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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(34)エコサイクル・プランニング

 今回取り上げるのは「エコサイクル・プランニング(Ecocycle Planning)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 グループの活動ポートフォリオをふるいにかけて、どの要素がリソースに飢えているのか、どの要素が硬直化して進歩を妨げているのかを特定することで、パフォーマンスを阻害する共通のボトルネックを解消または緩和することができます。エコサイクルは、従来のように少人数で密室で行うのではなく、活動に関わる全員が同時にふるいにかけ、優先順位をつけ、行動を計画することを可能にします。さらに、エコサイクルを活用することで、誰もが森と木を見ることができ、自分の活動が他者との大きなつながりの中でどのような位置づけにあるのかを知ることができます。エコサイクル・プランニングは、成長や効率といった典型的なテーマだけでなく、創造的破壊や再生にも焦点を当てるようリーダーを誘います。エコサイクルは、開発の4つの段階をすべて計画プロセスに含めることで、敏捷性があり、困難にめげず、持続的なパフォーマンスを促進することが可能になるのです。

”LS Menu 31. Ecocycle Planning”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 このLSで使われる「エコサイクル」は、活動分析の前提となっている一つの枠組みである。

”LS Menu 31. Ecocycle Planning”に掲載の図をもとに、一部修正を加え筆者作成。

 4つの活動は4つの段階と2つの罠に位置付けられ、組織や個人の活動がどの段階にあるかに当てはめることによって、必要とされるリーダーのタイプ(ネットワークを作る人・起業家・マネジャー・異端者という表記がそれにあたる)や先の段階に進むための打ち手を議論するということになる。

5つの構造要素

 1.始め方
・誕生、成熟、創造的破壊、再生の4つの発展段階を用いて、現在の活動を眺め、整理し、優先順位をつけるようグループに呼びかけます。
・誕生期には成長を加速させる行動、成熟期には延命や効率化を図る行動、創造的破壊期には枯れ木の剪定や硬直した慣習を堆くする行動、再生期には創造的な人々をつなぎ、誕生への地ならしをする行動など、それぞれの段階に関連した行動手順をグループに策定してもらいます。それぞれのフェーズで必要とされるリーダーシップのスタンスは、起業家、経営者、異端者、ネットワークを作る人という特徴を持つことになります。
2.空間の作り方と必要な道具
・平らな壁があり、参加者が壁の前にゆったりと立つことができるオープンスペースがある部屋。
・4人一組で座るための椅子、小さな丸テーブルはあってもなくてもいい。
・参加者一人一人に白紙のエコサイクルマップのワークシートを配布し、壁面に大きな壁紙ポスター版を張り出す。
・各アクティビティ用のふせん。
3.参加の仕方
・作品に関わるすべての人、すべての階層、すべての職能が含まれる。
・誰もが平等に貢献できる機会を持つ。
4.グループ編成の方法
・「1-2-4-All」を使う。
・アクションステップのための小グループを設定する。
5.ステップと時間配分
・エコサイクルの考え方を紹介し、参加者それぞれに白紙のマップを配る。5分
・参加者に個々の活動リストを作成するよう求める: 「あなたのワーキンググループ(例:部門、職能、会社全体)について、あなたの時間を占めるすべての活動(プロジェクト、新たな取り組み)をリストアップしてください」 5分
・2人1組になって、エコサイクルにおける各活動の位置づけを決めてもらう。10分
・4人1組のグループを作り、エコサイクルマップ上の活動の配置を最終決定してもらう。15分
・各グループにポストイットに活動を記入してもらい、部屋全体のマップを作成する(1グループずつポストイットを大きなマップに貼ってもらう)。15分
・各グループに、一歩下がって、配置のパターンを見出すよう求める。配置について意見が一致した活動すべてに注目するように指示する。「前進するために、創造的に破壊したり、止めたりする必要のある活動は何ですか?」「前進するためには、どのような活動を拡大したり、始めたりする必要があるのでしょうか?」15分
・小グループで、止めるべき活動(「硬直の罠」にはまった活動)ごとに、最初の行動ステップを作成する。活動やグループの数に応じて、10分以上
・小グループで、開始する必要がある、またはより多くのリソースを得る必要がある活動(「貧困の罠」にはまった活動)ごとに、ファーストアクションステップを作成する。上記と同様に10分以上
・ 全グループに、コンセンサスが得られていないすべての活動に焦点を当てるよう依頼する。配置の違いを理解するために、全員で簡単な話す機会をつくる。可能であれば、それぞれに対応するファースト・アクション・ステップを作成する。10分

