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エフェクチュエーションとレゴ®︎シリアスプレイ®︎(1)コーゼーションとの対比から

 新たなビジネスを作り出す起業家の成功法則を説明するものとして、「エフェクチュエーション」という説明の体系がある。意思決定理論の権威であり、ノーベル賞受賞者でもあるハーバート・A・サイモンの最後の弟子といわれるサラス・サラスパシーが提唱し、学術界を中心に注目を集めるようになった。

 「エフェクチュエーション」とは何かを理解するために有効なのが、「コーゼーション」という考え方との対比である。「コーゼーション」と「エフェクチュエーション」について、上書に基づけば、その主要な特徴は以下のように対比される。

「コーゼーション」と「エフェクチュエーション」との対比

 表の最上段の「思考の出発点」という項目の「手段」は、今の自分が「知っている範囲の中で何ができるかを考える」という意味合いである。何か最終成果(目指すべき答え)が決まっているのではなく、手もとにあるもので可能な範囲で考えようということだ。

 二段目の「目指す成果」である「人工物のデザイン」について少し補足が必要だろう。まず、この「人工物」には、ひとがつくりだすあらゆるもの、それは何か具体的な建物や物にとどまらず、サービスや組織や制度なども「人工物」に含まれる。そして、予測不能な世界に存在する人工物はある程度の予測不可能な事態にも耐えて(場合によっては柔軟さを兼ね備えて)機能するようにデザインされる。サラスパシーによれば「もし...であったとしても(even if)」はエフェクチュエーションを理解するためのフレーズである。
 また、起業家の文脈に狭めて言い換えていくと「人工物」は「ビジネスモデル」であり、環境とも連動するという点では「市場(マーケット)の動態も含んだビジネスモデル」であるともいえる。この点、「顧客の創造」というフレーズを出したドラッカーの思想とも重なるところがある。しかも、起業家のつくりだす人工物は完全なものではないこともしばしばである(製品やサービスのプロトタイプだったりテスト的行為だったりする)。

 そしてこの人工物のデザインは、何かの「選択」を重ねる中で決まってくるのではなく「構築」することを通じて現れてくる。「コーゼーション」における主要な行為である「選択」の前提には「選択肢」の存在がある。その「選択肢」は「最終成果」から論理的に導き出されるものである。「構築」では最終成果が明確ではなく、構築の材料は自分の手元にあるもの(そのつもりはないのにストックされていたもの)から見出されるものである。

 「エフェクチュエーション」は万能ではない。「コーゼーション」が有効な条件下もある。行動のためのあらゆる情報が容易に得られ、その情報が変わらない場合には、その情報をもとに分析を行なって最終成果の最大化をもたらす「選択」をすることができる。しかし、そうでない場合(起業家が飛び込む場所ではほとんどその状況であるが)には「エフェクチュエーション」が有効ということだ。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、基本的に自分が知っている(普段は忘れている)知識にアクセスし、それをモデルで表現する。

 問いを出されたのち、判断材料の情報が外部から所与のものとして与えられるのではなく、「自分が知っている範囲で何ができるか」というアプローチで迫っていくという点においては、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドはエフェクチュエーションの世界観に沿っている。おなじく、選択肢の中から何かを「選択」するのではなくモデルを「構築」するという点もエフェクチュエーションの世界観である。

 一方で、単にレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの標準的プロセスに沿って進めているだけでは、参加者にとって、内面にあるものを可視化するように構築しているという感覚はあっても、人工物をデザインすることを目指して進んでいるという感覚はあまり意識されることはない。それを意識させねば「エフェクチュエーション」に沿った思考は消えてしまう。

 さらに注意しておきたい点が、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、「エフェクチュエーション」的な思考から出発しつつ、意味の共有により不明瞭さを排除して「コーゼーション」的な落とし所へ持っていくことができてしまう(企業研修などではそれがクライアントから求められるかもしれない)。つまり、不明確だった目標をモデル作りを通じて明確にしたり、モデル間の分析を通じて、組織やチームで取るべき行動を明確にしたり(つまり選択)させることもできてしまう(※)。
 ※そのように表面上見えているだけで、実際には「コーゼーション」へと転換できていない可能性もあるので、今後さらに考察を深めていきたい。

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドで、「エフェクチュエーション」の思考を展開させたいならば、「コーゼーション」にもある程度、対応できる幅の広さもあることを意識した上で、ワーク設計やファシリテーションをしっかりと「エフェクチュエーション」に沿わせることが重要である。もしそうできるのであれば、レゴ®︎シリアスプレイ®︎が、起業家教育に貢献できるわけだ。

 そのような意味からも、エフェクチュエーションとレゴ®︎シリアスプレイ®︎の関係について、より理解を深めていくことには価値がある。

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