シナリオサンプル1

西暦2×××年―
神はある日、配下である天使たちに、人間たちを“天使化”させ、その身体と魂だけを天に送るように命じた。
“天使化。”
生きた人間を殺さず、そのまま天界に召されるよう、天使と同一の構造に作り替える。まずは脳をより効率的に。体をより神秘的に。心をより美しく。
そうした神の行いにより―人間界・横浜には、異形のものが蔓延るようになった。虚ろな目で子供のようにマザーグースを唄いながら徘徊する、“蜘蛛のような男”や、“蛙のような女”、“目玉の塊”“動く脳みそ”“犬の腐乱死体”“卵を産む水死体”“串刺しの赤ん坊”“手足の生えた机”。人間たちにとってそれは、地獄よりほかにない光景だった。
これを危惧した真の地獄の悪魔であるベリアルは、一人の人間(主人公)に力を貸し、相棒と呼んで、共に人間たちを天使化から解放する旅に出る。

主人公とベリアルは、天使化された人間や、無理やりにでも天使化を進めるさまざまな天使たちと戦っていくなかで、ひとつの真実に行きつく。
それは『神』が世界を見放し、全ての破壊を決定したということ。“天使化”は、いわばノアの箱舟だった。
―そして、『神』は機械であり、信仰が薄れるにつれて老朽化し、ウイルスに蝕まれ、世界を管理する能力を失うほどのバグを発生させていたこと。更に、そのウイルスは、別の宇宙から持ち込まれたものであること。全てはウイルスに感染した『神』のエラーだった。
異星からやってきた支配者たちを退け、『神』を正常に戻すことはできるのか。
主人公とベリアルは決戦のちに向かうのだった―

みなとみらいで天使化された元人間(化け物)が、人々から暴行を受けている。主人公はそれを止めようとするが、暴れる人々に返り討ちにされる。そこへベリアルが登場し、天使化から解放する力を主人公に授け、無事騒動は収まった。改めて対峙したベリアルは、主人公に交渉を持ち掛けるが、主人公は見るからに怪しいベリアルを訝しむ。

ベリアル 「何で天使化を止めるかァ~~~?ンなもん、ムカつくからに決まってんだろ。俺たち悪魔にとって人間はオモチャなんだよ、オーモーチャ。わかる?娯楽のない人生、辛いよねー。お前ってさ、趣味ある?」
主人公 「えっ。映画…とか」
ベリアル 「映画ね。もし世界から映画がなくなったらどーするよ。抗うよなァ、ファンなら。俺も好きだしさ、映画。もし本当にそういうコトになったら、寿命と引き換えにとびっきりのアサルトライフルをあげちゃうよ。おまけで毎日耳元で囁いてやるぜ、映画を規制する為政者を殺せってな」
主人公 「つまり…楽しみのため?」
ベリアル 「オイオイオイ楽しみを軽んじるなよ、喜劇を笑うものは喜劇に泣くぜェ~?人間と俺たちから欲望を取ったら何が残ンだよ~ッ」
主人公 「色々残ると思うけど。性悪説は好きじゃない」
ベリアル 「へェ奇遇。俺も嫌いだぜ。人間に善悪を考える脳なんかありゃしねえよな~っ」
主人公 「…」
ベリアル 「悪い悪いそー睨むなって、お前に嫌われたくないんだよーわかる?ただ価値観が違うだけさ、俺たち。音楽の好き嫌いと同じ。パンクスはメタルとフュージョンが嫌いだろ?」
主人公 「はあ…。ともかく、俺に手伝わせたいんだよな」
ベリアル 「そりゃな。天使化っつってもさー俺が耳元で囁いたらホラ、地獄まで一直線だから。そこはやっぱ、同じ人間じゃねーと。目には目を、歯には歯を、凹には凸を!」
主人公 「具体的には?何をすればいい」
ベリアル 「俺たちの力を集めろ。72柱、この横浜じゅうにバラ撒いたからさ~ッ。そんで強くなって、お前が思い出させてやるんだよ。人間であることの素晴らしさをさ。ヤツラ陶酔しきってるだろ?この世界がお花畑に見えてんのさ。苦しみのない楽園だって思い込んでる。だからブン殴って現実を思い知らせてやれ。この世界はど~~~しょ~もなくクソッタレで、生きてる価値の無い肥溜めで、テメ~もその中の汚物のヒトカケラなんだってさ」
主人公 「…なら、彼らは天使化されているほうが幸せなんじゃ?」
ベリアル 「バァーカ!だから困るんだっての!幸福な人間なんてゲロに集る蛆虫以下なの。俺たちが食いっぱぐれちゃうでしょ?キビシー社会なんだからね?ノルマがあるんだから」
主人公 「そうなんだ…」
ベリアル 「それによぉ。神サマは俺たちには試練を与える役割があるんだって言ってくれたんだぜ…古い約束だけどよォ~ッ。今更になって手のひら返すとかねーだろ?ヒデーだろ?そんなのってないぜ。傷つくぜ。傷ついたらこの世界燃やしちゃうぜ?燃やしたらまた退屈で悲しくなんだろ」
主人公 「…まあ。俺もなんとかしたいって思ってたから」
ベリアル 「お?お?正義感あるタイプだね。いいねえ~ッ堕落させ甲斐がありそうだ。お前何に弱い?金?名誉?女?どれでもたんまり用意してあげるよ!」
主人公 「どれにも弱くない」
ベリアル 「建前ってのは、唯一人間に許された自由よねェ~ッ」
主人公 「ハア…」

