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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(29)生成的な関係へ STAR

 今回取り上げるのは「生成的な関係へ STAR(Generative Relationships STAR)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 あるグループの人たちが、自分たちがどのように仕事をしているかを理解し、グループのパフォーマンスを向上させるためにできる変化を特定するのを助けることができます。グループのメンバー全員が、現在の人間関係のパターンを診断し、仲介者なしで、一緒にアクションステップをフォローする方法を決定します。STARコンパスツールは、グループメンバーが自分の人間関係を生成的にしているものやしていないものを理解するのに役立ちます。最初の診断で使用したコンパスは、その後、より生成的な関係を築くための進捗状況を評価するためにも使用することができます。

”LS Menu 26. Generative Relationships STAR”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 文中の「STARコンパスツール」を中心とするLSである。そのツールは以下のような図を使う。

STARコンパスツール。
”LS Menu 26. Generative Relationships STAR”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 この図のように4つの評価軸(頭文字をとってSTARとなる)で自分たちのグループがどのような状態にあるのかを診断する(赤い丸が診断結果)。そこから改善の道を探り行動プランにまでもっていく。

5つの構造要素

1.始め方
・参加者に、自分のワーキンググループやチームを4つの属性で評価するよう呼びかける。
 - S(Separateness)分離:グループメンバー間の視点、専門知識、背景の多様性の度合い
 - T(Tuning)調整:深く聴き、振り返り、課題を一緒に意味づけできる度合い
 - A(Action)行動:グループメンバーとともにアイデアを行動に移したり、イノベーションを起こしたりする機会の多さ
 - R(Reason to work together)協働の理由:一緒に仕事をすることで得られるメリット
・新たに生まれる成果を高めるための行動ステップを共同で策定するように誘う。
2.空間の作り方と必要な道具
・4人の小グループ用のテーブル、各個人用のSTARコンパスの絵とペン。
・各小グループごとにSTARコンパスをフリップチャートで表示する。
・STARコンパスの図をフリップチャートページに掲載し、グループ全体に配布する。
3.参加の仕方
・ワーキンググループやチームの全員が含まれる。
・誰もが平等に貢献できる機会を持つ。
4.グループ編成の方法
・個人で初期評価を行う。
・少人数で。
・グループ全体。
5.ステップと時間配分
・参加者は、4つの要素それぞれについて、チームがどのような状態にあるのかを個別に評価する(5分)。
 -S:私たちはグループとしてどれだけ多様性があるか。メンバー間の多様な視点を引き出せているか。
 -T:どの程度、お互いに調和しているか?
 -A:私たちはどのくらい一緒に行動しているか?
 -R: 私たちが一緒に行動することはどのくらい重要か?私たちの目的はどれくらい明確か?
・小グループに分かれ、参加者はそれぞれのコンパスポイントに点を置き、隣の人(「1-2-4」を活用)とその位置について話し、一致点や相違点を探します。5分
・小グループは、自分たちが特定した相互作用のパターンによって、どのような結果が生まれるかを決める(例:高調整+無行動=仲良くやっているが成果は少ない、高行動+低調整=革新性のない決まりきった結果、高調整+高分離+高行動+低理由=多くの誤ったスタート、など)。5分
・小グループで、注意が必要な要素を高めるための行動ステップをブレインストーミングする。5分
・グループ全体で、行動ステップのリストを集め、「今すぐできる最初の一歩は何か 」を決定する。5分

”LS Menu 26. Generative Relationships STAR”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 4つの評価軸(STAR)のそれぞれについて、参加者にしっかりと最初の段階で説明することが重要となる。
 また、グループの評価に対して同調圧力がかかりすぎないように、まずは個人で評価し、その後に意見を共有しながら全体としての合意を作っていくという点も欠かせない。このときの「1-2-4」はリベレーティング・ストラクチャーである「1-2-4-All」のアレンジ版である。このLSについては以下の記事で扱っている。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・チームのパフォーマンスを向上させる。
・チームの自己管理・自律化を支援する。
・グループの目的・アイデンティティを鮮明にする。
・個人を責めることから離れ、相互作用のパターンを理解することに向かうよう支援する。
・企画者と実行者を分けずに「診断と治療」を両立させる。
・チーム力、成果に満足できない人の不満を減らす。

”LS Menu 26. Generative Relationships STAR”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 自分(たち)のことを客観的に診断し、改善することは思っている以上に難しい。それを乗り越えてこそチームパフォーマンスが上がる土壌を作ることができるということである。

コツとワナ
・個人からペア、そしてテーブルでの会話へと発展させる。
・人がチームのどこを評価するかについて、正しいか間違っているかの判断をしないようにする。
・チームメンバーが自ら改善策を調べ、整理し、行動することを奨励する。
・参加者それぞれに少なくとも1つの具体的なアクションを提示し、活動を終了する。
・誰がいつまでに何をするのか、全員が明確にしておく。

