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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(20)ユーザー体験フィッシュボウル

 今回取り上げるのは「ユーザー体験
フィッシュボウル(User Experience Fishbowl)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。
 なお、「User Experience」という用語は製品開発の現場などでよく使われるようになり「UX」の略称が当てられることもある。今回のLSでは製品開発に限らず使うことが想定されているため「ユーザー体験」という訳語を当てた。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 現場での直接の体験を持つ一部の人々は、理解を促進し、創造性を刺激し、より大きなコミュニティのメンバー間での新しい実践の採用を促進することができます。フィッシュボウルのセッションでは、小さな内輪の参加者を、より大きな外輪の参加者が取り囲みます。内側のグループは、外側のサークルの参加者が関心を持つ課題に対して具体的な進展を遂げた人々で形成されています。フィッシュボウルのセッションは、内輪の人たちがお互いの体験を語り合いながら、自分が何をしたかを明らかにしやすいデザインになっています。インフォーマルな雰囲気は、2つのグループ間の直接的なコミュニケーションによる壁を取り払い、質問と答えが行き交うことを容易にします。これは、人々がワーキンググループの文脈の中で、自分たちの悩みに対する答えを自ら発見し、互いに学び合うための最良の条件を生み出します。他人のやり方を押し付けるのは、もうやめましょう。

”LS Menu 18. User Experience Fishbowl”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「教える側が一方的に何かを教える」という学びのスタイルではなく、「学ぶ側がフロントランナーの語りを観察し、質問して学びとる」という学びのスタイルをとることによって、教える側にも気づきがもたらされるという考え方の上に成り立っているリベレーティング・ストラクチャーである。

5つの構造要素

1.始め方
・フィッシュボウルの中にいる人たちに、自分たちの経験について、良いことも悪いことも醜いことも、非公式に、具体的に、そして率直に話してもらう。まるで聴衆がいないところで飲み屋で話をしているような、あるいは空港に向かう途中で立ち往生してしまったバンの中でしているような会話をするように誘うのです。しっかりと、聴衆に向かって発表することは避けるようにお願いします。
・フィッシュボウルの外にいる人たちに、耳を傾け、非言語的なやりとりを観察し、小グループの中で質問をするように勧める。
2.空間の作り方と必要な道具
・部屋の真ん中に円形に並べた3~7脚の椅子を置く。
・グループ全体が30~40人以上の場合は、内側のサークル用にマイクを用意する。
・可能であれば、低いステージ(内側の円の人向け)やバー・スツール(外側の円の人向け)があると、外側の円の人々から交流がよく見える。
・内側の円を囲む外側の円には、3~4脚の椅子のセットを必要なだけ並べる。
・大人数の場合は、外側の円の質問用にマイクを追加で用意する。
3.参加の仕方
・内側の円の全員が、平等に貢献する機会を持つ。
・外側の円の全員に、等しく質問する機会がある。
4.グループ編成の方法
・3〜7人の1つの内側の円のグループ。
・3〜4人の複数の小さなサテライトグループを1つの外側の円に配置する。
・報告会のために「1-2-4-All」を使う。
5.ステップと時間配分
・フィッシュボウルの構成とステップを説明する。2分
・内側の円での会話は勝手に終了するまで続く。10分~25分
・外側の円でのサテライトグループによる観察・質問設定 4分
・内側の円へ提出された質問に回答し、内側の円と外側の円とのやりとりを必要に応じて行い、すべての質問に回答する。10分~25分
・「3つのW」を使って報告し、「今何ができるのでしょうか」と問いかける。10分~15分

”LS Menu 18. User Experience Fishbowl”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 このLSの実施においては「2.空間の作り方と必要な道具」に特徴がある。以下に簡単ではあるが基本的な配置の例を示しておく。

ユーザー体験フィッシュボウルのグループ配置パターン(例)

なお、「4.グループ編成の方法」の説明で出てくる「1-2-4-All」と「5.ステップと時間配分」に出てくる「3つのW」については以下の記事で取り上げている。どちらも、このLSをしっかりと機能させるための重要なLSなので、ぜひ内容を押さえておきたい。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・現場での経験や、新しい試みに対する疑問や答えをテーブルの上に出し、全員が同時に理解できるようにする。
・新しいアイデアを生み出すための条件を整える。
・参加者全員の想像力と経験を発揮できる場を作る。
・ 聞く、話す、パターンを見つける、質問する、観察するなどのスキルを身につける。
・現場での経験を積んだイノベーターやアーリーアダプターを称える(多くの場合、失敗しながらプロトタイプを検証している)。

”LS Menu 18. User Experience Fishbowl”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 イノベーターやアーリーアダプターは「イノベーター理論」で出てくる用語で、新しい物事に飛びつく順番の文脈で語られることが多い。
 飛びつく順番としてはイノベーターが第一集団で、アーリーアダプターが第二集団である。全人口における比率も仮説があってイノベーターが2.5%、アーリーアダプターが13.5%である。合わせて16%なので、会場の6人〜7人に1人の「先行者」としてフィッシュボウルに入る感じになる(そうなると先ほどの例だとフィッシュボウルは2人〜3人が適正サイズとなる)。
 いずれにせよ、まずは中央のフィッシュボウルに入って話をする人の人選がワークの成果を左右するポイントになりそうだ。

