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Netflix史上最高額『グレイマン』-現代の「ブロックバスター映画」はヒットするのか-

こんにちは。モダンエイジの映画大好きマーケター、栗原健也です。

さて7/22(金)に待望のNetflixオリジナル映画、『グレイマン』が配信開始されました(一部劇場では7/15に公開も)。製作費は2億ドルにも上り、Netflix史上最大の製作費を投じた作品としても話題です。

私も配信開始日に早速Netflixで鑑賞しました。『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』のルッソ兄弟監督×『ブルーバレンタイン』『ドライヴ』のライアン・ゴズリング主演タッグということもあって、硬派でスタイリッシュなスパイアクション映画を想像していたのですが、、

蓋を開けてみれば、まさかのマイケル・ベイやジェリー・ブラッカイマーも真っ青な、れっきとした「ブロックバスター映画」だったので驚きました。単純明快なストーリー、ド派手なアクション、爆発に次ぐ爆発、まさに超大作。

今回はこのNetflix超大作『グレイマン』の今後の展開について、考察していきたいと思います。

■Netflixの野望

色々と情報を調べていると、ソニー・ピクチャーズが本作を製作する可能性もありましたが、その場合、予算の3分の1を削らなければならなかった見込みとのこと。

こうしたブロックバスター映画が劇場公開を前提にメジャースタジオで作られるのではなく、Netflixのようなサブスクリプションサービスにおいて、最大の製作費をもって作られるということが、現代を象徴している気がします。

本作をここまで莫大な予算をかけて製作したNetflixの目的としては、大別すると以下3つだと考えられます。(どれも当たり前のことではあるのですが)

①新規ユーザー(Netflix未加入者・退会者)の獲得
②既存加入者の満足度向上(退会の防止)
③Netflixを代表するシリーズ映画の確立

日本ではあまり顕在化していない印象を受けますが、Netflixの現状は順風満帆とは言い切れないようです。Netflixの発表では、この10年間で初めて加入者数が減少し、2022年4月〜6月期の退会者見込みは200万人とも言われています。

要因として考えられるのは、コロナバブルの停滞化やウクライナ問題への姿勢、インフレの進行、友人家族間でのパスワード共有…、一番大きいのは、先発優位性を失いつつあることでしょう。ディズニープラスやHBO Maxなど、クオリティの高いオリジナル作品を製作するサブスクが増えており、ユーザーの可処分時間・可処分所得の奪い合いがこれまで以上に激化しています。

そんな中で『グレイマン』を投下したのは、ある程度エンタメ感度が高い「映画ファン」だけでなく、大作映画を年1本劇場で観にくるようなライト層も新規で獲得していきたい、既存会員のライト層が競合に流れるのを防ぎたい、という意図があるからでしょう。

これは主観も入ってますが、Netflixは『ROMA』や『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のように、賞レースを席巻するような作品は多く保有しているものの、誰もが楽しめるような大作映画を製作するサービスとしてのポジショニングは、まだ確立されていない印象を受けます。

ワーナー・ブラザーズで言えば、ハリー・ポッターやDCEU、ソニー・ピクチャーズならスパイダーマン、ディズニーならMCUやスター・ウォーズ…。これらのように、「そのスタジオ(サービス)と言えばこれ」というNetflixを代表するフランチャイズを大作映画で作っていきたいということなのでしょう。

■『グレイマン』はどうなる?

では渾身作の一つとして配信された本作は、Netflixの野望に応え切ることができるのでしょうか。

本作は配信開始されたばかりなのと、興行収入で測ることが難しいので、ここからは映画好きマーケターとしての、完全に主観的な予測です。

まず考えるべきなのは、近年の大ヒットは、圧倒的なファンダム(熱狂的なファン集団)がついているアセットを持つ作品がほとんど占めているという事実です。アベンジャーズ、スターウォーズ、スパイダーマン、ピクサー…。

こうした作品たちは、ファンダムの母数がそもそも多かったり、ファンダムたちが何度も何度も繰り返し鑑賞することによって、興収が押し上げられる傾向にあります。そしてファンダムがついている映画ばかりがヒットしやすくなっているのは、現代ならではの状況が背景にあると思っています。

それは現代は情報の大爆発であるということ。あまりに多くの情報や面白いコンテンツを処理しきれない現代人は、摂取する情報を、自分の興味関心を軸にパーソナライズしています。つまり好きなものしか届かない。好きなものばかりを深掘りする。

こうした背景を踏まえると、現代人が自分がファンダムたるコンテンツに傾斜していくのは、必然かと思います。こうしたロジックは、配信映画における"ヒット"においても同様でしょう。

その点、この『グレイマン』のアセットは個人的に少し弱いのかな、という印象を受けます。(私としては『グレイマン』は大好きなので、あくまで下記は評価ではなく分析です)

ライアン・ゴズリングやクリス・エヴァンス、アナ・デ・アルマスについては、たしかに人気も実力もあるキャスト陣です。ただ『トップガン マーヴェリック』におけるトム・クルーズほどの圧倒的なファンダムは少ない。なので、「この人が出ていれば絶対ヒット」というキャストたちではない。

それからストーリーです。前述の通り、かなり王道ストーリーなので可もなく不可もなく。ボーン・シリーズのようにソリッドでリアリティに特化しているわけでも、思わずクチコミたくなるような仕掛けやドンデン返しがあるわけでもありません

そして見所になるド派手なアクションですが、これも『インセプション』や『テネット』のクリストファー・ノーラン監督がいままで"本物志向"で撮ってきたものと酷似しており、特にアクション映画のファンにとって既視感があるのではと考えられます。

まさに良くも悪くも、典型的なブロックバスター映画としてのアセットを持っていると言えるでしょう。

そしてこれは作品というより、Netflixの課題だとは思うのですが、沢山の作品を扱っているが故に、一つの作品にかけられるマーケティングの労力が大きくありません

それぞれのアセットの力が弱いのであれば、どれかに特化して強化してあげるようなコミュニケーションを行うのが理想ですが、現状は他作品と同じTVCMやOOHなど、リーチが大きくとれるような、マス的コミュニケーションが主となっています。

こうしたアセット・マーケティングの状況で、『グレイマン』の「意欲」をどれだけ引き上げることができるのかは未知数だなと思います。

こうした点から、Netflixが期待するほどの"大ヒット"にまで到達できるのかな、というのが個人的な懸念です。

SNSにおけるクチコミ量とヒットは、ある程度比例すると思っているのですが、例えば前週配信された『呪詛』と比べても『グレイマン』のクチコミは少なめだと言えます(当然こんなに単純ではないですが、ある程度の指標として)。

配信開始後4日間のツイート数比較(ブームリサーチ調べ)

■現代ブロックバスター映画の試金石

そもそもブロックバスター映画というのは、多くの人に観に来てもらうために万人受けする内容になっていることが多く、その立て付け上、広くあまねくになってしまうので、現代の傾向とは逆行していると思います。

本作は現代でブロックバスター映画をヒットさせることができるのか、ファンダムベースのない新しいメガシリーズを0から作り上げることができるのか。こういったチャレンジの試金石になってくるのではないでしょうか。

こうしたブロックバスター映画の集客力が現代の傾向を踏まえて低下しているのであれば、配給会社も配信サービスも、万人が楽しめる作品ではなく、個人の好みに最適化したような、色が付いた作品をさらに強化していく方向に舵を切る可能性もあると思います。

今週Amazonプライムでも破壊王ローランド・エメリッヒ監督の『ムーンフォール』が配信開始されますが、こちらの動向も合わせてチェックしていきたいなと思います。

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