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Weighted Baseballに関するクリニカルビュー

アメリカの野球界で手軽に球速を上げられると話題を集めている”Weighted Baseball”ですが、あまりに早く普及されたこともあってその使い方も人それぞれになっている恐れがあります。時が経つにつれて科学的に基づいたその効力と正しい使用法も少しずつ解明されてきました。

本日はホワイトソックスのメディカルコーディネーターでもあるMike Reinold氏のWeight Baseball=重い野球ボールを使ったトレーニングに関するクリニカルビューについて書きます。

野球の怪我は増加傾向

医学会で注目を集めるようになっている野球関連の怪我ですが、その注目度に比例するように近年の怪我の件数も増加傾向にあります。更に注目すべきところは、プロレベルよりもユースや高校レベルの選手達の怪我が増えてきているという点です。学校の部活でしか野球ができなかった昔と違って、サマーリーグやフォールリーグなど一年中野球ができる環境があるし、ラプソードやスピードガンの普及に伴い小さい子らでも自分の球速が簡単に測れるようになりました。

ソーシャルメディアの発達で本来ならば大人達が行うトレーニングが若い世代でも行われるようになりましたが、それは身体的に成長しきっていない関節や腱にはかなりの負担になる可能性があります。

そもそも重いボールで球速は上がるのか?

結論から言えば答えは『Yes』です。もう少し詳しく言えば人によります。Reinold氏が6週間にかけて行ったグループ研究では、重いボールを使ってトレーニングしたグループは球速が3.3%上がったとあります。ですがここで重要なのはこのグループ全員の球速が上がったわけではなく、全体の8%にはなんの変化もなく、さらにグループの12%は球速が下がったという結果が出たということです。

また重いボールを使わずにトレーニングを行ったグループの67%も同様に球速が上がっています。このグループでも先程のグループ同様に全体の19%には変化がなく、14%は球速が下がりました。

Marsh氏の研究では大学&プロレベルのアスリートを対象に6週間似たような方法で研究を行いましたが、球速に大きな変化は見つからなかったそうです。これらの結果を踏まえてこれからの研究では球速の変化の多様性とその原因、またどのようなグループが一番このトレーニングの恩恵を受けられるのかなどの疑問があるでしょう。

重いボールを使う際のバイオメカニクス

Weighted Baseballの研究で有名なFleisig博士によると、ボールを投げる通常の動作に影響が出ない範囲でトレーニングするには113g~198g(通常の野球のボールは144g)の間の重さのボールを使う必要があります。ただこれらのボールを投げる際に肩と肘にかかるストレスの変化を見逃してはいけないそうです。

Okoroha氏の研究では80g~160gのボールを使ったユースレベルの選手の肘にかかる内反ストレスは上昇傾向が見られました。実験では選手の健康リスクを考えて限られた重さを使いましたが、実際の現場で使われるWeighted Baseballは56g~1kgとバラバラです。

筆者は一回に投球動作で生まれるストレスより、繰り返し同じ動作をすることで蓄積される総ストレス量にも注目する必要があると述べています。その理由は疲労が蓄積すれば靭帯を守る筋肉や腱もダメージを受けるリスクがあるからです。

球速アップのしくみ

Weighted Ballのプログラムの研究が進んではいますが、一体どのように球速が上がるのかイマイチ分かってないのが現実です。筆者は次のような結論を出しています。

先程紹介したReinold氏が行った6週間の研究で球速が上がった被験者たちの肩の外旋角度が5°上がったという報告があります。この結果をもとに上の研究を行いました。この研究では500g~1.5kgのボールをほぼ全力で27回投げた後の肩の外旋域を測り、結果重いボールを投げたグループの肩の外旋域は8°上昇したと報告しています。比較グループはマウンドから全力で45球投げましたが、このグループでは外旋域に変化は見られませんでした。

なので重いボールを使うトレーニングの方が肩を外旋域に変化を及ぼしやすいということです。過去の研究で肩の外旋角度と球速が比例するという報告がありますが、これが球速が上がる理由だと筆者は考えています。

安全性

パフォーマンス向上のトレーニングで重要なのは、”怪我のリスクを上げない”ことです。Reinold氏の研究では被験者の25%が肩もしくは肘に痛みが出ました。そしてそのほとんどはトレーニング中ではなく研究後のシーズンに出ました。結論として重いボールを使ったトレーニングでは球速&怪我の発生率が上昇する可能性があると考えられます。

結論

重いボールを投げるということ自体に問題があるのではなく、要はその使い方に一貫性がないことに問題があると筆者は述べています。僕個人としては物を投げる=ストレスという考え方がとても大事だと思います。身体はストレスを受けることで何らかの身体的変化をもたらしますが、ストレスの量が許容範囲を超えると怪我をします。

重たいボールを使ったトレーニングに限らず筋肉、関節、靭帯、腱などの組織がダメージを受ける限界点までアプローチできてしまうトレーニングの際には、その”一回の服用量”がとても重要です。どんな薬にも適用量があるようにトレーニングのやりすぎは身体に毒になり得るということです。その服用量を科学を元に研究・判断することがこれからのトレーニングには欠かせないと言えるでしょう。

それでは、

参照URL: https://ijspt.scholasticahq.com/article/21321-the-safety-and-efficacy-of-weighted-baseballs

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