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27歳無職が痔で入院したレポート・3日目

 痛くないけど、痛い。

妙な感覚で目が覚めました。

未だ異物感の残るケツ、異様に痛い点滴痕。
きっちり夜明けと共に起床し、看護師さんに頼んでドーナツクッションを用意してもらいました。

 もうだいぶ痛みが落ち着いていて、二日ぶりに自分で立って歩き回れるほどに回復しました。ここにきて初めて顔も洗えた…。

 これでやっと退院できると思ったものの、例の止血剤が出てないことと、施術した院長が不在とのことで許可がおりませんでした。いねぇってなんだよ、諦めてんのかよ最初っから。

オメェ、看護師にあのグラサン笑われてたぞ!!!!

これは完全に怖すぎてウンコしてなかったのが裏目に出ましたね。
痛すぎて飯すらままならんというのも事実だったのですが、2割くらいは「ウンコしたら何がどうなるかわからんので怖くて食えん」というジレンマがありました。でもよく考えたらそんなバリカタド一本グソ😡じゃなくてちゃんとウンチやわやわ薬😊みたいなのを処方されているのでそんなに恐れることでもない。筈。現にオナラ的なサムシングがチラつくたびに悪寒というか嫌な予感が過ぎるのですが。

 暇すぎてレポートを整理して公開したところ友人たちから「今から面接だったけど緊張が紛れた」「笑っちゃいけないと思ったけど笑った」との声をいただきました。こんなもんなんぼあってもいいですからね。こんなので笑って何とかなるならいくらでも笑ってくれ。

 しかし本当に痛みがなくなってきました。昼頃にはゆゆうたの一般男性脱糞シリーズを口ずさむ余裕すら出てきます。これで俺はもう二度と痔を謗られることはないんや。天下や。天下を取ったんや。明日から俺が大名や。母ちゃんを政所にするんや。待っててくれよ。

 お昼ご飯はとうとうお粥じゃなくてふかふかの米が出てきました。
——出せ、ということなのか。これを食して。(お腹ゆるゆるマンにありがち:米食うと出る)
ここの病院食結構おいしくて嬉しいんですがやっぱなんやかんやいうて絶食明けのおかかお粥が一番五臓六腑に沁みた気がする。砂漠の中でオアシスを見つけた時のような。汚部屋から賞味期限の切れてないサトウのご飯が見つかった時のような。砂利の中の宝石というかね、食事の「美味しさ」というものにはその時の「感動」も含まれるんだなぁと実感しました。

「こちら大脳。肛門班、排泄に問題は無さそうか。応答せよ。」
「こちら肛門デルタ。こっちは血のバースデーもズットイテェー海戦も潜り抜けてきた猛者揃いだ、腕の一本二本じゃびくともしねぇよ。(パロディAVみたいなクソ改悪表題やめろ)」
「碇……どうするんだ。」
「父さん、どうしろって言うんだよ。父さん!」
「司令!!このままじゃ、民間人が巻き添えです!!」
「出せ、シンジ」
「出しなさいシンジくん!他の誰でもない、あなた自身の願い(退院)のために!!」

 僕には無理です。綾波もアスカもみんな死にます、ごめんなさい。

私ダメなんですよね、出せ出せとせっつかれると途端に出ないんです。普段は余計なものまで出るのに。いつもユルユルなのに検便の時だけ便秘になったり。肝心な時ばっかり……クソッ!アタイっていつもそう!

「出さんことには(病院)を出られん」。

つまり病院の門と肛門をかけたロジックパズルだった……てコト……!? 

 そんなこんなで今多方面から
「早くウンコをしろ」
と圧をかけられている状態です。

そもそも胃腸に内容物が無い(ダジャレじゃないです)上それら全てがケツへの痛みに耐えるためのエネルギーに変換されてしまっていたため『残り滓』が存在しないんですね。

なので午後の紅茶をがぶ飲みして窓の外を眺めながら鼻クソほじりつつ便意を待っています。頑張れ私。もう何も怖くないのよ。あなたはここに居ていいの。

 夕方になると早めの晩御飯が運ばれてくる。
なんかの魚の唐揚げ。うまい。それで掻っ込む米。うまい。なんか煮たお揚げ。米。うまい。
にわかにグルつく腹。これはイケる。完璧な未来しか見えない。食事を終えた私はゴージャス⭐︎アイリンみたいな歩き方で肩で風を切りながら颯爽とトイレに駆け込みました。