”LS Menu 31. Ecocycle Planning”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 大きく、「エコサイクル」に合わせて現実の活動を当てはめることを前半で行い、後半は問題のありかと対策を考えるという構成になっている。
 「エコサイクル」のどの場所に現在の活動が位置するかについて、意見が割れるケースが想定されるため、リベレーティング・ストラクチャーの「1-2-4-ALL」を使って集約していく。
 「1-2-4-ALL」については以下の記事にまとめてある。

 対策については、特に「貧困の罠」と「硬直の罠」に着目させることを中心に進められることになる。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・優先順位を決める。
・戦略のポートフォリオのバランスをとる。
・無駄を洗い出し、リソースを解放する機会を提供する。
・あらゆる視点を一度に持ち寄り、聞くことができる。
・プログラムをまとめて再編成することで、弾力性を生み出し、混乱を吸収する。
・森も木も扱う全体像を明らかにするために。

”LS Menu 31. Ecocycle Planning”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 この項目からは、組織は同時に様々な問題を抱えていることが前提となっていることがわかる。そこで何に力を入れるべきかについて合意をとるための分析枠組みが「エコサイクル」ということになる。

コツとワナ
・最初のエコサイクル・プランニングのセッションでは、あなたのグループの市場戦略の全ポートフォリオを使うのはやめましょう。よりシンプルなプログラム、経験を共有できる具体的なものから始めましょう。
・エコサイクルのすべての段階は、健全な組織の一部でなければならないことを参加者に思い出させる。
・検討する活動の領域や種類を明確にし、それらが似ている規模や領域であることを確認する。
・組織や機能の内外からの意見を取り入れる(多様な参加者やクライアントが助けになる)。
・それぞれの象限に対する準備と明確な基準は、役に立つこともあれば邪魔になることもある。
・迷わず2周目をする。
・「硬直の罠」と「貧困の罠」を特定し、さらに具体的な活動をこれらのラベルと結びつけることから、解決策の探索を開始する。
・Brenda Zimmerman教授による変化する力から学びましょう。彼女の著書「Edgeware」から得られるものがあります。

”LS Menu 31. Ecocycle Planning”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 最初の項目にもあるように、「エコサイクル」で分類しても、より多くの活動を同時に扱おうとしたら、分析の難易度が跳ね上がる。ファシリテーターや参加者のこのフレームでの習熟度をよく見ながら進めていくという点が最も重要なポイントになりそうだ。

 最後に紹介されているBrenda Zimmerman教授の著書は以下から購入できる。残念ながら日本語訳はされていないようであるが、複雑系の知見をわかりやすく紹介しているようだ。

 繰り返し方とバリエーション
・参加者に、(活動に加えて)社内外の顧客・サプライヤーとの重要な関係をすべてリストアップし、エコサイクル上に配置するよう求めます。アクティビティと同じ質問で関係を評価し、エコサイクル・プランニングのプロセスの最後の4つのステップに含めるよう参加者に指示します。これを強く推奨します!
・「パナーキー」、「1-2-4-All」、「私があなたに望むこと(WINFY)」、「オープンスペース・テクノロジー」と連動させます。
・「TRIZ」は、創造的破壊の象限を深めることに貢献できます。
・バーチャル上のグループで使用する場合、参加者にホワイトボード上の点にエコサイクル評価を置いてもらい、浮かび上がったパターンについてペアやグループ全体でチャットします。全体で行う前に、沈黙とペアチャット(「1-2-All」)を使って理解を深めましょう。マッピングを簡単にするために、活動や関係性の短い共通リストに合意する必要があります。各項目に番号や文字をつけ、1つずつ配置を決めていきましょう。ホワイトボードとまとめ役の人を使って、答えをふるいにかけて分類します。最初のラウンドでは、完璧を求める必要はありません。バーチャル上でのセッションは、対面でのやりとりを深めたり、補完したりすることができます。
・「3つのW」と「25/10 クラウド・ソーシング」は、行動を促すのに役立ちます。