元町で権天使ザドキエルが、今まさに人間を天使化しようとしているところに出くわす。主人公はザドキエルに何故そんなことをするのか、と問い詰める。

ザドキエル 「―なぜ?これは理由なき救済ですよ、人間」
ベリアル 「罪ある人間まで天界に連れていかれちゃ、こっちも商売上がったりなんですけどォ」
ザドキエル 「“罪ある人間すら許す”のですよ、我が主は。人間、お前も横浜で虐げられる使徒を見たでしょう。あれは人間界では名の知れた殺人鬼だったのです。それを私たちが許し、祝福し、天使化させたのです」
ベリアル 「あァ?そんなに寛容だったか?テメーらの飼い主は」
ザドキエル 「ええ。他にも、不治の病で意思すら持たなかった者。心を病んで現実に怯え続ける者。盗みを働いた者。同性と通じた者。自殺を試みた者。親を失った者。力なき者。飢えに苦しむ者。皆全て、天使化してさしあげました。彼らは―“それさえなければ善人だったはずなのですから”。彼らに誰が救いの手を差し延べるのか?―我が主をおいてほかにありません」
ベリアル 「まるでヤケクソじゃねーか。セール品みたいに、パッケージもよく見ずにポンポンカゴに放り込みやがって。人間から尊厳を奪う行為だ、自覚はあるのか、権天使!」
ザドキエル 「お前の言う通り。もはや人間は人間である必要などない―主はこの世界を見放されたのです。もはや地球の生命体に価値は無い。なればこそ―安らかに天界へ召されるよう、天使化という最後のお慈悲をお与えになっているのですよ」
ベリアル 「ハッ…、馬鹿言え!いくらあいつでも一人でそんな判断が出来るか。どうせミカエルあたりが都合の良いように吹聴してるんだろ?」
ザドキエル 「いいえ―主ははっきりと宣言されたのです。“破壊”を」
ベリアル 「へえ…だとしたら、あんたらの主人はもうとっくに“壊れている”な。なにせボロ雑巾だろ?モーロクしてんじゃねーの」
ザドキエル 「はあ…やはりお前は下劣な悪魔ですね…。天邪鬼であることに意義を見出すのは時間の無駄ですよ。死ぬ前の後悔を増やすだけです」
ベリアル 「上等。お前らみたいに純粋で、お綺麗で、心配性なヤツらと同じ墓場で寝てられねーよ。寝ゲロが詰まって起きちまう!オー、我が主、この苦痛を受け取り給えー!」
ザドキエル 「わかりました、お前たちは殺します。殺してでも天へ連れていきます」
ベリアル 「そうこなくっちゃ。相棒、要領はわかってんだろ?サクッと生ゴミにして、ここらの人間の天使化も解いちまおうぜ!」
 ザドキエルとの戦闘が始まる。
ザドキエル 「させません。天使化は主の心そのものなのですよ!苦痛からの解放に、なぜ抗うというのです。そんなものは一時的なエゴです、大いなる意志の前に人間の矜持など、塵に等しい。正しきものを見て、聞きなさい!」
ベリアル 「本音が出たな、ザドキエル」
ザドキエル 「お前とて同じでしょう、ベリアル。かの魔王が命じれば、お前も人間に“従わせる”ハズ。尊ぶべきものを間違えてはいけません」
ベリアル 「ギャーッハッハ!!そんなもの―そんなものは、俺たちは指さして笑って応援するに決まってんジャン?」
ザドキエル 「は…」
ベリアル 「わかってないねェ天使様。人間は“玩具”だぜ、それもとっときのな。サタンのジジイに逆らうクソバカが居たらどうするか?俺たち全員、エール片手にアリーナ観戦で賭けをするだろうさ。キミタチとは価値観が真逆なんだよねェ~ッ」
ザドキエル 「ええ。その下品な笑みで確信しました。私達は人間を管理し、お前たちは人間を唆し、弄ぶ。それが何を呼ぶかも理解せず―いいえ、たとえ自らの滅びを招くことになろうとも、それすら快楽に変える、度し難い“悪魔”なのだと」
ベリアル 「お褒めに預かり光栄だぜ、天使サマ。まあ、地獄じゃ“テンシ”は蔑称もいいとこだがなあ」
ザドキエル 「奇遇ですね。悪魔も天界では発語すら禁じられた差別用語です」
ベリアル 「優等生がそんなこと言っちゃっていいの?」
ザドキエル 「ここは人間界ですよ。天界のルールなどありません」
ベリアル 「メチャクチャだねえ。嫌いじゃないぜェ」
ザドキエル 「悔い改めるのです。お前も魂のどこかには善性があるのです」
ベリアル 「オエェ~ッ ちょっとちょっと、精神攻撃は卑怯だろ?」
ザドキエル 「お前もどこかで何かを間違えなければ、きっと天に召されるに相応しい生涯だったのでしょう。お前も天使化すれば必ず思い直します。そして神に感謝するでしょう。豊かで新しい世界を目にし、人々に与える喜びを覚え、無償の愛に涙を流す。毎日、誰かしらに尊重され、ただ歩くだけで賛美されます。胸のうちにいつも温もりがあり、心身ともに傷つくことも、それを恐れることもありません。地獄とはお前の主観で捉えていたごく一部に過ぎず―努力をすれば報われて、幸せになれるのです」
ベリアル 「オイオイオイ。だからカルト宗教とか言われんだぜ?おたくら」
ザドキエル 「ベリアルッ!!」
ベリアル 「まるで現世に何の救いも無いみたいに言うじゃないの。人間は人間で、結構満足してるぜ?」
ザドキエル 「ならばなぜ罪を犯すのです」
ベリアル 「もっと満足したいからさ!」


