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婦女暴行未遂

犯罪や事件なんて報道されない事のほうが多い。


「お願いだから早く助けて」


そう強く願った実話を語る。



父の友人にアルコール依存症のニートがいた。
おまけに任侠に片足突っ込んで下手打った
手指が2本欠けた男だ。


いつだって酒臭い男で
金の無い我が長屋に来ては
母の手料理を食べ、父と酒を呑んでいた。


僕には9個離れた姉が居る。
当時中3の姉は、ボロ長屋暮らしが
恥ずかしかったのだろう。
この、いつだって酒臭い男の家に
勉強したいからという名目で入り浸るようになった。

市街地の一軒家に母と姉とこの男は住んでいたので姉は居心地が良かったのだろう。
家畜小屋のような我が長屋とは違い
友だちも呼べたに違いない。


しかし、しばらくすると姉は
その男の家にいかなくなった。

なんでもケンカしたらしい。


「こんどウチにきたら追い返してね」

と、父に必死に話していた。


なにがあったのだろうと
姉が大好きだった僕は心配でならなかった。



雲が高くて陽射しの強い夏の午後だった。


つまらない授業を終えた僕は
傷だらけのランドセルを背負いながら
セキュリティのセの字もない
自宅のガラス戸を開けた。


例の男の声がが姉の部屋から聞こえた。

『?!#@%&!!!るぁ!』

「出てってよ!!イヤだ!!!たつや!110番!」


酩酊した男は獣のように意味不明な言葉を吐きながら姉に覆い被さっていた。


気が動転した僕は
大好きな姉が酒くさいあの男に
変なことをされてしまうのではないか
されてしまったのかとか
あたまのなかでぐちゃぐちゃ考えながらも
灼けたアスファルトを擦れきれたズックで
近くの公衆電話まで駆けた。

自宅の黒電話は止まっていたからだ。


泣きながら110番したのは覚えているけれど
その後のことは覚えていない。


だけれど、男はウチに来なくなった。



姉はショックを受けたに違いない。

しばらく友人の家を転々と泊まりながら
たまに荷物をとりにウチに帰る生活をし

ラーメン屋でバイトをしながら
部屋を借りる金を貯めたらしい。


姉は日本人離れしたルックスと
人懐っこさでめちゃくちゃモテた。

そんな自慢の姉だったけれど

この一件から僕は衝撃を受けた。


学生服から覗いた姉の下着と
姉の乱れた髪の毛と
「たつや!110番!!!」

という場面は一生記憶から消えることはないだろう。



男は数年後、市営住宅の階段から泥酔状態で
転落し亡くなった。


悪いことするといい最期は迎えられないんだなと僕は学んだ。




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