星印の日

 1月になってから、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ新春SP」を見て、その影響で元婚約者のことを思い出すことが多い。何かというと、すごく単純な理由で、平匡さんが来ていた衣装が彼の好きだったブランドと同じだったから。たったそれだけのことなのに、元婚約者のことが気になり始めて連絡を取ってしまった。「しまった」というのは、思いもよらない行動をとったなと自分でも思うから。本気でやり直したいとかそういう思いというよりも、「とっさに」連絡してしまった感じ。彼からの連絡が1週間くらい返ってこなくて、やけっぱちになってマッチングアプリを始めた。マッチングはそれなりにしたし、LINE交換も何人かとして、自分の寂しい気持ちは少し収まったけれど、やっぱり彼のことが気になっていた。彼からやっと連絡が返ってきた時、本当に嬉しかった。日記にも何度も「どうしよう、何も音沙汰がない」とか「本当にこれでいいんだろうか」とか迷っているようなことを書いていたが、結局連絡がついた時はすごく嬉しくて、ほっとした。良かった。生きている。それだけでいいような気がした。実際会えなくてももう生存が確認できたことだけで大満足だ。いや、大満足は言い過ぎかもしれない。少しやっぱり会って話がしたい、顔が見たい、と思う。彼のことは好きだったし、一緒に居れて楽しかった。でも価値観が違うなぁっていうこと、例えばLGBTQのことに興味が無かったり、性教育を受けてこなくてそのことについてあまり問題に思ってないこととか、何か違和感が私の中で積もり積もっていってしまっていたのは確かだ。彼の病気に対する理解の無さが発端だったけれど、もっとそのトピックについて面と向かって話し合ったりしても良かったなーと、今なら思う。一度で全て関係を終わりにするんではなくて、少し距離を置くような余裕があればよかったなと思う。私はその頃余裕がなかったし、彼が病気のことに向き合ってくれるかどうかわからなくて、正直疲れていた。一朝一夕で解決するようなことではないのに、私自身が一人で早く早くと焦ってしまって、一気にバーンと爆発してしまった感じ。でもその時の感情のありのままに逆らわずに行動した結果だから、全て自分の責任。感情に蓋をしないと決めたから、そうなったのは仕方ない。去年の6月に別れを自分から切り出したのも、迷って迷って出した結論。その選択自体はそうせざるを得なかったよね、としか言いようがない。もう一気に火がついてしまった状態。指輪も返した、それ位の勢いと覚悟でやったことだった。つもりだった・・・。

 一度こぼれた水はもうコップには戻らない。それは当然のことで、もう仕方ないと思っている。彼から言われた「病気の人は弱い人でしょ」という一言がすごく胸に刺さっていて、あーこれか・・という落胆。一発でもうダメだった。他のところでいくらカバーしたとしても「病気=弱い人」というレッテルを一回貼られてしまったらしんどい。

 1か月くらい前まではそう思っていたけれど、先週カウンセリングで彼のことを話しているうちに、「病気に対する偏見は仕方なかった」のかもしれないと思っている自分に気づいた。メンタルの病気を本当に100%理解することは誰にもできないこと。私はその不可能な「100%」を彼に求めていたんだと気づいて、そこからだんだん彼とちゃんと向き合って話しがしたいと思うようになってきた。でも今更向き合えるんだろうか、という不安もある。相手はもう気持ちは無くて、向き合うなんていう面倒な作業に付き合ってくれないかもしれない。わからないことをタラレバで語ってしまうほどには不安が募っている。なんとなく、彼はまだ私のことを好きでいてくれてるんじゃないかという淡い何の根拠もない期待がある。半年前にはまっすぐに前を向けていると思い込んでいたけれど、結構彼のことを今になって引きずっている自分に気づいた。とにかく会って話しが出来ればこのもやもやした気持ちは収まるのかもしれない。マッチングアプリで出会った人には申し訳ない気持ちもあるが、正直一時の寂しさを埋めるためにやっていたので、もう仕方ないか、という勝手な開き直りもある。恋愛関係に発展しなくても、気の合う友達になれた人もいるから、マッチングアプリ自体は無駄な行動だったとは思っていない。

 とりあえず、元婚約者の彼とは3月の中旬に会うことが決まった。場所も時間も何も決まっていないが、日程だけは決まった。それが果たして楽しみなのか、憂鬱なのかと聞かれればもちろん楽しみのほうが大きいけれど、何から話せばいいのか、戸惑っている自分もいる。彼はきっと引っ込み思案な性格だから根掘り葉掘り私の状況を聞いてくることは無いだろう。そうなると必然的に私から話を色々切り出さないといけないような気がして、少し気が重くなる。どんな顔して会えばいいんだろう。「久しぶり!」って旧友に会うみたいにはいかない。何度か元恋人に会う機会はあったけど、そのたびに私は一体どんな顔してたんだろう。思い出せない。マッチングアプリで知り合った友人から教えてもらった「スカート」というアーティストのアルバムを聴きながらぼんやりと考えている。心地良い曲なのに寂しい感じで、私の好きなaikoにも似ているような気がする。3月中旬はまだ先のように思えるけれど、私の中では今を生きる意味というか、大げさかもしれないけれど、その日がカレンダーの中で星印に輝いている。やっぱり好きなのかなぁ。ただのセンチメンタルなんだろうか。どっちつかずのまま夜は更ける。

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