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巡拝note:涼をもとめて貴船の神々

7月11日、京都の貴船神社へ参拝。
貴船神社では水の神・高龗神タカオカミのカミを祀る御本社と奥宮、ついで磐長姫命イワナガヒメのミコトを祀る結社を巡ったことすでに述べましたが、境内にはほかにも末社がいくつかある。
今回はそれら末社や境内の風景をまとめてご紹介。


貴船神社一の鳥居から本社へ

叡山電鉄の貴船口駅からバスで貴船神社に向かうと、貴船神社の一之鳥居に会えない。貴船口駅から貴船とは反対の川の流れる方向に進み橋を渡ったところに貴船神社の一之鳥居がある。

貴船神社一の鳥居、梶取社

一之鳥居の傍らに鎮座するのが梶取かじとり社。
御祭神は宇賀魂命うかのみたまのみこと
創建伝説に由来の、かつて玉依姫命が川を遡り貴船の地にたどり着いたときの船のカジをとっていた梶取大神を祀るとも言われている。この地は鞍馬川と貴船川が落ち合うあたりでありで、船のカジをとった梶取大神のほうが社名からはふさわしい。

梶取社
一之鳥居
貴船口駅

ここから貴船川に沿って上流へと向かう。貴船川は渓流で岩場が多く、船で遡るのは困難でしょうね。
しばらく進むと、苔むした大きな岩が路傍にある。これが蛍岩。

貴船川
蛍岩

もの思へば沢の蛍もわが身より
 あくがれ出づる魂かとぞ見る
      和泉式部『後拾遺和歌集』
いまも初夏になると蛍の乱舞が見られるそうだが。

貴船山

さらにさかのぼり、梅宮社。
御祭神は木花開耶姫命このはなさくやひめのみこと
貴船神社結社のご祭神・磐長姫命の妹で、姉とちがい容姿美麗と伝わる。
右京区の梅宮大社の御分霊か。

梅宮社
貴船川

さらに進むと川の対岸に白石社。ご祭神は下照姫命。
白石社へは橋がないので、川を渡らないと行けない様子。参拝日は水の量がやや多め。無理せず対岸から遥拝。

白石社

白石社を過ぎると風情のある料理屋さんが増えてくる。訪れた時間は朝早かったので、どちらも開店前です。道を往く人もあまりいません。

貴船道

やがて貴船口からのバスの終点、鞍馬寺の西門などを過ぎると貴船神社の二の鳥居が見える。朱と緑は素敵なコントラスト。

貴船神社二の鳥居

貴船神社本社境内

二之鳥居から石段をのぼって本社へ。この鳥居の脇に苔のはえた立派なケヤキがあり、その根元に鎮座するのが白髭社(御祭神:猿田彦命)。

ケヤキと石段
白髭社とケヤキ
手水舎

御本社の北側にも鳥居があり、本社から奥宮へ行く場合、この北側の鳥居から出られたほうが便利です。

御本社北側の鳥居

本社北側の石段を下りる手前、左手にいくつかの末社が鎮座している。ちょうど本殿の裏手にあたります。

まずは、牛一社。
現在のご祭神は木花開耶姫命ですが、古伝によると牛鬼。
太古の丑の歳、丑の月、丑の日、丑の刻に降臨された貴船大神のお供をした神と伝わるそうですが、それならば木花開耶姫命よりも牛鬼がふさわしい。社名も牛ですし。

右、牛一社 左、川尾社

丑の歳、丑の月、丑の日、丑の刻に降臨されたから貴船は丑がご縁の日。丑の刻参りも貴船大神の大いなるご利益を賜らんための参詣でしたが、それは必ずしも良い行いにのみ願うとは限らない。願いと呪いは紙一重。

宇治の橋姫は貴船の神に願い鬼となった。また謡曲に『鉄輪』というのがある。ほかの女のもとへ行った男を呪い殺そうとする話だが、安倍晴明に阻止される。
でもね、『鉄輪』で鬼女は退治されない。時期を待つ、といって去る。嫉妬はスーパースターの陰陽師でも終わらせることはできないようだ。

