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トライブ活用で現代に蘇る名作『ローマの休日』

こんにちは。モダンエイジの映画大好きマーケター栗原です。

先日金曜ロードショーにて、18年ぶりにあの名作、『ローマの休日』が地上波放送されました。

放映日の5/13(金)の20時以降は、Twitter上で本作の話題が非常に盛り上がり、「ローマの休日」、「オードリー・ヘプバーン」、「グレゴリー・ペック」といった本作に関連するキーワードがトレンド入りしました。

5/13(金)23時ごろに撮ったキャプチャ

『ローマの休日』が本国で公開されたのは1953年、およそ70年前の作品が現代で沢山の人に観られ、クチこまれ、こうしてTwitterでトレンド入りまで果たしている状況は驚くべきことです。

では、どうしてここまで話題化したのか。

今回はマーケティング的な視点から、「トライブ活用」を軸に、この事例を分析していきたいと思います。

■「トライブ」とは?

トライブとは、性別や年齢を問わず、共通の趣味嗜好で繋がった部族といった意味です。一言で表現すれば、「○○好き」

現代は情報の大爆発。人間の処理能力を上回る膨大な情報が世の中には溢れており、私たちは日々情報を取捨選択し、自分の知りたい情報をパーソナライズしています。つまり、興味関心がある、「好き」な情報しか届かない、記憶されないのが現代。

そんな時代で作品の「観たい」といった態度変容を促すためには、「○○好き」といった、トライブを戦略的に設計し、そのトライブと親和性の高いコミュニケーションを行っていく必要があります。

このトライブを設計するうえで重要な考え方が、以下のトライブ区分です。

・着火トライブ
・拡張トライブ
・トレンドトライブ

「着火トライブ」は、まず火をつけていきたい、絶対に抑えておきたい王道のトライブ。「拡張トライブ」は、作品の話題を広げていくための、やや攻めのトライブ。「トレンドトライブ」は、作品と接続可能な、今世の中で流行っているトライブです。

予算次第なところもありますが、この3つのトライブを戦略的に設計することが重要なポイントとなります。では、ここから今回のローマの休日の事例を見ていきましょう。

■着火トライブ…オードリー・ヘプバーン

まず『ローマの休日』を語る上でも欠かせないのが、アン女王を演じた主演女優オードリー・ヘプバーンの、日本国内における圧倒的な人気です。彼女の人気が世界的であることは間違いありませんが、特にこの日本では、ある年齢層では国民的とも言えるくらい突出した人気があり、これがまず絶対に抑えておくべき「着火トライブ」と言えるでしょう。

Filmarksを見てみると、オードリー・ヘプバーンのファン数は約8000人。この数字は、現代の名女優メリル・ストリープと同じくらい、またいまをときめくアニャ・テイラー=ジョイ以上のファン数であり、没後30年近く経って新作映画が全くない女優としては、異例の数値でしょう。

金ロー放映のタイミングは、こうしたオードリー・ヘプバーンの熱狂的なファンたちがちょうど盛り上がっているタイミングでした。5/6(金)、放映の1週間前、その名も『オードリー・ヘプバーン』というドキュメンタリー映画が公開されていたからです。

映画『オードリー・ヘプバーン』

彼女の波乱万丈な人生を描いた本作も評価が高く、反響を集めているのはもちろんのこと、本作の上映を記念してニュース番組でオードリー・ヘプバーンがピックアップされていたり、TVでも特番が組まれていたりと、彼女に対する話題が非常に盛り上がっている中での金ロー放映となりました。

そうした後押しもあり、着火トライブに対しては十分『ローマの休日』が自分ゴト化されていたと考えられます。

■拡張トライブ…週末家映画

拡張トライブは、「ローマの休日」が放映された金曜ロードショー(通称:金ロー)のファン層たちです。その名も「週末家映画トライブ」

彼らは普段から映画への感度がそこまで高いわけではありませんが、週末にディズニーやジブリ、スピルバーグ監督作品などの、ファミリー映画を中心に鑑賞する層です。

金ローの公式Twitterアカウント「アンク@金曜ロードショー公式」は、約68万人(22年5月現在)ものフォロワーがおり、裏番組にミュージックステーションがある金曜21時台に安定的な視聴率をキープしていることから、この「週末家映画トライブ」はある程度の拡張ボリュームがあることがわかるでしょう。

