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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(8)TRIZ

 今回取り上げるのは「TRIZ」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はこちらのNoteを読んでいただければと思います。

 今回のリベレーティング・ストラクチャーには「TRIZ」という名称がついている。TRIZはもともとロシア生まれの技法で1950年代に、ロシアの特許審査官であるゲンリッヒ・アルトシューラーが、さまざまな特許を調べる中で見出したとされています。アルトシューラーの後も後継者によってその内容はブラッシュアップされていったとのことだ。詳しくは以下の書籍をお読みください。

 上記の書籍では「発明原理」という言葉が前面にでているが、このLSにおいては、その前段階である「問題の定義」に光を当てている。

 他にも学術研究者による解説として以下のページがある。

 こちらを見ても、TRIZの体系は実際にはかなりの広がりがあり、このLSはその一部に光を当てたものだと理解しておくのがよいだろう(LSの名称が誤解を与えそうなのが残念である)。
 実際に、このLSの紹介ページにも「*ロシアの工学的アプローチである ”teoriya(理論) resheniya(解決) izobretatelskikh(発明) zadatch(問題)”の小さな一要素にインスパイアされています。」との注記がある。

 少し前置きが長くなったが、以下、このLSについてみていこう。

この方法で何ができるか?

 グループがその成功を制限していると知っている(しかしめったに認めない)ものを手放すのを助け、創造的破壊を呼び込むことによって、イノベーションのためのスペースを確保することができます。TRIZは、踏み込むことがタブーとされることに安全に挑戦することを可能にし、異端的な思考を奨励します。「われわれの最も深い目的を達成するために,われわれは何をやめなければならないか」という問いは,真剣に楽しく,しかし非常に勇気のいる会話を生み出します。しばしば笑いが起こるので、そうでなければタブー視されるような問題にも風穴を開け、向き合うことができるのです。創造的破壊によって、その空白を埋めるために局所的なアクションとイノベーションが殺到し、再生の機会が訪れます。フーッ!。

”LS Menu 6.TRIZ”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 このLSはTRIZのなかでも「問題の定義」に焦点を当てていると述べた。その問題は、皆が目を背けている点にあると考え、そこに光を当てることを促すものになっている。
 英語圏では「部屋の中のゾウ(the elephant in the room)」という言い回しがあるが、まさにそれを掘り起こす手法であるともいえる。

5つの構造要素

1.始め方
 
この3段階のプロセスで、尋ねていく。
①「トップ戦略や目的に関して、想像できる限り最悪の結果を得るためにできることをすべてリストアップしてください。」
②「このリストを項目ごとに”現在やっていることで、この項目に少しでも似ていることはないか”と自問していってください。 冷酷にそして正直に、すべての非生産的な活動/プログラム/手順についての2つ目のリストを作ってください。」
③「2つ目のリストの項目を調べ、望ましくない結果を生むとわかっていることをやめるために、どのような最初のステップをとるかを決めましょう。」
2.空間の作り方と必要な道具
・4~7脚の椅子で構成される小グループ。数は無制限。小テーブルはあってもなくても可。
・参加者が記録するための紙
3.参加の仕方
・仕事に関わるすべての人が含まれるようにする。
・誰もが平等に貢献する機会を持つ。
4.グループ編成の方法
・4~7名のグループ
・チームまたは混合グループを組む
5.ステップと時間配分
・はじめのことばの後に、3つのセグメントの説明をそれぞれする。10分
・TRIZの考え方を紹介し,望ましくない結果を特定する。必要であれば、グループにブレーンストーミングをさせ、最も望ましくない結果を選ばせる。5分
・各グループは1-2-4-Allを使用して,この最も望ましくない結果を確実に達成するためにできるすべてのことを最初にリストアップする。10分
・各グループは1-2-4-Allを使って、最初のリストの項目に類似している現在行っているすべてのことを2番目のリストにする。10分
・ 各グループは1-2-4-Allを使って、2番目のリストの各項目について、この望ましくない活動/プログラム/手順を止めるのに役立つ最初のステップを決定する。10分

”LS Menu 6.TRIZ”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「確実に失敗するようにするためには」という思考を促すことで、問題の構造を定義するという発想が非常に興味深い。「確実に失敗させる」ということで笑いも誘われるというのが良い。

 さらに着目したいことが、決めるのは「止める」ところまでで、何をするのかをここで決めないことである。その先は他のLSやイノベーションの手法につなげるということだろう。