なんで丑なのか、という疑問があるが、これは上賀茂神社から丑の方角に位置するからといわれる、と書いてある書物があった。貴船神社は平安末期のころから上賀茂神社の支配下にあった。
ちょうど上賀茂神社のそばを流れる賀茂川の上流に位置し、降雨止雨を司る神が祀られているとなれば、次第に勢力を強めてゆく賀茂社がこれを管理下におさめようとはたらくのも無理からぬこと。

地図を見てみると貴船神社は上賀茂神社からみてほぼ北に位置する。古人の感覚でこれを丑の方角(北北東)としたのは、まんざらでもないかもしれない。
とするなら、貴船大神が丑の日に降臨した伝説は、貴船神社が上賀茂神社の摂社となっていった中世以後の伝承の可能性が高くなる。

ついで川尾社。ご祭神は罔象女神みずはのめのかみ
古くは奥宮参道口に流れる思い川のほとりに鎮座していたが、いつしか鈴鹿谷の川下にうつされたゆえ川尾社を称するようになった。水の神、川の神。

牛一社、川尾社よりさらに石段をのぼったところに鈴鹿社。
御祭神は大比古命。古伝では伊勢の皇大神宮を祀るという。
鈴鹿社のあたりは本殿の真後ろになる。そして鈴鹿社の上にあるお社はおそらく権殿だと思われる。権殿へ一般人が近づく道はなし。

鈴鹿社 上にあるのが権殿か

ほかに本社境内には祖霊社がある。
また境内にはご神木のカツラの木がある。貴船は「木生根」「木生嶺」あるいは「気生根」「気生嶺」とも書かれるそうです。豊かな森、そこから満ちてくる気を感じさせる文字。

右手にあるのがご神木のカツラ

こちらのカツラの木は樹齢四百年。樹高30m。根元から枝が分かれている姿は、御神気が龍のごとく大地から吹き上がっているさまのようで、そこからご神木と崇められる理由のようです。

カツラの木は結社にも奥宮にもある。では取り急ぎ奥宮へ参ります。意外とここまで長々としたものになってしまった。

貴船神社奥宮周辺

奥宮の手前に大きな杉の木がある。根元から二つにわかれて伸びているので「相生の杉」。樹齢千年という。
この相生の杉の近くに軒を連ねて私市社と林田社が建つ。

相生の杉、私市社、林田社

向かって右側が私市きさいち社。ご祭神は大国主命。
向かって左側が林田はやしだ社。ご祭神は少彦名命。
私市・林田を併せて「二つ社」といい、貴船明神の荒魂を祀るとも伝わる。

相生の杉の先に鳥居が見えてくる。ここが奥宮への入り口になる。鳥居のすぐを流れる小川が「思い川」。
もともとは奥宮参詣の禊をする川で「御物忌〔おものいみ〕川」だったのが、和泉式部の恋の歌などに寄せて、「思い川」へと変わったとか。

奥宮入り口の鳥居
奥宮参道

奥宮の境内に入ると左手に「連理の杉」、その前に日吉社が鎮座する。連理は別の種類の木が重なり和合するもで、ここでは杉と楓が重なる。正確になんの樹木か分からなくても、ふたつが異なる種類であることは分かるかと思う。

日吉社 後ろは連理の杉

日吉社。貴船の山を守護していただいている。現在のご祭神は案内版によると大物主命、古伝では大山咋神とある。
近江の日吉大社はもともと大山咋神を祀り、のち大和の三輪から大物主またの名を大己貴が招かれた。時代がくだると本来の神より後からの神のほうが優位に立っていった。貴船の末社の案内版にもそんな経緯を垣間見せる。

さらに入りと左手に吸葛すいかずら社。
御祭神は味鉏高彦根命あじすきたかひこねのみこと、古伝に百太夫とある。葛城の鴨氏の氏神が貴船の地に祀られている。

吸葛社

吸葛社のお向かいに、カツラの木を伴うように建っているのが、鈴市社。
御祭神は姫蹈鞴五十鈴姫命ひめたたらいすずひめのみこと。初代神武天皇の皇后となられた。

鈴市社 ご神木のカツラ
奥宮境内 正面奥に船形石がある

やっと奥宮にたどりつけた。長くなったので本日はここまで。貴船神社もここまで。また訪れたい神社ではある。



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