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三拍子楽曲がDJで使える魔法の計算式

 私たちは便利な時代を生きています。あなたがSpotifyを開けば、そこには世界中の多種多様な音楽が溢れています。
 ところが、そのほとんどがなぜか四拍子の楽曲ばかり。どの音楽もまるで四拍子というウイルスに感染したかのごとく、みな代わり映えしないリズムを刻んでいるではありませんか。
 かつては美しき三拍子や五拍子の楽曲がたくさんありました。その音はまるで絵画のように色彩に富み、人々の心情や季節の移り変わりなどを表現していたものです。
 ところが、20世紀後半に現れたDJという新人類が「三拍子なんてDJで使えるか」と四拍子以外を蔑ろにした結果、人々の周りには似たような音楽ばかりになってしまいました(うそです)。

 そんな悲しき現代の音楽シーンとは裏腹に、アニメソングには三拍子楽曲や変拍子楽曲が数多く存在します。
 そもそもアニメソングはDJに使ってもらうことなど1mmも想定していない音楽なので、三拍子が作品のテーマに合っていれば迷わず三拍子が採用されます。つまり、DJに使われることを前提としているクラブシーンにはない多様な世界がアニソンシーンには広がっている、という見方もできるわけです。

 さて、そんな恵まれた環境にいるアニソンDJのみなさんは、三拍子楽曲を使っていますか? そこら辺に転がってるクラブDJと同じ様に「三拍子なんてDJで使えるか!」と思っている人…実はけっこう多いのではないでしょうか。
 どんなジャンルの音楽でも上手に料理をするのがオールジャンルDJの醍醐味です。三拍子楽曲という難しい食材をどう料理するのか…。
 今回は三拍子楽曲をDJで使う方法論を考えます。


拍子を理解する

 このnoteの読者で拍子を知らない人はあまりいないと思いますが、簡単におさらいをしておきましょう。
 先程「世の中のほとんどの音楽は四拍子」といいましたが、では四拍子とは音楽のどの部分が4なのかを考えます。

 まず一定の間隔で手を叩きます。これに合わせてなんでもいいので4文字の言葉を声に出していってみてください。とりあえずおだんごでいきましょう。
 お・だ・ん・ご お・だ・ん・ご お・だ・ん・ご…
 これが四拍子です。
 では三拍子はどうなるでしょうか。
 今度はおだんごのを取ってだんごにします。一定の間隔で手を叩きながら… 
 だ・ん・ご だ・ん・ご だ・ん・ご だ・ん・ご…
 これが三拍子です。

 余談ですが、このやり方を使えば変拍子も怖くありません。
 例えば「ぼっち・ざ・ろっく!」の2つ目のED「カラカラ」の冒頭はめっちゃ変拍子ですが、曲に合わせてささだんご ささだんご ささだんご よもぎだんご おだんごといってみてください。

 この曲の冒頭は五拍子が3回続いたあと六拍子が1回入って歌の直前に四拍子が入るという変態アレンジですが、1・2・3と数えるよりも単語に置き換えたほうがわかりやすくなります。

 話を戻すと、拍子とは「等間隔の拍を何個でまとめるか」ということで、3つにまとめれば三拍子だし、4つなら四拍子です。まとめた数で何拍子かが決まります。

DJ mixにおける拍子の呪い

 拍子を簡単におさらいしたところで、DJ mixについて考えてみましょう。
 例えば四拍子の「おだんご」という曲と「だいふく」という曲をmix(併走)する場合、図にすると以下のようになります。

 分かりやすくアクセント部分に印をつけました。
 異なる曲を併走させても拍子が同じであればアクセント部分は同じ位置にあります。これは三拍子でも同じことがいえます。

 当たり前ですが、三拍子の曲同士で併走させればアクセントは同じ位置にきます。

 しかし拍子が異なる2曲を併走させるとどうでしょうか。
 三拍子の「だんご」と四拍子の「だいふく」を併走させると…

 始めは同じアクセント位置でも、曲が進むにつれてどんどんずれていくのがわかります。これでは実際に音楽として聞いたとき、リズムやノリが完全に崩壊してしまうでしょう。

 拍子とは音楽のリズムやノリをつかさどる重要な「縛り」ともいえます。この縛りは絶対で、異なる拍子を混ぜ合わせることはできません。もし、あなたがDJで三拍子の楽曲を使いたいのであれば、あなたは始めから終わりまで三拍子の楽曲をかけ続けなければいけません。

 …と私は長い間思い込んでいました。同じように考えている方も多いと思います。
 ところが、映画「天空の城ラピュタ」EDの「君をのせて」を久しぶりに聞いたとき、この「拍子の呪い理論」には間違いがある…ということに気がつきます。

 この曲の冒頭部分を注意して聞いてみてください。
 美しい三拍子の旋律が4回続き、5小節目からは四拍子に変わります。1曲の中に三拍子と四拍子が共存していますね。
 どこか不思議な雰囲気がありますが、「ぼっち・ざ・ろっく!」の「カラカラ」のような変拍子ではなく、同一のBPMで一定のグルーヴをキープしているように聞こえます。

 あれあれ、拍子には絶対的な呪いがあったはずだが、これは一体どういうことなのでしょうか。

 先ほどの三拍子と四拍子を併走させた図をもう一度見てみます。
 両曲の拍子は異なりますが拍と拍の間隔は同じです。故に両曲のアクセント位置は曲が進むにつれてどんどんずれていきます。
 では、こちらの図はどうでしょうか。