 「1-2-4-All」もLSである。それについては以前に記事を書いている。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・言えないことを話せるようにし、クローゼットから骨格を取り出せるようにする。
・イノベーションのための余地を作る。
・難しい仕事を楽しくすることによって,創造的破壊のための土台を作る。
・TRIZは、ビジョンづくりのセッションの前に、あるいは代わりに使うことができる。
・障壁を取り除くために全員で行動し、信頼を築く。

”LS Menu 6.TRIZ”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 改めて、心理的な安全性を高めるほか、最終的に「止めることを決める」ことで新しい取り組みの余地をつくり、イノベーションを促す余地を作るという点がポイントであることがわかる。

コツとワナ
・TRIZには真剣に楽しむ精神で臨むこと。
・何か新しいことや追加的なことをするためのアイデアを受け入れないようにする。提案が、新しいことを始めるためのものではなく、活動や行動を止めるためのものであることを確認すること。待つだけの価値がある。
・非常に望ましくない結果から始めて,すばやくグループと一緒に提案を確認する。
・大笑いしているグループや混乱しているように見えるグループには、確認をする。
・今やっていることとの類似性を確認し、これがどのように有害であるかを探る時間をグループに取ってもらう。
・出てきた活動を止めるために関わる人を含め、「他に誰が必要か」を尋ねる。
・何を止めるかについて、"I will stop" "we will stop "の形で実際に決める(決めたことに1、2、3...と番号をつける)。

”LS Menu 6.TRIZ”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「わざと失敗させる」ということで面白さが生まれるが、バランスが崩れると現実を見るというよりも、「おふざけ大会」になってしまうので、その点に気を払うのが非常に重要である。進行役は、まさに「シリアスプレイ」が行われる状態作りを目指さなければならない。

 繰り返し方とバリエーション
・2回目、3回目のラウンドで、望ましくない結果に対する理解をさらに深めます。
・これらの結果(創造的破壊)をエコサイクル・プランニングによる活動の幅広い見直しにつなげます。
・アクション・ステップを共有します。その後、トロイカ・コンサルティング、ワイズクラウド、オープンスペースでより深く、ひも解いていく。

”LS Menu 6.TRIZ”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 繰り返し行うことによって、「シリアスプレイ」の感覚もつかめてより良い成果は期待できそうだ。またこのセッションを定期的に行うことによって、古いものやうまくいっていないことをレビューすることになり、改善の循環(エコサイクル)が起こせるというのも魅力的である。

 「トロイカ・コンサルティング」については以下のNoteで扱っている。

 「トロイカ・コンサルティング」に似ている「賢い群衆」についてはこちらのNoteを読んで確認してほしい。

 「オープンスペース(テクノロジー)」もLSであるが、改めて紹介したい。

事例
・医療の部門横断的なグループで、安全性の欠如(例:間違った部位での手術、患者の転倒、投薬ミス、異所性感染)を経験した患者への害を減らす。「どうすれば常に間違った側で手術するようになるか」
・機関のリーダーが、どのように不注意に多様な声を排除しているかに気づくのを助けるため。「どうしたら一部の人にしか通用しないような政策や慣行を考案できるだろうか」
・ ITプロフェッショナルのために。「誰も使いたがらないようなITシステムを構築するには、どうすればいいのだろうか」
・リーダー層向け。 「違う結果をもとめつつ同じ人と同じことを繰り返させるには、どうすればいいのだろうか」

”LS Menu 6.TRIZ”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 事例からみると、責任が大きいがゆえに機能不全を認められない組織にとって良いLSであるといえそうだ。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークショップでは、あえて極端な状況について考えさせるような問いを考えさせるときがある。

 このTRIZでも「確実に失敗させる」という極端な状況を想起させるという点で共通している。そこから、機能不全の原因を追求していくという流れは、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークショップのプログラム構成として大変参考になる。

 最初は「あえて失敗させる」という少し面白い取り組みから入っていき、途中から「自分たちが片棒をかついでいた」ということに気づくようにワーク自体が組み立てられている。特にその途中の転換(自らの非を認めなければならない場合もある)では心理的な抵抗や負担が大きいだろう。そこで、新しく別の何かをすると決めていくのではなく、あえて今までしていたことを「止める」に留めていることに知恵を感じる。

 個人的にしてきたこととして、問題の構造を明らかにする狙いがあるワークの場合にプログラムの中で問題の改善策まで一気に持っていくように組んでいた。
 今後は、あえて「止める」で留めるという選択肢も持っておきたい。

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