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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(6)意地悪な問いかけ

 今回取り上げるのは「意地悪な問いかけ(Wicked Questions)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はこちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 「だが、しかし...」や「そうともいえるが...」の思考を減らしながら、革新的な行動を喚起することができます。「意地悪な問いかけ(Wicked Questions)」は、直感的に明らかではない、絡み合った課題や可能性を明らかにすることで、すべての人をより鋭い戦略的思考へと導きます。「意地悪な問いかけ」は、常に行動に影響を及ぼし、変革の取り組みにおいて特に重要な、逆説的でありながら相補的な力を明るみに出します。「意地悪な問いかけ」は、表明している戦略と現場の状況との間の緊張関係を安全に暴露し、逆説的な水面の奥深く隠されている価値ある戦略を発見することを可能にします。

”LS Menu 4. Wicked Questions”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 このLSは、同時に成り立ちにくいが実際に両立させなければならないことや、注意をあまり払われてこなかったパラドックス(逆説)を言語化して掘り起こすことで、現状を新たな角度で見て、思考を活性化させることを狙いとするものであるといえる。

5つの構造要素

1.始め方
「成功するために、私たちが追求する必要がある相反するが相補的な戦略とはどのようなものか?」と問いかける。
2.空間の作り方と必要な道具
・4~6脚の椅子と小さな円卓(なくても良い)でグループをつくる
・記録用の紙
3.参加の仕方
・その作業やテーマに関わるすべての人が含まれるようにする
・誰もが平等に貢献する機会があるようにする
4.グループ編成の方法
・個人で
・少人数グループ(6名以下)
・グループ全体
5.ステップと時間配分
・「意地悪な問いかけ」とパラドックスという概念を紹介する。「意地悪な問いかけ」の例を2つほど挙げて説明する。次のテンプレート「どのようにして私たちは....と....を同時に成し遂げられるようになれるのか?」に2つの正反対の戦略を挿入して完成させる文章とする。5分
・まず一人で、次に小グループで、「意地悪な問いかけ」のフォーマットを使って、各参加者が自分の作品に登場する反対語またはパラドックスのペアを生成する。5分
・各グループが、最もインパクトがあり、かつ悪意のある「意地悪な問いかけ」を選びます。選ばれた「意地悪な問いかけ」はすべて、グループ全体で共有されるようにする。5分
・グループ全体で、最もパワフルなものを選び、「意地悪な問いかけ」をさらに洗練させる。10分

”LS Menu 4. Wicked Questions”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 やり方としては、パラドックスの概念とテンプレートを与え、それを参考に参加者に考えさせるというとてもシンプルな進め方である。

実施にあたっての追記事項

 「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・想像力を働かせながら、混乱した現実を説明する。
・前進するための革新的な戦略を開発する。
・政策や行動における放置や「二極化」を回避する。
・決定を評価する。どちらか一方を進めているのか、それとも両方に配慮しているのか?
・創造的な緊張に火をつけ、発見の過程でより多くの自由と説明責任を促進する。

”LS Menu 4. Wicked Questions”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「現実はそもそも矛盾に満ちていて、人間の側が気付かぬふりをしているのだ。」というメッセージが聞こえてくるようである。また、実際に社会生活や組織活動において、正しい目的や価値は一つに絞れるものではなく、複数の目標や価値がせめぎ合っているということから、そのバランスを意識し、一方に偏りすぎないことを、ワークなどで意識させたいときに特にこのワークが有効でありそうだ。

 コツとワナ
・参加者がパラドックスの両面を評価する形で表現するようにする。「私たちは○○であり、同時に○○であるのはどうしてでしょうか」と、互いに対立しないようにする
・逆説的な態度の感覚を掴めるように、さまざまな例を使用する。
・問いかけを完璧に意地悪なものにするために、前向きに失敗しながら、速いサイクルで作業する。
・非難を浴びせたり、一方に偏った意地悪な問いかけは避ける。以下は、ダメな質問の例です。「本社の官僚主義にますます多くの時間を費やさざるを得ないのに、どうして顧客に焦点を合わせることができるのか?」
・より多く分析にかければ答えがでるようなデータに基づく質問は避ける
・参加者に、自分たちの質問をより意地悪なものにするために他の人を巻き込むよう促す。
・現場での経験をもとに、「この2つが同時に当てはまることに気づいたのはいつですか?」とたずねる。
・「意地悪な問いかけ」はすぐに解消できるものではないので、定期的に「意地悪な問いかけ」のラウンドを追加して課題に戻る必要があるかもしれません。
・「意地悪な問いかけ」を生み出すことに長けている人は一握りであることがよくあります。彼らを輝かせて、グループの他のメンバーを刺激してください!