 より詳しく知りたい人は以下の記事を参考にしてほしい。

コツとワナ
・内側の円には、個人的な経験を持つ人だけを選ぶ(地位は関係ない)。
・成功のために調整が必要な明確な役割と機能を持つ代表的な人物を、フィッシュボウル(内側の円)に選ぶ。
・内側の円の人々には、意見ではなく、具体的で非常に説明的な例を共有するように勧める。
・内側の円の人たちに、車やバーで話をしたり会話をしているところを想像するように勧める。
・成功も失敗も、「良いこと、悪いこと、醜いこと」を共有するよう、全員に勧める。
・ 「スピーチはしない」「外側のサークルにではなく、お互いに話す」というルールを徹底させる。
・「魚」が会話を再開する前に、外側のサークルからすべての質問を集める。
・全体の質問パターンに基づいて、どの質問に取り組むか、「魚 」に選択肢を与える。
・楽しく、生き生きとしたストーリーを語ってもらう。

”LS Menu 18. User Experience Fishbowl”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 フィッシュボウルの中に入ることは、他の人からの注目を集めることにもなるので、構えてしまって言うべきことをあまり選びすぎると逆効果になる。
 砕けた雰囲気で生き生きとしたストーリーを語ってもらえるようにするための工夫が必要である。また、外で見ている人も「何を彼らから聞いた方がいいのか」を常に考えながら参加させることが重要である。

 繰り返し方とバリエーション
・経験者が不意に飛び込んでこれるように、内輪の椅子を空けておく。
・バーチャル上で行う場合には、外側の円の人がチャット機能を使って、「内側の円の魚たち」の間で展開される会話の中で、「みんなに」または「ペアで」質問を共有します。
・「即興劇プロトタイピング」、「25/10クラウドソーシング」、「エコサイクル・プランニング」、「シンプル・エスノグラフィー」、「シフト&シェア」と「ユーザー体験フィッシュボウル」を混ぜ込んだり、つなぎ合わせたりする。

”LS Menu 18. User Experience Fishbowl”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 3項目目の「即興劇プロトタイピング」、「25/10クラウドソーシング」、「シフト&シェア」はそれぞれLSであり、以下のNoteで紹介している。

 いずれのLSも問題解決のアイデアを生み出すためのものである。つまり「ユーザー体験フィッシュボウル」であるテーマに対する基本的な情報や先行事例について整理し、深く理解した上で、これらのLSを使ってより具体的な問題解決のアイデアにつなげていくという流れを作ることになるだろう。

 「エコサイクル・プランニング」と「シンプル・エスノグラフィー」も同じくLSであるが別の機会に改めて紹介したい。

事例
・ アフガニスタンから帰国した将校から後任の将校に現場の知識を伝えるために(第3部「現場からの声」の「陸軍における事後評価の変革」参照)。
・リベレーティング・ストラクチャーのワークショップで、数人の経験豊富な実践者が、どのように始めれば実用的な結果を得られるかについて、新しいユーザーの理解を深めるためにストーリーを共有する。
・医師会では、プライマリケア医のグループの真ん中で、専門医の内輪が難しいケースについて議論し、専門医とプライマリケアの視点からの議論を呼び起こした
・営業担当者の先行調査グループが、新しい携帯型報告装置の使用感について他の営業担当者と共有した。「ユーザー経験フィッシュボウル」によって、全員が、そのイノベーションを採用するために必要なことをすべて知っているという安心感を得ることができました。
・ある公共団体が、「隠れた」高揚感のあるサービスをさらに拡大しようとする場合。
・ある経営陣は、管理職全員に囲まれたフィッシュボウルの中で会議を行いました。

”LS Menu 18. User Experience Fishbowl”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 最初の項目の「陸軍における事後評価の変革」の事例において、より強調されていたのはこのLSで「複雑な環境下での行動と学習」ができたということである。

 事態が単純で簡明であれば、プレゼンテーションでも事足りる可能性があるが、より事態が入り組んでいる場合には1人の話だけで全体像は見えてこないため、複数の人たちの話を「聞いている側からの質問」で結びつけながら全体的な理解を構築していくということの利点が浮かび上がる。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 より複雑な環境下では、人々の間に有益な情報が分散して存在するようになる。

 このLSでは、特に先行的に経験している人々に有益な情報があると考えており、それを「フィッシュボウル」で出してもらう。
 それに対してレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは参加者全員に等しく貴重な経験が眠っているという前提のもとで、それぞれの経験をモデルにしてもらい共有し合う。

 多くの参加者がテーマについて十分な経験や情報がないと分かっている場合には、レゴ®︎シリアスプレイ®︎ではなく、「ユーザー体験フィッシュボウル」を選択することを考える方が良いだろう。

 また、このLSは、体験の濃度に応じてグループを分けることで効果の生み出す方法を示しているとも言える。

 この観点から、次のようにレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのでのワークを変えることも有力な選択肢として考えることができるだろう。

 ①「経験が豊富な参加者」のグループと「経験が少ない参加者」のグループに分ける。
 ②全員にあるテーマについての体験についてモデルを作ってもらう。
 ※「経験が少ない参加者」のグループには「そのテーマについて悩んでいること」を作ってもらってもいいかもしれない。
 ③「経験が少ない参加者」のグループで簡単にモデルについて相互シェアをしてもらう(自分がわかっている範囲で整理してみることには相応の価値がある)。経験が豊富な参加者は、いずれかの経験が少ない参加者のグループに入って話を聞く(それによって豊かな経験者は自分の経験の価値がわかる)。
 ④「経験が豊富な参加者」グループのモデルのストーリーを全員で聞く。「経験が少ない参加者」はモデルについての質問をする。
 ※「経験が豊富な参加者」のモデル相互のコネクションやランドスケープをしているところを見てもらうというオプションもありそうだ。

 なお、この共有を踏まえて「これから何をするか」については、全員のコミットメントの確保するために経験の豊富さに関わらず、全員で等しく取り組むようにした方が良いだろう。

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