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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(10)トロイカ・コンサルティング

 今回取り上げるのは「トロイカ・コンサルティング」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。
 「トロイカ」はあまり馴染みのない言葉ではあるが、「ロシアの三頭立ての乗用馬車」から転じて「3人で行うやり方」を指すことが多い。「3人体制でのコンサルティング」という意味合いになるが、「トロイカ」という響きが個人的に好きなので、そのまま訳語も「トロイカ・コンサルティング」にした。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はこちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 人々が直面している問題について洞察し、その問題に対処するための人々の中に眠っている知恵を引き出すことができます。ラウンドロビン(round-robin)方式で行われる「コンサルテーション」では、個人が助けを求めると、他の2人からすぐにアドバイスが得られます。ピア・ツー・ピア式のコーチングは、日常的な解決策を発見し、パターンを明らかにし、プロトタイプを洗練させるのに役立ちます。これは、個人に対するコーチング支援を、正式な報告関係を超えて拡張する、シンプルで効果的な方法です。トロイカ・コンサルティングは、同僚や友人から助けを得たいと願う個人のために手軽に利用できます。

”LS Menu 8. Troika Consulting”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「ラウンドロビン方式」は、お互いに役割を入れ替えて順番に行う方式である。一般的なコンサルテーションでは、ある分野の専門家が相談を持ち込む側(クライアント)の話を聞き、問題を診断し、解決策を提示するというやり方で、相談する側とされる側は最初から決まっている。

 しかし、このトロイカ・コンサルティングではそれを参加者同士で入れ替えて行う。これは「ピア・ツー・ピア式」という言葉にも現れている。「ピア・ツー・ピア」はコンピュータ通信で対等な立場同志の通信を指す。

 参加者間の知識や経験に上下関係はなく、むしろ身近な人や意外なところにこそ良い解決策が眠っているという思想が窺える。

5つの構造要素

1.始め方
・「あなたの課題は何ですか」「どんな助けが必要ですか」 という問いを探るようにグループを誘う。
2.空間の作り方と必要な道具
・3人掛けの椅子、膝と膝の間に座るのが望ましい。テーブルなし。
3.参加の仕方
・各ラウンドで、一人の参加者が 「クライアント」、他の参加者が @コンサルタント 」となる。
・全員が平等にコーチングを受けたり与えたりする機会があります。
4.グループ編成の方法
・3人1組のグループ
・多様な背景と視点を持つ人が最も役に立つ。
5.ステップと時間配分
・参加者に、自分がクライアントになったときに尋ねる予定のコンサルティング・クエスチョン(課題と必要な支援)について考えてもらう。1分
・グループごとに、最初のクライアントの質問を共有する。1-2分
・コンサルタントがクライアントに分かりやすい質問をする。1-2分
・クライアントはコンサルタントと背中合わせになり、後ろを向く。
・コンサルタントが共に、アイデア、提案を作成し、コーチング・アドバイスを行う。4-5分
・クライアントが振り返り、今回の体験で最も価値のあったことを共有する。1-2分
・次の人に交代し、同じことを繰り返す。

”LS Menu 8. Troika Consulting”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「トロイカ・コンサルティング」の名前の通り、3人1組で行うのが基本となる。2人が相談しながら案を考えるというのが、人々に眠る知恵を解放するポイントである。

 もう一つの特徴が、アイデアを作成したりアドバイスをしたりするときに、背中を向けて行うという点である。これは面と向かって行うよりも対人間での緊張感を低減するという狙いがあると思われる。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・助けを求めるスキルに磨きをかける。
・問題や課題を明確にする。
・傾聴とコンサルティングのスキルを磨く。
・専門分野や職務の壁を越えて仕事をする能力を身につける。
・相互支援を通じて、グループ内の信頼関係を構築する。
・自己組織化の能力を高める。
・未知の解決策を生み出すための条件づくり。

”LS Menu 8. Troika Consulting”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 ここから読み取れるのは、このLSがその場をお互いの悩みを解決すること以上に、「普段から相談し合える関係づくり」を重視しているということだ。

 先程の「5.ステップと時間配分」において、アドバイスを受けたのちに「今回の体験で最も価値のあったことを共有する」というステップがあるが、これもお互いに相談し合うことの価値や良い関係を作ることの意味を確認させる狙いも秘められていそうだ。