”LS Menu 4. Wicked Questions”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 矛盾を意識することはストレスがかかることだ。また、それ自体が誰かを非難する武器へと容易に転換させる。このワークでストレスから逃れようと参加者が「非難を浴びせたり、一方に偏った意地悪な問いかけは避ける。」という点には特に気を払わねばならない。そのような物言いが出たときに、ファシリテーターがそれを柔らかく退ける勇気を持たねばならない。

 また、このような質問を初めて考える人たちに向けたチュートリアルのテクニックを磨いておくこともポイントとなりそうだ。

繰り返し方とバリエーション
・「即興劇プロトタイピング」、「エコサイクル・プランニング」、「25/10 クラウドソーシング」の評価と推進に、「意地悪な問いかけ」を使用します。
・強力な「意地悪な問いかけ」ができたら、それだけで終わらせないようにしましょう。「15% での解決策」と「1-2-4-All」を使って、アイデアの生成とふるい分けを行います。「意地悪な問いかけ」をひとつでも進めることで、可能性が変わってくるのです。
・Brenda Zimmermanの”Edgeware”からさらに詳しく学びましょう。

”LS Menu 4. Wicked Questions”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 ここで触れられている「即興劇プロトタイピング」、「15%での解決策」「25/10 クラウド・ソーシング」については以下のNoteで紹介している。

 また、「エコサイクル・プランニング」もLSである。改めて紹介することにしたい。

 「1-2-4-ALL」については、他のLSとの絡みでよく登場することもあり、すでに以下の記事で紹介しているので参考にしてほしい。

「Edgeware」という書籍については日本語訳がでていない。Amazonの書籍紹介によれば、ヘルスケアにおける複雑性の科学を扱っている書籍である。複雑系科学の入門書としても推薦の声が多い。

事例
・子育てのアドバイスに対して:「家族への忠誠心と自立心を同時に育むにはどうしたらよいのでしょうか?」
・感染阻止に全員を参加させる方法をリーダーが発見するのを助けるために:「感染管理リーダーとして、部署が感染予防の実践をより主体的に行えるよう、どのようにステップアップし、またステップバックしてきたのでしょうか?」
・大規模なグローバルオペレーションを管理するために:「私たちは、常に、そして決して同じではありません...特異なグローバルアイデンティティを持つ組織であり、私たちはそれぞれの地域の環境に独自に適応しているのはどうしてでしょうか?私たちはどのように統合され、自律しているのでしょうか?」
・人事、財務、法務などの機能部門に対しては、その部門の組織の文脈の中で、その機能の本質をとらえた「意地悪な問いかけ」を浮き彫りにすること。
・個人的な「意地悪な問いかけ」を浮き彫りにする。例えば、自分と他者との関係や、個人的な課題との関係において、「意地悪な問いかけ」を浮き彫りにする。例えば、「仕事に専念すると同時に、家族のために完全に存在することができるのはなぜか?」など。

”LS Menu 4. Wicked Questions”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 これらの事例からも、人間が活動するすべての分野において「意地悪な問いかけ」を作ることの有効性がうかがわれる。他のLSと組み合わせたときの事例も蓄積され、共有されると有り難いと感じた。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 「意地悪な問いかけ」の種は、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークでは豊富に出現する。
 一つの問いを共有し、お互いにその問いに対する考えをモデル化したときに、全く同じものは出ないからだ。参加者は唯一の正解はなく、それぞれの人が「これが正しいのではないか」と感じているものが並ぶ世界がそこに現れる。つまり、モデルが並んでいる風景が「意地悪な問いかけ」と解釈することができる。

 「意地悪な問いかけ」は、参加者を「当たり前で満ちている自分の世界」から(それはコンフォートゾーンである)連れ出し、他の人との意見の相違を見せることによって創造力を刺激する。

 このときに大事になるのが、他の意見や主張、価値観との相違に向き合い、逃げないことである。「意地悪な問いかけ」の場合には、それらを一つの文章(問いかけ文)の中に押し込んでいくプロセスを辿らせることで、創造力を生み出している。
 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドにも、モデルを作って共有したあとに「みんな違ってみんないい」に留まらないようにしなければならない。「モデルの違いを統一して乗り越えたり、両立させたりするためにはどうしたらいいか?」などと一歩踏み込んで問いかけ、答えとなる作品をグループごとに創らせるような進行に乗せることで、「意地悪な問いかけ」のエッセンスをレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのワークに持ち込むことができるだろう。

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