 旅を経て、ついに『神』のもとへやってきた主人公たち。山下公園の底に沈んだスパコンの群れの下で、ミカエルが座っている。
ベリアル 「やーっぱテメーじゃん、ミカエルチャン」
ミカエル 「やあ。ベリアル。地獄の代行者も一緒か」
ベリアル 「お前?神をおかしくしてんのは」
ミカエル 「はあ、嫌だな。何かあるとすぐ僕を犯人にして。矢面に立つ天使は辛いよ」
ベリアル 「いいからそういうの」
ミカエル 「もちろん違う。主は“もともとおかしかった”。僕らは主の命じるままに行動しているだけさ」
ベリアル 「へえ。そういうの、言えるんだ」
ミカエル 「“おかしいから何だ”、という話だよ。人間にもいるだろう?ブラックな職場を辞められない社畜。僕らでは到底適わない、僕らがやったところで届きはしない。天上の神とはそういうものさ」
ベリアル 「ふうん…」
ミカエル 「君達はそういうの嫌いそうだね。でもどうにもならないことはある。守らなければいけない規律がある。僕らは規律によって守られているから。清く正しく美しいことがレーゾンデートルだから。自分で自分の存在を否定したら、狂ってしまうもの。」
ベリアル 「静観が趣味か?」
ミカエル 「そうだね。火の粉を被るのは御免だ。つまるところは皆、それかもね。立ち上がる勇気よりも、認知される羞恥と恐れが勝る。でもそれでいいじゃないか。それでも僕らは愛されるんだ。父と母が産まれたことを肯定してくれている。善悪とは何か?―それは自分のなかにしか無いんだ。」
ベリアル 「欲と一緒にキンタマも捨てたか、ミカエル? 所詮テメーラは無菌室育ちの免疫ガバガバクソ野郎だ。子供部屋に引きこもってりゃいいものを、人間たちにグロテスクな理想を押しつけやがって」
ミカエル 「そういう存在だもの。僕はただの機構に過ぎない。僕を殺すのならそれでいいよ。君の相棒の気が済むならね―どう?罪のない者を手にかける気持ちって?」
 ミカエルが主人公の顔を覗き込み、まるで諭すように囁く。主人公は今まで自分がやって きたことを思い出してハッとする。
ベリアル 「今更惑わされるな!お前はもう何人もの人間を殺した。天使を殺した!良心の呵責があるならそれでいい!足掻け、みっともなくよォ!ド汚ェツラで進め!俺が許す!俺が賛美し、祝福してやる!悪こそ美だ!だからコイツを殺せ!」
ミカエル 「君が祝福なんて。ああ、押してもダメなら諦めてみるものだね。さ、色々反転した世界だけど―人間、お前は、混乱せずに立っていられますか?自分を証明し続けることができますか?出来なければ―お前は人間以下の塵です」
 ミカエルとの戦いが始まる。

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