逃げ

 バイト、勉強、運動。全部終わってからの自分のための時間。何も楽しいと感じられないだろうと、どこかで思っているのかもしれない。 

 いつか見た夢を思い出した。病院のような、市役所のようなところの待合で妖精と話している。その妖精は半透明の薄い羽を動かしていて、服装も顔・体もそこらの人間と変わりない。ノースリーブのワンピースを着ている訳では無い。どちらかと言うと部屋着のようで、灰色のスウェットを着ている。
 ただそれだけの光景、状況なのに、ものすごくワクワクとしたのを思い出した。ワクワク、ドキドキ。「ここにずっと居たい!」そんな気持ち。安心では無いけれど、自分の好みにピッタリだと感じた。実際の私は、そんなところ好みだったろうか。たしかに昔は“可哀想な自分になれる”と思っていたからか、なんだったか……ともかく病院が好きだった。特に耳鼻咽喉科の吸入は大好きだった記憶がある。吸入用の札を貰って、吸入の残り時間を示す赤いランプが減っていくのをただ眺める。それがすごく好きだった。今じゃ病院に行きたがると迷惑が掛かるというのを覚えて、あまり行こうとは思わなくなってきた。
 私が不登校になった時、精神科に行きたがった。自分が鬱なんだと、不安障害なんだと、そう言って欲しかったのだと思う。だから私は学校に行けないんだと、だから学校なんて行けなくても大丈夫だと言って欲しかったのだ。“精神疾患者”のレッテルを貼られることで、学校から逃げたかった。曖昧な自分の性、一人称でからかわれる生活、友人の暗い過去と比較する私の過去と家庭、どんどん分からなくなる自分の心。もう何もかもから逃げたかった。
 結局は楽な方に流れていくだけの人生だ。あとあとそのツケを払わされることも分かっていたくせに。
 楽な方に流れたツケを、今やっと払う覚悟が決まったような、未だ逃げたいと感じているような、そんな気がする。いつまでも曖昧で、どこかはっきりとしている。それすらも“曖昧”と呼ぶのかもしれないけれど、まあそんな今。

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