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27歳無職が痔で入院したレポート・最終日

 退院だ!退院だ!退院退院退院だ!(ビサイドオーラカのやつ)


 誰だよ安眠できそうとか言ってたイカレポンチはよ。

 よく分からんけど暑くて寝付けませんでした。解放的になったことで痛み以外の環境に不満が出てきて寝付けないという智慧の実を食べたカスになってしまったようです。食べたのはバナナなのでバナナを食ったゴリラです。部屋の空調パネルに表示された無慈悲な「冷暖選択権無し」の文字がなんかディストピアっぽくて怖い。

 大分痛みは引いたもののまだまだゼロになったわけじゃないです全然。
ケツの痛みを消す為に入院したのに以前よりも強い痛みを暫く味わい続けるて何?理不尽じゃん。矛盾してるよ。アジアンカンフージェネレーションじゃん。
いやでもよく考えたらすべては自分が犯した“業”が最も最悪の形となってその身にフィードバックされているだけなので、私みたいな人間はケツが痛いくらいで丁度良いのかもしれません、世界の均衡のためにも。

そして痛みを恐れずバクバク調子こいて飲み食いした結果屁が止まらんくなってしまいました。屁が出る場所はどこでしょう?ヒント:肛門
これはまずい、非常にまずいです。腸内の有毒ガスが出口を求めてグルグルしています。帰り際にガスピタン的なサムシングを貰うなり買うなりしないと最低でも身体の二か所が爆散する計算になります。

いややっぱ痛ぇわ。

痛すぎて食欲が湧かねえわ。あれか、また下降前のピークか。波グラフの話をしているとヴィーナス&ブレイブスをプレイしていた時のことを思い出します。私がゲーム内で百年間育成してきた騎士団員たちは、ばらつきはあれど概ねピークに到達する直前の少年期と、それからピークを過ぎて下降期に入る直前の中年期でもう一度、戦力として魂が燦然と輝くんですね。現役バリバリの若手アタッカーよりも、下降期直前の重鎮バッファーの方がダメージが出るとかザラにあります。しおしおのグラフィックになった幻術士がキラキラのヴァルキリーを差し置いてトドメを刺す光景を何度も目にしました。あれ年齢でクリティカル倍率補正とかあったんだっけな…計算狂うから本当にやめてほしいんだよな……ブツブツ……。
「大事なのは間合い、そして退かぬ心」と、初代団員であるウォルラスも言っていた気がします。
痔という生命の輝きもまた同じなんだと思います。おのれ、死して尚私を苦しめるか。きっと今頃私から切除された“奴”が、ゴミ収集車とか焼却処分場の中で蝋燭の最後の灯火を真っ赤に燃え上がらせているんだと思います。いわば細胞を介した遠隔攻撃ですこれは。何不退転の覚悟見せてんだテメエ、許さねえ。次に合戦場で見えたら確実に息の根を止めてやるからな。もうなんか直接対決させて欲しいですよね、ここまでくると。ステゴロで殴り合わせてほしい。自分のケツと。来いよ。やってやるよ。猫とかよく自分の尻尾追い回してグルグルしてるじゃないですか、アレをやろうかな。こういうクソみたいな怪文書を綴り続けていないと発狂しそうです。人間は脆い。

 オムツを履いているとは言え一瞬漏らしたかと思ってテンパったりしてるうちに、ようやく、ようやく、院長に帰還志願するチャンスが与えられました。漏らしてはいませんでした。
先生午後には帰っちゃうんで早めに言っときますねて。帰んなよ。帰んなよ!!!!帰せよ!!!!

同時に入浴許可も出たのですが微妙にタイミングが悪い。
あつまれどうぶつの森でキンカクの別荘を設計しながら更に待っていると、わざわざ病棟下の診察室まで呼び出されました。


 子曰く、退院オッケー!!!!やったぜ!!!!


