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SUNSETS with 7 Girls 美希

自宅に帰ってからも美樹は、高校時代の思い出が蘇ってきて、家事をしながらも、娘とお風呂に入りながらもどこか上の空で、仕事から帰ってきた浩二の話しにも相づちだけ打っていた。

とはいえ、思い出すのは思い出したい過去ばかり。嫌なものは結婚と同時になくなってしまった。互いに好きだと思っていた相手に裏切られたような気持ち。自分よりも幸せになれそうになかった友人たちの方が先に結婚していくごとにおめでとうという気持ち。

結婚は美樹の過去の嫌なものすべてを浄化させてくた。代わりにあれがあったから今があるとすべてを肯定できるものになっていた。

深夜、娘を寝かしつけてスマホを開く。メッセージが5件。「なんだろ、お義母さんかな」来週末、遊びに行くと連絡したあと、浩二と何かやりとりしているようだった。自分の用事が済んだ美樹はそれからスマホを開かなかったから、未読メッセージが残っているのかも。

数字を押す。そこには何ヶ月か前にメンバーに入れてもらったグループメッセージ。2枚の写真とコメント。それに反応するスタンプひとつ。

とっさに嫌なものを見たと感じた。内容を確認したわけではないが、嫌だと感じた。忘れていたはずの、結婚すればすべてチャラになるはずだった過去がそこにはあった。

写真にはあの頃のまま大人になった人たち。あの顔もこの顔も、あの人がああなって、この人がこうなりましたとビフォーアフターを絵に描いたようなものが写っていた。

嫌だ。また思った。なんだ、この感覚。少し前ならほほえましく見ていた同級生たちの現在。当時の美樹なら参加していないにもかかわらず、テンションの高いコメントを残していたはず。すぐに。

写真をマジマジと見つめ、顔を拡大し、今の自分の気持ちを確かめる。どうしても賞賛する気になれなかった。たかが写真じゃないか。誰に言ってもそう言われるのはわかってる。だから言わない。もちろん本人たちにも言うつもりはない。

だけど吐き出したい。この気持ちはなかったことにしちゃいけない。苛立ちを覚えながら、リビングの床で寝ていた夫を起こし、洗濯物を干し、歯を磨きながら「お前は何者だ」鏡の前の自分に向かって言った。

「お前は何者だ」

無性に腹が立っていた。なぜこんなに怒る必要があるのか。理由のない逆ギレか。相手は何も悪くない。同窓会の写真を送ってきただけ。何も悪くない。

それでも許せない。あいつがあのまま大人になったことが許せなかった。それはつまり、自分自身が学生時代のまま大人になっていることを許せないのと同じだった。

嫌だ。このままじゃ嫌だ。私はあの頃の私のまま大人になったね、なんて誰にも言われたくない。親からも。私らしいってなんだ? 過去は過去だろ? もう戻らないだろ? 明日は未来だろ? 見える過去に合わせて明日を決めるのはつまらない。見えない未来だけでいい。

過去はいらない。

過去を思い出させるものにはすべて嫌悪感を持っている美樹が歯を磨いていた。


ありがとうございます! ひきつづき、情熱をもって執筆がんばりますね!