ノブ「屁しか出ん!!!!!!!!!!!!」


屁しか出んのよ。どうなっとるんやワシの身体は。

チキりすぎてんの?訊いたらいいの?スルッと出るってどの程度ですか?いつも通りに気張ればいいんですか?いつも気張ってるときは

「孤独死する時はこの体制だろうな」

て思うくらいかなり全身全霊で気張ってるんですけど?痔を育てた張本人の気張りでいいんすか?もう一度入院できるドン!てことですか?
もし万が一それでブチッとか聞こえようもんなら私の心もブチッといきますけど?女性は血と痛みに強いみたいに聞きますが私は全く強くありません。紙で指先切っただけでゴリラのように大騒ぎして暴れ狂いますけど?わかった聴覚か、聴覚を遮断すればいいんだ。でもそれで今度はそのブチッの感触だけ感じたら?とても生きてはゆかれないよ。

こうなってくるともう気持ちは承太郎とネズミ狩りに出かけた仗助くんですよ。どうしろっつーんすかアァ〜ッッ!!
プレッシャーを感じるとセロトニン受容体がバグを起こして扁桃体が過活動になる病気を患っているのでいよいよヤバいんじゃあないかとドキがムネついてきます。心療内科の薬持ってきてて良かった…!!
中でガーゼが腐っててとかだったらどうしよう、いやだったらますますスルッと出てこいや(高田延彦自由律俳句 なっちゃん先生「ゴミで〜す!!!!」)
もうこの際死んでも良いから無理くり摘出してくれんか。ダメなんかそういうのは。

 夜型、薬を塗りにきた例のベテラン看護師さんに止血剤?ガーゼ?的な棒状の“何か”が出かかってると言われた時は泣いて喜びました。
そのあと物をボロボロ落としながら「今日はよく落ちる日だね きっと出るよ」と微笑んで去って行ったので彼女はきっと神の遣いか何かだったんだと思います。とことんジブリっぽい人だ。あとすいませんけど色々落ちるのは私が私物を整理もせずやたらめったら転がしているからです、すいません。ガーゼが中で腐ることはないそうです。気休めでも嬉しいよ。

覚悟を決めてもう一度トイレへ。確かに出口付近に何かを感じる。
しかしやはり出ないものは出ない。

私は虚無を排泄した。
と思っていたんですが、なんかトイレから出た瞬間から痛みが消えた。
——もしかして……出た????——
いやまだわからん、自分ででんぐり返しして直に確かめたわけではないので現状“ゲート”がどうなっているか把握できていないのですが、妙に軽い。ケツが軽い。これが痔からの解放。痔を患っていない人間が見ている景色。空気は澄み、小川が流れ、鳥は歌う。こんなにも違うのか。そりゃ痔じゃない人が痔の人間の気持ちを理解できないわけだ。
価値観が人を隔てているんだ。肌の色や思想や宗教なんかじゃない。人間は“患っているか”“患っていないか”、そのどちらかしかないんだ。
私は真理を解いてしまいました。大統領とかもやっぱデスクワーク多いだろうからな。皮肉なことに、解放されてから、自分が囚われていたものに気付くなんて。檻の形は、外に出てみないとその全容が掴めない、といったところか——。

 約一時間後、それが純然たる勘違いであったことが発覚しました。しかし、それは最も期待していた形で裏切られることとなりました。

????「パァ!!!!出た!!!!」


出たぜ!!!!ヌルリとよ…!!!!すげえ!!!!すげえよノクト!!!!やったなグラディオ!!!!イグニス!!!!!!プロンプト!!!!!!!!見てたか!!!!????!!!!????
どうせまた虚無だろうと、それでも尚諦めずに午後の紅茶啜り続けた結果でした。俺が!!!!俺自身の力で!!!!捻り出したのだ!!!!(※医療の力です)

歩ける。座れる。当たり前の行動ができることがこんなにも、こんなにも簡単で、当たり前じゃないなんて。知識や理屈として分かっていても、やはりその身で体験するのとでは理解への深みが違います。

 こうして私は無事、喜びを噛み締めながら三日目の夜を過ごしたのでした。
夜は長いですが、今日は本当に、心の底から安心してぐっすり眠れそうです。

 最後、クシャミした瞬間忘れかけていたケツの痛みが戻ってきたのでこういうことの積み重ねなんだなと思いました。まる。



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