今日も室内でゴルゴ13のようなクソデカサングラスをかけた先生は丁寧に、術中どれだけ出血したか、痔とはなんたるかの哲学を身振り手振りを交えて教えてくださりました。指二本で器用に患部の切除と縫合を再現するな。そういえば初めて診てもらったときもこんなんだった気がする。
本来は二泊三日だったのが一日長引いただけでこの有様なので「痛そうだからもう一日オマケね」とか言われてたらどうなってたんだろうと思います。暴れてたかな。決死の勢いで。
ガスは無理に止めるな、自然に出ますよとのことでした。人体の神秘。
 あんまり動くなと釘を刺された矢先に意気揚々と病室に戻って帰り支度を始めました。旅支度の素早さに定評があります。ドレミの歌を口ずさんでいたので相当無邪気で原始的な感情に回帰していたんだと思います。
身動きが取れなかったので室内は綺麗なんですが、代わりにというか必然的にというか、布団がめちゃくちゃ臭ぇですね、汗と薬と膿と血の匂いがする。リンパ液みたいな……わかります?すえた匂いというか……想像させてどうするんだって感じですが。共感覚がある人にトドメを刺すとするならば「フローレンス・ナイチンゲールに関する本を読んでる時の匂い」とでも表現しておきましょうか。

 オラやったでと家族に連絡し、無事迎えの車に乗り込むことも出来ました。ちゃんとドーナツクッションが置いてあったし安全運転だった。多謝……。

 ようやく“門”も通れるってぇワケか……。


長い……長い旅路だった……。
初夏の風が吹き込む4月の朝に、私は病院を去ることになりました。
 先生ありがとう。看護師さんありがとう。勇気をくれた友達ありがとう。あなたが親知らずを抜いたと聞かなかったら、私も手術を覚悟しなかったと思います。
支えてくれた家族、ありがとう。父に人間ちくわ論を解いた大倉先生、ありがとう。ウィッチウォッチ買って来てくれって頼んだのに『烈海王は異世界転生しても一向に構わんッッ』をわざわざ買ってきた兄、何?

全員来世はアラブの富豪の飼い犬とかになって何不自由なく暮らしてくれるといいな。

あと一週間は痛みと薬の恐怖に悩まされるらしいのですが、今回のレポートはひとまずここまでとさせていただきたいと思います。
 
 家に帰って来て速攻シャワったので、「天気も良いしケツを天日干しするか(あんまり濡れたままだと衛生的に良くないかなと思った)」と徐に二階の窓辺に向かおうとしたところ両親に鼻で笑われました。何笑ろとんねん。

 最後に。

 みんな、とにかく勇気を出してさっさと病院に行こう!


私も今日まで「病院に行けとか言うのは痔エアプ」と思って先駆者たちの言葉に耳を傾けませんでした。
しかし人間はやはり一度自らで痛い目を見ないと分からないといいますか、体験に勝る証拠は無いのです。地獄の蓋は自分で開けなければ、その先の深淵と目を合わせることすら適いません。
つまり、「体験したものだけが真実を語っている」のです。
詭弁ではありません。
ともかく、私のように


“死”


が拡大してからではもう何もかも遅いのです。


「まだ大丈夫。」「医者に行くのはなんかヤダ。」
「病院に行けば痔は存在が確定してしまうが、行かなければ痔は立証されない、シュレディンガーの痔なのだ。」

 そう自分に言い訳している間にも、あなたのケツとケツの間で魔物が胎動しているのです。あなたがただの出口だと思っているものは、禍々しいデモンズ・ゲートへと姿を変えつつあるのです。ソロモン王が契約した悪魔たちの住まう魔界へと通じているのです。
これを読んだ人はとにかく一刻も早く肛門科に駆け込んでください。痔じゃない人も行ってください。何故なら痔はシュレディンガーの痔だからです。あなたも肛門科に行けば痔になります。
 私は忠告しました。注意しました。喚起しました。啓蒙しました。
それでも自分は大丈夫だと言い聞かせている人が居たら、直接名乗り出てください。
私が夜な夜なあなたの尻にロケット花火をブッ刺して横浜で一番メシがまずい病院(地下は吸血鬼研究センターになっている)までご案内してさしあげます。
それくらいの覚悟を持って生きてください。
あなたが背面の違和感に振り返った時きっと、“私”という“痔”が潜んでいます。




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