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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(22)一緒に描く

 今回取り上げるのは「一緒に描く(Drawing Together)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 感情、態度、パターンなど、言葉で表現するのが難しい隠れた知識にアクセスする手助けをすることができます。人々が疲れていて、脳がいっぱいになっていて、論理的な思考の限界に達しているとき、あなたは人々が論理的で段階的な理解の外にある考えを呼び起こすのを助けることができます。個人またはグループの変容に関するストーリーは、普遍的な意味を持つ、描きやすい5つのシンボルによって語られることがあります。一緒に描くという遊びの精神は、より多くのことが可能であり、多くの新しい答えが期待されていることを示すものです。「一緒に描く」は、人々の発言や文章に過度に依存し、新しさの出現を抑制する文化を断ち切ります。そして、そのような人たちにも、新たな表現の場を提供します。

”LS Menu 20. Drawing Together”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 5つのシンボルから絵を描くことで普段とは異なる思考を引き出すというところに最大の特徴があるLSである。

5つの構造要素

1.始め方
・参加者に、自分が直面している課題、あるいは共通の課題について、5つの記号と言葉だけを使って話をしてもらいます。

2.空間の作り方と必要な道具
・タペストリー紙を敷いた壁、またはフリップチャートの白紙ページを置いたイーゼル。
・水性マーカー、カラフルな気分ならソフトパステル。

3.参加の仕方
・5つのシンボルは誰にとっても描きやすいので、全員が参加する。
・参加者全員が同時にそれぞれの絵を描く。

4.グループ編成の方法
・シンボルの描き方を練習するグループ
・各自、絵の第一稿、第二稿を作成する。
・1〜4人の小グループで、絵の解釈をする。
・グループ全体による報告会(大人数の場合は「1-2-4-All」を使用する)

5.ステップと時間配分
・各シンボルを描き、その意味を説明することで、一緒に絵を描くという考えを導入する。5分
 円=全体性
 長方形=サポート
 三角形=ゴール
 らせん=変化
 星型の人(等距離の十字)=関係性
・参加者に5つのシンボルを描く練習をしてもらう:円、長方形、三角形、らせん、星型の人。5分
・参加者に、シンボルを組み合わせて、挑戦や革新に取り組む「旅」についての物語の第一稿を、個人作業で、言葉を使わずに作ってもらう。10分
・参加者に第2稿を作成してもらい、シンボルの大きさ、配置、色などを工夫してストーリーを練り直す。10 分
・参加者に、他の個人または小グループに自分の描いた絵を解釈してもらうように依頼する。絵を描いた本人は話さないことを思い出させる。5分
・グループ全体に、「一緒に、絵から何がわかるか」と問いかける。大きなグループには、「1-2-4-All」を使用する。5分

”LS Menu 20. Drawing Together”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「4.グループ編成の方法」や「5.ステップと時間配分」に出てくる「1-2-4-All」は、頻出するLSの一つである。詳しいやり方は以下のNoteで紹介している。

 実際に5つの記号でどのような絵ができるかがないとイメージがわかないと思われるので、サンプルになりそうなものを一つ描いてみた。どのような物語を感じられるだろうか。

LS「一緒に描く」方式で描いた「挑戦や革新に取り組む「旅」についての物語」の一例

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・口頭や直線的な手法ではアクセスできない洞察や理解を明らかにする。
・イノベーションのためのあらゆる知識源(形式的、暗黙的、潜在的/創発的)を利用する。
・新しい発見を求める探求の旅が進行中であることを示す。
・ビジョンや複雑な力学に対する理解を深め、共有する。
・グループメンバー間の親密なつながりを作る。

”LS Menu 20. Drawing Together”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 ここにあるように「描く」ことで私たちが普段行っている「話す」とは違う感覚で、対象(ここでは新たなものを生み出す「旅」)を捉えることができるようになるのが最大のポイントであろう。それが、新たな理解への糸口になる。