”LS Menu 31. Ecocycle Planning”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 組織活動はステークホルダーを巻き込んで進むため、彼らを呼んで一緒にこの「エコサイクル・プランニング」のセッションができれば、よりよい結果になることは容易に想像がつく。そうなるとステークホルダーをこの場に呼び寄せることができるかどうかはセッションのアウトプットを左右するポイントの一つになりそうだ。

 LSのひとつである「私があなたに望むこと(WINFY)」は、分析ができたあとに、必要な対策をお互いに明確に伝えるための文化づくりに役立つ。そのやり方の詳細は以下の記事を参考にしてほしい。

 LSのひとつである「オープンスペース・テクノロジー」は、解決すべき問題がたくさん見えてきたときに、参加者が手分けをして対策を考えていくときに役に立つ。詳しくは以下の記事で扱っている。

 2項目目で紹介されている「パナーキー」については機会を改めて紹介したい。

 また、LSのひとつで、創造的破壊の思考を促進するための「TRIZ」については以下の記事で扱っている。「TRIZ」が扱う、逆に失敗を考えさせるというアプローチは「硬直の罠」を脱するのに一役買いそうだ。

 LSのひとつである「3つのW」「25/10クラウド・ソーシング」はワークで考えたことを要約し、行動へと接続するために役にたつ。後者は行動の選択肢がたくさん出そうな場合に、その絞り込みのときに使う。これらのLSはそれぞれ以下の記事で扱っている。

事例
・情報技術部門とのサービスポートフォリオ検討のために。
・看護職の経営者、学識経験者が教育へのアプローチを変革するために(歴史の評価と変革の取り組み提案)。
・個人的な生活の変化を計画するために、活動を選別し、次のステップを形成する。
・新規買収企業の統合(2つの製品ラインと研究機会の混在をふるい分ける)真っ最中の経営陣のパフォーマンスを加速させるために。

”LS Menu 31. Ecocycle Planning”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 ここの事例で挙げられていることをみても、広範囲なケースに適応できそうだ。特に、同時並行的に色々なことが進行している組織においては強力なツールになるだろう。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 この「エコサイクル・プランニング」では、組織の中で起こっている様々な活動と問題を分析するときに、その問題について参加者に素直かつ実直にピックアップしてもらうことが前提となる。その組織が抱える文化やステークホルダーとの関係次第では、その「素直さ」「実直さ」という態度になれないことがある。
 そのような場合には(万能ではないが)、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドが効果を発揮するだろう。モデルを作ることで、今の活動の問題を浮かび上がらせるのである。

 一方、「エコサイクル」のように活動を4類型に分類するような考え方はレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドにはないので、組み合わせるときには、組織の「状況」をモデルで作ってもらった上に、大きく印刷したマップの上に配置するようなワークになるだろう。
 配置された組織の「状況」をどのように次の段階へと進化させていくかの「アクションプラン」についても、モデルで表現してもらうことが考えられる。そのプランは他の「状況」(組織には色々な活動や段階があるので)にどのような影響を与えるのか、関係性などもチューブ型のパーツで連結させて表現できる。

チューブのパーツなどを使った表現例。
あくまでイメージで「エコサイクル・プランニング」のアウトプット例ではありません。

 あるプランは別の状況を同時に改善する「一石二鳥」型の取り組みかもしれない。逆に、あるプランは他の状況のブレーキになるかもしれないということが、つながりを可視化することでより明確に検討できるのである。


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