”LS Menu 26. Generative Relationships STAR”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 自己評価に関しては、悪い評価になるほど「そんなはずはない」「評価そのものが間違っているのでは」という防衛本能が働きやすい(実際に評価する側に問題があるときもあるのでやっかいだ)。そのときに、判断留保をするというのは一つの知恵である。これは参加者だけでなく、ファシリテーターとしても心構えとして持っておかねばならない。

繰り返し方とバリエーション
・コンパスツールでポイントの低い評価を高めるリベレーティング・ストラクチャーを繋ぎ合わせる:
 - S:分離(「会話カフェ」、「シフト&シェア」、「3つのW」)
 - T:調整(「賢い群衆」、「トロイカ・コンサルティング」、「合意-確信マトリックス」、「聞いてもらう、分かってもらう、尊重してもらう」)。
 - A:行動(「25/10クラウドソーシング」、「15%での解決策」、「オープンスペース・テクノロジー」、「最小スペック」)。
 - R:理由(「9つのなぜ」、「私があなたに望むこと」)
・バーチャルグループで使用する場合は、参加者にホワイトボード上のチャートの点に自分のSTARアセスメントを置いてもらい、浮かび上がったパターンについてペアやグループ全体でチャットします。物事を進めるために、「統合する人」の役割を設けるとよいでしょう。「1-2-All」のチャットバージョンでアクションステップを作成する。

”LS Menu 26. Generative Relationships STAR”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 ここにあるように原因が解明した後も大事である。具体的に改善の手段を持っていないと「大事だと意識する」程度で終わることになり、行動につながらず分析の意味がなくなってしまうことも少なくない。その意味で、ここで紹介されている分析と行動をつなぐLSを使えるようになっておくことが望ましい。
 ここで名前が出ているLSのうち、別の記事で紹介しているものは以下のとおりである。

 まずは「分離」の程度が低い場合にそれをより高める(お互いの違いを浮立たせて多様性を作り出す)ものとして紹介されているLSとしては以下の記事を読んでほしい。

つぎに、「調整」の状態が悪い時に使うことができるLSは以下の通り。

なお、「合意-確信マトリックス」については機会を改めて紹介したい。

続いて、「行動」の低さを改善したい場合には以下のLSがある。

最後に、共に働く「理由」が不明確な場合のために以下のLSがある。

これらのLSを場合によってうまく選択し、より大きな改善効果を目指したい。

事例
・戦略的な後退が必要になったとき、グループのダイナミクスと結果に注意を向けるために。
・新たに結成されるチームやタスクフォースの構成や目的を決定するために。
・二人の関係を修復するために。 

”LS Menu 26. Generative Relationships STAR”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 主に関係性の分析をすることから、チームや少人数の活動にフォーカスを当てたいときに使うことが想定されている。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドではいろいろな事象を扱うことができるが、その中でも関係性の分析はもっとも得意な領域である。なぜなら、メソッドの中で作られるモデルは、基本的にシステム的な説明を表現したモデルであり、システムの理解には要素だけでなく要素間の関係性が含まれるからである。さらにいえば、そのモデルを使って相互に説明をしてもらうことになるが、そこでの語りは基本的に参加者が事象に対して感じているストーリーである。そして、ストーリーもまたさまざまな要素が時間と共にある関係性の中で動くことを描写したものなのである。すなわち、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドにおける作られるモデルと語られるストーリーには関係性が自然と織り込まれているのである。

 このシステムとしてのモデルを作ってもらうということの中には、STARのような評価軸はない。しかし逆に、関係性の質をそれらの軸にとらわれずに参加者に表現してもらうことができる点に強みがあるといえる。すなわち見る幅が広い。
 もちろん、表現で出される幅が広いということは、それらを総合し分析するには時間がかかることを意味する。
 応用技術でいうとモデルをテーブルの上に配置して関係性を表現する「ランドスケープ」という方法を使ったり、関係性そのものをブロックや連結パーツで表現してもう「コネクション」という方法を使う。学びは大きいが時間もかかるので、その方法を取ることができないケースも考えられる。
 そのときには、モデルを作った後、STARの枠組みにはめて収束を簡単にするという方法もあるだろう。より具体的には、参加者が作った自分たちのチームのモデルを4つの観点で採点してもらったり、大きなコンパスチャート(この記事の冒頭の「この方法で何ができるか」の中で示した図)を用意して、その上にモデルを配置してみることなどがあげられる。

 また、このLSでは、現在の関係性の分析が主であり、今後の関係性がどう展開していくかという条件変化の検討はあまり意識されていない。レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、想像力を使った「プレイ」に強みがあるので、そのような条件変化による影響まで分析したい時にはレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを採用する利点が大きくなるといえるだろう。

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