佐藤優著「国家の罠」で知らない世界を垣間見る

政治家の鈴木宗男氏とともに日露外交に尽力していた外交官の佐藤優氏が背任、偽計業務妨害で逮捕され、検察と戦った克明な記録である。

事件の全体像を理解する上では、さまざまな前提を知ることが必要になる。
あくまで佐藤優氏の視点ではあるが、外務省と外務大臣田中眞紀子氏との確執があり、田中眞紀子氏を追い出すために外務省が鈴木宗男氏の力を使ったこと。
見事に田中眞紀子氏を追放したのち、今度は外務省に対する影響力を強めた鈴木宗男氏を追放しようとしたこと。
ロシアとの条約締結に向けて、ロシアとの関係が深いイスラエルに情報源を求めたこと。
北方領土返還に向けて、電力供与を交渉カードにしていたこと。
外交官としてロシアの政治家たちとの関係づくり。
それらが詳細に説明されていく。
記憶の片隅にあったことがつながっていく。
宗男ハウスってそういうことだったのかという、知らないことを知る喜びがある。

いよいよ、長期勾留の中、佐藤優氏と検事の西村氏の戦いが始まる。
テレビで見るような恫喝で吐かせようとする戦いではない。
むしろ表向きは静かに進んでいく。
それは取り調べというより、交渉のように見える。
事件の共犯とされた外務省のメンバーや三井物産の社員は検察の追及に根負けし、罪を認め、保釈されていく中で、佐藤優氏だけが断固として否認の姿勢を崩さない。
読者の自分からすると、いくら詳細な説明を受けても、法律的な有罪、無罪はよく分からなかった。
ただ言えるのは、おそらく佐藤優氏は悪意や自己の利益のために行動したことはなかったのではないかということだ。
逮捕前は身体や心を削るようなハードワーク、逮捕されてからも自分のことよりも外交上の秘密を守ること、日本の国益を守ることを考えている。そしてすぐに支援の会を立ち上げてサポートしてくれる仲間がいること。最後の最後での東郷氏の証言。
それらから浮かび上がるのは、懸命に日本のために、国民のために尽力する姿だ。
ただご飯やドラマを観ながらのんびり過ごす自分のようなものがある中で、国益のために尽力してくれている人がいるのだと思わされる。
そんな人が無罪、もしくは有罪にせよ、本質的なことでないことで職務から離れることになったのは、大きな損失なのではないかと感じた。

一方で、そもそもやれることと好きなことは違う。やりたいことではなかったので、元の仕事には戻りたくないというのも本音なのだろう。
常人を超えたタフネスを見せてながらも、当然ながら普通の人間としての弱さも垣間見えて、親近感を感じた。
あとアイスクリームを楽しみにしていたりと、癒し系なところもある。

自分とは全く違う世界を生き、違うものを読んで、違うことを考えて生きている。
自分には知らない世界がある。
そんな当たり前のことに気づかせてくれる本だった。

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