この金ローの名物となっているのが、アンクによる作品放映中の実況中継ツイートです。作品の名セリフや名シーン、裏話やトリビアなどを紹介するツイートを連続で投稿するのがお約束となっており、『ローマの休日』放映中も、以下のような実況ツイートが、40件以上もつぶやかれていました。

すべてのツイートでかなりのエンゲージメントを稼げており(中には7000件近くRTされているものも)、こうした金ローの楽しみ方を知っている「週末家映画トライブ」の層が、『ローマの休日』のトレンド入りを後押ししたと言えるでしょう。

■トレンドトライブ…声優、鬼滅の刃

最後にトレンドトライブですが、これはまさにニュース性のあった、吹き替え声優を一新して早見沙織さんがアン女王を、浪川大輔さんがジョー・ブラッドレーが演じたこと、つまり声優トライブです。

言うまでもなく、近年のアニメブームを受けて、声優の人気はうなぎのぼり状態です。「声優」というキーワードが入ったネットニュースは2019年4月から急増し、花江 夏樹さんや杉田智和さんなど、100万人単位のフォロワーを抱える声優さんも今や珍しくありません。

その中でも早見沙織さんはTwitterフォロワー数約38万人、浪川大輔さんも約85万人と、非常に影響力のある声優さんの主演起用となっています。

さらに特筆すべきは、この主演の二人が、あの「鬼滅の刃」にも出演しているということでしょう。胡蝶しのぶ役の早見さん、鋼鐡塚役の浪川さん、さらに鬼舞辻無惨役の関俊彦さんと不死川実弥役の関智一さんも、今回の「ローマの休日」の吹き替え版に起用されており、「鬼滅の刃」の文脈を意識したキャスティングも大きな話題を呼びました。

従来の吹き替え版が愛されていたということもあり、一部の層から批判はあったものの、話題性も演技力についても、このキャスティングは概ね好評であり、下記のように熱量あるクチコミも生まれています。

■戦略的なトライブ活用で話題を作る

上記で見てきたよう着火/拡張/トレンドトライブの活用によって、様々な文脈、様々な趣味嗜好の生活者からのクチコミが盛り上がったことが、Twitterトレンド1位に輝くほどの話題を生み出すことができた直接の要因になったのではないかと思います。

例えば映画的な文脈だけ、ただ金ローで放映されただけ、リマスターBlu-rayに新規声優の吹き替えが再録されたなど、単一のトライブが動くだけであったなら、ここまで話題化することはなかったでしょう。

もちろん大前提、話題化した理由として現代にも通用する『ローマの休日』の作品パワーがあったことは間違いないと思います。

ただ名作でも、現代では埋もれてしまっている作品が多いのは事実。

こうした作品が発掘されて再評価されるためには、映画的な文脈が中心となる着火トライブだけでなく、拡張トライブ、トレンドトライブを戦略的に接続することで、意欲と話題の伝播をしていく必要があると考えています。

個人的な感想ですが、今回の金ローで初めて『ローマの休日』を観て感動したという方や、金ローで見逃してしまったからサブスクで鑑賞した、といった方も出てきており、私も一映画ファンとして、映画史に残る名作が新たに多くの方に観てもらえたことが、凄く嬉しかったです。

名作に触れて人生を変えられる人、その体験から映画ファンに転換してくれる人、そんな人を一人でも増やしていくために、私も一緒にトライブ戦略を考えていけたらいいな~なんて思っています。

次週も不朽の名作、『ショーシャンクの空に』が金ローで放映されるとのことで凄く楽しみです!!

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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