 コツとワナ
・参加者の職務や職能が多様なグループを作るよう促す。
・参加者が罠にはまったとき(例:結論に飛びつくなど)、自分達を批判的にとらえるよう提案する。
・参加者に、提供されるサポートのパターンに気づくようにさせる。理想的なのは、クライアントに 「あなたが見ているもので、相手が見ていないと思うもの 」を伝えることで、敬意を持って挑発することである。
・参加者に、共感を保ちながらリスクを取るように言う。
・最初のラウンドで十分でないコーチングになった場合は、2回目のラウンドを行う。
・クライアント1人あたり20分1ラウンドより、10分2ラウンドの方が効果的であることに注意する。
・安全な空間を保つ:何かを共有する場合は、慎重に行う。
・自己理解や自己修正を促す質問は、何をすべきかというアドバイスよりも強力かもしれません。
・クライアントに「ここで何が起こっているのか?何が起こっているのか、私はどのように経験しているのか?」を問うことで内省をしつづけるように促す。
・トロイカ・コンサルティングをミーティングや会議の中で日常的に使うようにする。

”LS Menu 8. Troika Consulting”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 ここはほぼ、コンサルティングをすることについての罠をまとめたものといえよう。このLSを使わなくても、コンサルティングをするときの参考になる。

繰り返し方とバリエーション
・「15%での解決策」との融合:各クライアントは15%での解決策を共有し、コーチングを求める。
・質問が共有され明確になったら、クライアントに背を向けてもらい、コンサルタントと反対側を向いて座ってもらうことで、好奇心、傾聴、共感、リスクテイクを全員が深めます。振り向かないという選択肢もある。
・コーチングを、課題を明確にするための質問のみに限定する:アドバイスを与えない(別名:Q-Storming)。
・「援助のヒューリスティックス」、「聞かれる・見られる・尊重される」、「9つのなぜ」とつなげる。

”LS Menu 8. Troika Consulting”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「15%での解決策」については以下の記事で紹介している。解決策をよりよいものにするために、「トロイカ・コンサルティング」方式(3人1組でする、後ろを向いて相談など)で進めることはより強力な方法だと感じる。ただ、その場合には2つのLSを組み合わせて進めるための、参加者へのイントロダクションが難しそうだ。

 Q-stormingは、Webで調べてみるとブレイン・ストーミングの質問に絞ったやり方ということはわかったが、さまざまな手法や展開事例があるようで、誰がどのように始めて体系化したものであるかは、調べてみたが良くわからなかった。

 ただし、多くの質問を考えることに集中することで、解決策に集中するのとは違う切り口や結果がもたらされる可能性は十分にある。
 今後、LSの一つに加えられるのかもしれない。

 また、「15%での解決策」のほかにつなげることのできるLSとしてあげられた「9つのなぜ」については、以下の記事で解説している。

 「支援のヒューリスティックス」、「聞かれる・見られる・尊重される」もLSである。改めて紹介したい。

事例
・スタッフミーティングの冒頭や最後に。
・プレゼンテーションの後、参加者に次のステップを考えさせ選別させるために。
・学生同士の助け合いや、ピア・ツー・ピアの学習促進に。
・会議や大人数の会議の中で。
・グループ内での自主的な実践として。

”LS Menu 8. Troika Consulting”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 事例(推奨する使用場面)では、多くの人に知ってもらうこと、繰り返し使うことと、使う機会を増やすことが大事であることがわかる。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 心理的プレッシャーを軽減するために「背中をむける」という発想は非常に面白い。レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは「相手の顔を見ず、モデルを見て進めさせる」ことがポイントであるが、それと共通する点がある。

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、考えるべき「問い」はファシリテーターが出すが、その「問い(解決してほしい悩み)」をモデルで参加者が作り、残りの参加者がお互いに「自分なりの解決策」をモデルで作る、というワークが考えられる。

 以前に筆者は「タニモク」というという手法をレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドと組み合わせて行ったが、それに近いようなワークになるのかもしれない。

 この「トロイカ・コンサルティング」は、お互いに悩みを出し、相互にアドバイスしあう機会をその後も作ることを狙っている。それがその組織や集団の良い文化作りにつながっていく可能性がある。

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでも、ファシリテーターがいなくてもモデルを作りお互いに質問し合って内省力を深めることを習慣化する方法があることも大事なのではないかと考えさせられる。

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