 両曲の拍と拍の間隔は合っていませんがアクセント位置だけはピッタリと同期しています。
 実は「君をのせて」の冒頭部分は三拍子と四拍子を上の図のように、アクセント位置だけが合う状態にしてから並べているのです。楽典的にいえば三拍子を三連符として四拍子に組み込んでいるのです。
 つまりこの図のように三拍子楽曲を三連符として四拍子用のBPMに変換してしまえば、四拍子楽曲とのmix(併走)が可能になるはずです。

三拍子を三連符にする計算式

 話が大分ややこしくなってきましたね。皆様もうひと頑張りです。

 上述したような、三拍子楽曲のアクセント部分を四拍子楽曲に合わせる…つまり三連符に変換するためのBPM設定を自動でDJソフトがやってくれたら話は早いのですが、そんな都合のいいソフトはありません(2023年5月現在)。
 DJソフトはあくまでクラブカルチャーが作り出した道具なので、三拍子や変拍子のアンセムヒットが頻繁に登場するような土台があればそのような機能が盛り込まれたかもしれませんが、そんなクラブヒットは聞いたことがありません。したがって今後もクラブシーンにおける四拍子至上主義は続いていく思われます。
 つまりDJソフトは変わらない。ソフトが変わらないのであれば、使う側で工夫をこらす必要があります。
 ようやく、ここからが実践編です。

 とりあえず、何か三拍子楽曲をDJソフトで解析させてみましょう。TVアニメ「のんのんびより のんすとっぷ」EDの「ただいま」で試します。

 私が使うTRAKTORではBPMは87と計測されます。この数値はとりあえず無視します。

 次に曲を再生させながら、TAPボタンで拍を打ちます。1・2・3・1・2・3と声に出しながら打つとよいかもしれません。だ・ん・ご・だ・ん・ご、でもいいです。とりあえず曲に合わせて6回TAPを打ちます。

 するとBPMは174という数値になりました。先ほどの87の倍ですね。
 しかしこの174という数値はDJソフトが三拍子楽曲を勝手に四拍子と判断したBPMです。つまりこのままmixで使ってしまうと先ほどの図のようにアクセントがずれてしまいます。
 ではどうするか。
 この174という数値を電卓を使って3で割ります。計算式にすると以下のようになります。

174 ÷ 3 = 58

 出ました。この58というBPMが「ただいま」という三拍子楽曲を他の四拍子楽曲に同期できるBPMになります。ただ、これだとあまりにも遅くて使い勝手が悪いので、この数値を2倍にします。

174 ÷ 3 × 2 = 116

 116!これが「ただいま」のmixで使えるBPMになります。この数値をソフトに手動で打ち込んでください。

 同様に他の曲でもやってみましょう。TVアニメ「ネコぱら」EDの「陽だまりの香り」も三拍子楽曲です。

 曲に合わせてTAPを打つと、BPMは162となりました。

 これを先ほどの計算式に当てはめると…

162 ÷ 3 × 2 = 108

 108が「陽だまりの香り」のmixで使えるBPMになります。

 今回取り上げた2曲はたまたま切りのいい数字になりましたが、いつも割り切れるわけではありません。例えばTAPを打って190というBPMが解析されたとします。これを先ほどの計算式に当てはめると…

190 ÷ 3 × 2 = 126.666666666666…

 この場合はソフト上で126.666としておけば問題ありません。

三拍子と四拍子 実際に混ぜると?

 三拍子楽曲のBPMを使えるBPMに変換したら、早速mixをしてみましょう。

 まずは「三拍子→四拍子mix」をします。先ほど計算した「ただいま」(三拍子)から、TVアニメ「キルミーベイベー」呉織あぎりのキャラクターソング「ティーンエイジ・ハイスクール・ニンジャ・ガール」(四拍子)に繋いだ動画がこちら。

 今度は逆に「四拍子→三拍子mix」をします。TVアニメ「世話やきキツネの仙狐さん」のED「もっふもふ DE よいのじゃよ」(四拍子)から、先ほど計算した「陽だまりの香り」(三拍子)に繋いでみます。

 いかがでしょうか。
 個人的には予想以上に自然なmixになるので驚いています(自画自賛)。というか…これは普通に使えるレベルです(自画自賛)。もはや四拍子楽曲となんら変わりはありません(自画自賛)。

三拍子楽曲でテンポチェンジ

 今まではどちらかというと、三拍子楽曲は使いにくいお邪魔な存在だったと思います。
 しかし今日からは違います。この計算式を覚えてしまえば三拍子楽曲は途端に使える楽曲に生まれ変わります。
 そして、この三拍子楽曲、実はそれだけにとどまりません。それは…ありとあらゆるテンポに変換できる超有用楽曲なのです。

 例えば、先ほどの「ただいま」。計算式で変換をする前のBPMは174でした。
 これ、カットインならBPM174の四拍子楽曲と繋げられます。もしくは174の半分である87とも繋がります。
 もちろんどんな楽曲とも違和感なく繋がるわけではなく、選曲次第ではあります。また、カットインというmix方法限定です。
 ただ、覚えておいてほしいことは「三拍子楽曲のBPMの解釈は色々ある」ということで、「ただいま」を例にすると…
・BPM 87
・BPM 174
・BPM 116
・BPM 58
 …単純に考えても4つあります。
 したがって、「BPMを変えたい」「流れを大きく変えたい」「でも無理矢理になってしまうのは避けたい」といった場合、「三拍子楽曲」が選択肢にあると、よりmixやセットリスト作りの自由度が増すはずです。
 この話は別のnote「流れの中でBPMを大胆に変える9つの方法」で詳しく解説をしています。よければこちらも読んでくださいまし。

 最後までお付き合いいただいた読者様の集中力と好奇心に敬意を表します。
 多くの三拍子楽曲がDJに使われることを願って、今回はここまで。

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