分の基本的な応答パターンと成長機会を自分で認識させる。
・参加者相互の与え合いに焦点を当てている他のリベレーティング・ストラクチャーに援助の仕方の進歩を取り入れる。「トロイカ・コンサルティング」、「賢い群衆」「私があなたに望むもの」「即興劇プロトタイピング」、「シンプル・エスノグラフィー」。
・「楽しい」パターンから始める:パターン例:中立(ゼロ反応)、無視や割り込みによるブロッキング。

”LS Menu 16. Helping Heuristics”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 自分が普段どうであるかということを最初に認識させるというのは、他のワークでもワークの効果を上げる一つの手法である(その認識で気持ちが暗くなりすぎると逆効果になることもあるが)。

 「トロイカ・コンサルティング」については「5つの構造要素」のセクションでNote記事を紹介した。
 同じようにここに出てくる「賢い群衆」「即興劇プロトタイピング」も以下のNoteで解説している。

 「私があなたに望むもの」と「シンプル・エスノグラフィー」もLSの一つであるが、機会を改めて紹介したい。

 最後の項目の「楽しい」パターンとして「中立(ゼロ反応)、無視や割り込みによるブロッキング」が入っている。通常のやり取りの中だとこのような反応は気分を害するが、「わざと」これを参加者同士でさせるとなぜか面白い。加えて、援助のヒューリスティックスの良さも対比で理解しやすくなる。

事例
・「賢い群衆」や「私があなたに望むこと」がグループの意図する目的を達成できない場合〜例えば、参加者が、助けを求めたり与えたりする好ましくないパターンのいずれかに陥っている場合などに使用する。
・看護師、コーチ、教師、その他援助職の人が、新しい人間関係のスキルを身につけたいときに。
・専門職間の調整を改善するために活動しているグループに。
・リベレーティング・ストラクチャーのファシリテーターが、多くのリベレーティング・ストラクチャーに共通する基本的なパターンをより深く掘り下げるために。
・ 他の人を助けようとして挫折したときに、選択肢を広げるために。

”LS Menu 16. Helping Heuristics”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 改めて事例でもわかるように、この「援助のヒューリスティックス」というLSは身近な問題を題材にするが、そこで持ち込まれる問題の解決は焦点ではない。参加者が良い結果になる応答パターンを理解し習得することに焦点を当てている。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの中にも「エチケット」というものがあり、参加者がモデルや他の参加者にどのような態度で接しなければいけないかについての基本ルールがある。

 ただし、コミュニケーションの取り方の練習というものは存在していないので、このようなワークの生産性を上げる応答パターンを意識させることはもっと積極的に取り組む価値がある。

 改めて4つのパターンを見てみよう。

(1)「静かな存在」:コーチは思いやりのある聴き方ですべての申し出を受け入れる。
(2)「発見を導く」:コーチはすべての申し出を受け入れ、相互発見のための質問を導く。
(3)「愛ある挑発」:コーチはアドバイスを差し挟み、クライアントが見ていないものをコーチが見たときには受け入れ、必要に応じてブロックする。
(4)「プロセス・マインドフルネス」:コーチとクライアントは、互いからのすべてのオファーを受け入れ、斬新な可能性がどのように増幅されるかに気づきながら、知性の限りを尽くして対話する。

本記事の「5つの構造要素」の「5.ステップと時間配分」から抜粋、再掲。

 これらはレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークの時のどの場面に最もよく重なるだろうか。

 (1)は、参加者からモデル説明のときに求められる態度である。
 (2)は、他の参加者やファシリテーターがモデルに対する追加の問いを発するときに求められる態度である。
 (3)は、他の参加者が自分のモデルを見て感じたこと、考えたことについて発言したとき、それを自分がどう受け止めるかに関する態度である。
 (4)は、ワークが進む中でお互いのやりとりが重ねられるなかで「前のめり」になっていくときに求められる態度である。自分と他者とのモデルを持ち寄ってつくる統合モデルやお互いのモデルの相互配置を考えるランドスケープ(風景)作りのときにこのような応答パターンに持っていきたい。

 (1)〜(3)については、ファシリテーター次第で、基礎演習の中で参加者にコミュニケーションのあり方に意識を向けさせ、習得・強化することができそうだ。

 (4)については、ワークの開始序盤の部分で参加者同士の応答を観察することを通じて、参加者が「お互いに意見を受け入れる」態度を保てるようにファシリテーターが支援するべきであろう。その後、ワーク内でのコミュニケーションのあり方について少し話し合う時間をとることで、日常生活や仕事の中でも応用できるように経験からの学習へと導けるかと思われる。

 こうした応答パターンは、ブロックで作ったモデルへと参加者が視線と気持ちを集中してもらうことでさらにやりやすくなるだろう。

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドに関わらず、何らかのワークを担うファシリテーターとして応答パターンについての参加者の学習も意識することで、ワークの効果をさらに積み上げて素晴らしい場を提供していきたいものである。

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