溺愛したりない。(試し読み5)

 翌日。
 昨日は、あんまり眠れなかった・・・・・・。
 補習が終わってもぼうっとしてしまって、高良くんの告白が何度も脳裏をよぎって、あのキスの感触も・・・・・・ずっと離れてくれなかった。
 上の空で、学校までの道を歩く。
「おーい、たま!」
 後ろから聞こえた声に、ぎくりと体が強張った。
 声の主は・・・・・・幼なじみの、岩尾くんだ。
 彼は私にとって・・・・・・悪魔のような存在。
 いつもは、岩尾くんと会わないように急いで登校していたけど、今日は高良くんのことで頭がいっぱいで忘れていた。
 掛け寄ってきて、私の行く道を塞ぐように前に立った岩尾くん。
「今日も朝から辛気くさい顔してんな」
 私を見て、バカにするように口角を上げた。
 あ、悪魔の形相っ・・・・・・。
 岩尾くんは身長が高いから、見下ろされるだけで怖い。
「・・・・・・」
「おい、なんか言えよ」
 怯えて萎縮していると、低い声でそう言われてますます体が強張った。
「ひっ・・・・・・ご、ごめんなさい・・・・・・」
 相変わらず、今日も怖いっ・・・・・・。
 岩尾くんは、別に不良ってわけじゃない。アクセサリーをつけていたり、制服を着崩しているわけでもないし、見た目も・・・・・・普通に見れば好青年だと思う。
 ただ、私が岩尾くんを怖がる理由は、過去の様々なトラウマが原因だった。
 岩尾くんと私は、小学生の頃からの付き合い。
 1年生の時、同じクラスの隣の席同士になって、最初は仲良くなれるかななんて思っていた時もあった。
 でも、岩尾くんは私を嫌っていたのか、嫌がらせをしてくるようになった。
 私のあと追い回したり、スカートをめくってきたり、私と仲良くしてくれる男の子をいじめたり・・・・・・。
    岩尾くんはクラスのボスだったから、私はすぐに孤立した。
『おい、たま!お前いつもひとりだよな』
    玉井だから、私を「たま」って呼ぶ岩尾くん。
『そ、それは、岩尾くんが・・・・・・』
『俺がなんだよ?』
『ひっ・・・・・・な、何もない・・・・・・』
『ひ、ひとりはかわいそうだからな、俺が一緒にいてやろうか?』
『いいっ・・・・・・』
『なっ・・・・・・!お前、俺がせっかく言ってやってるのに・・・・・・!』
 私をパシリにでもしたいのか、岩尾くんはいつも私を追いかけてきた。
 そして・・・・・・全部岩尾くんのせいだとは言わないし、私が面白みのない人間だからかもしれないけど、友達という友達もできないまま高校生になった私。
 高校こそは岩尾くんと別のところにと思って、わざわざ離れた高校を選んだのに・・・・・・入学式の日、岩尾くんを見つけて絶望した。
 偶然同じ高校になったのかわからないけど・・・・・・岩尾くんは今も、私を見つけてはからかってくる。
 クラスが離れただけが幸いだ・・・・・・。
「なんでお前は俺の顔を見るたびに、嫌そうな顔するんだよ」
 顔をしかめて、そう聞いてくる岩尾くん。
 岩尾くんが嫌がらせをしてくるからだよっ・・・・・・と言い返す度胸は、小心者の私にはなかった。
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
「・・・・・・ちっ、謝ってばっかだな。なんの謝罪だよ」
「岩尾くんの気分を、害してしまって・・・・・・」
「・・・・・・別に、んなこと言ってねーだろ」
    だって岩尾くん、すごく怖い顔してる・・・・・・。
「俺は普通に、お前と・・・・・・」
「岩尾く~ん!」
 何か言いかけた岩尾くんの声は、遠くから聞こえた女の子の声に遮られた。
 ちらりと視線を向けると、岩尾くんに手を振りながら、駅の方向から歩いてくる女の子の姿が。
 チャ、チャンスっ・・・・・・!
「し、失礼しますっ・・・・・・!」
「あ、おい・・・・・・!」
 岩尾くんの隙をついて、私は猛ダッシュした。
 脚力には全く自信はないけど、逃げるのは得意。
 角を2回曲がってから、振り返る。
 岩尾くんの姿がないことを確認して、ほっと胸を撫でおろした。
 はぁ・・・・・・無事に逃げられた・・・・・・。
 岩尾くんも暇じゃないから、全力で追いかけてくることはない。
 たまに教室まで来て、ちょっかいをかけてくることもあるけど・・・・・・。
 いい加減、私をパシリにする計画は諦めてほしい・・・・・・。
 さっき、岩尾くんに声をかけてくれた女の子に感謝だ・・・・・・。
 そう言えば、岩尾くんは昔から女の子の友達が多かった。
 友達・・・・・・というか、とにかくモテていて、岩尾くんの周りにはいつも女の子が集まっていた。
 すごく失礼だけど、どうして岩尾くんがモテるのか私にはわからない・・・・・・。
 正直、性格はよくないと思ってしまうから・・・・・・世の中、不条理だ・・・・・・。
 教室に着いて、きょろきょろと辺りを見渡す。
 あ・・・・・・高良くん、来てないのかな・・・・・・。
 高良くんの席は空いていて、教室に高良くんの姿は見当たらなかった。
 昨日も、補習には来てくれたけど授業には出席していなかったし、今日も欠席するのかな・・・・・・。
 進級にはもちろん出席日数も必須だから、大丈夫かなと不安になった。
 欠席だとしても、補習には来てくれるかな・・・・・・?
 もしかすると、昨日のはやっぱり夢だったりして・・・・・・。
 どうしても、夢見心地な気分から抜け出せない。
 その日は授業中もぼうっとしてしまって、あんまり内容が入ってこなかった。
 
 

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