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変わらなさの中で

桜はすっかり青々してるのに、大学生のカップルがちょこんと腰を下ろしてる。
透きとおる4月の光に包まれた公園の隅っこ、緑色に揺れる桜の木の下で二人はほんのり頬をピンクに染めている。

女の子は魔法瓶を手にして、男の子はちょうど蓋を逆さまにかぶせたところ。
ろくすっぽ互いを見もしないから、ほら魔法瓶を水が伝っていく。

「何を話しているんだろう」

男の子が口を開きかけて、結局は黙ってしまった。
まるで、難解な詩みたいな会話だ。
二人は句読点を打つように空を仰ぐ。

「このあと、なんて言うんだろう」

公園の向かいの駅を、昨日と同じ手のひらで切符を握りしめた小学生の列が通り過ぎていく。
いつも決まった音程で電車はレールの連なりを鳴らし、季節は千年先まで透きとおってる。

二人は変わらず、青々とした桜の下で頬を染めていた。

「このあと、何が舞い降りてくるんだろう」

もうピンク色の花びらは落ちてこない木の下で、二人は空を見つめて瞳を青くしてる。
季節は春から夏へ。

変わりつつある二人を包み込むように、季節はいつも同じように巡っていく。
変わらないことが、人をこんなにも優しくする。

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