コツとワナ
・「洗練された絵の技術は必要ない、完璧を求めるのはやめよう!」と、絵が対象物ではないことを参加者に伝える。子供らしい絵は、遊び心があって、人の想像をかき立てるものです。
・描画技術に手を貸し過ぎない。
・参加者は、絵の中に出てきたものを何でも受け入れるようにさせる(しばしば驚きがある)。
・参加者の理解を飛躍させるようなストーリーを描いたり、例を示したりする。
・カメラやビデオレコーダーで参加者が描いた絵を記録する。
・グループとして再集合したときに、描いた絵に戻る。
・絵を描くことは、強力な癒しになり得ることを忘れないように。

”LS Menu 20. Drawing Together”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 最初の項目でふれられているように「絵を描く」ことに抵抗のある人は少なくない。「うまく描く必要はない」ということをよく参加者に伝えて参加のハードルを下げることがまず重要である。

繰り返し方とバリエーション
・一人で会議中の会話を視覚的にマッピングすることができる(必要であれば言葉を追加してください)
・小さく始める:レターサイズ(216x279mm)の紙を一枚使って始める。
・紙の代わりにコンピュータのタブレットを使用し、参加者がタブレット上の5つのシンボルを使ってストーリーを伝える方法を学ぶことができます。
・ヒーローズ・ジャーニーをストーリーのテンプレートとして使用する。
・現状維持から、新規性への呼びかけ、発見、検証、初期採用、そして普及への進行をテンプレートとして使用する。

”LS Menu 20. Drawing Together”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 4番目の項目に出てくる「ヒーローズ・ジャーニー」は、ジョセフ・キャンベルによる神話研究から生まれてきたコンセプトである。「スターウォーズ」「指輪物語」をはじめ、多くの世界的なヒット作品のシナリオがこのコンセプトに沿っている(沿って構想されている)と良く指摘されている。

 「ヒーローズ・ジャーニー」をベースとしたテンプレート(ステップ)は、解説する人によって少しずつ異なるが、以下のページは比較的読みやすく簡明にまとまっている。

 事例
・長い会議の中で、創造性を発揮したいときの気分転換に。
・見解の相違が激しく、グループがマンネリ化しているとき。
・会議やカンファレンスで、会話の展開に合わせてドローイングを作成し、ビジュアルなファシリテーションを行いたいとき。
・複雑なプロジェクトに取り組む際に、曖昧な関係や隠れた関係を明らかにしたい場合に(例えば、ある博士課程の学生は、この「一緒に描く」によって、ある瞬間、閃いたそうです)。
・ビジョンステートメントを具体化するのに役立つ(特に視覚的志向の強い人向け)。
・個人ワークで、課題に対する暗黙の了解や潜在的なアプローチを可視化する。

”LS Menu 20. Drawing Together”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「絵で考えを表現する」ということに馴染みのない場であればあるほど(戸惑いも大きいだろうが)、実施する効果も大きそうだ。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 このLSでは5つのシンボル図形(円、四角、三角、らせん、星)の意味を先に固定しているのに対して、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、ブロックに作成者が意味を付与する。
 またこのLSが2次元上での表現になるのに対して、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは3次元上での表現になる。

 表現の複雑さという点に関してレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの方が圧倒的に上回る。その分、さまざまなテーマに対応することができる。「一緒に描く」では「挑戦や革新に取り組む「旅」」が基本テーマでそこまでの幅がない。
 逆に言えば、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドに比べ、「一緒に描く」では、複雑さをぐっと減らして簡明にしているとも言える。その分、伝わりやすく考えやすくなっている。

 制約が創造性を高めるということもしばしば言われることである。ブロックの種類を減らし、意味を限定し、表現空間の次元を減らすことで生まれる創造性もあるかもしれない。
 例えば、ブロックを5個のみに指定にして何かのテーマに沿って作らせる。または、いくつかのブロックの意味を先に決めておいて(「友達」「勉強」「先生」「親」を意味するパーツを決めておいて)理想の小学校生活を表現するなどもあるかもしれない。

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークの可能性を広げるために、何かを縛ってみるという発想は、ワークのプログラム・デザイナーとして持っておきたい視点である。

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