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“Fのコードが弾けなかった”から、今は気楽で居られる。

 Something ELse、サムエルを知らない人も増えてきたのだろうか。『風と行きたかった』『反省のうた』など良曲を出し続けながらも数字は伸び悩み、いつ消えてもおかしくなかった1998年、『雷波少年』(『電波少年』の姉妹番組)のショッカーに拉致され、3ヶ月にも及ぶ監禁共同生活の末に生み出された起死回生の一曲『ラストチャンス』がオリコン初登場2位(最高1位)、CD総出荷枚数130万枚、売上もほぼ100万枚の大ヒットを記録し、番組の人気も相まって知らない人は居ないレベルの3人組だった。

♪ラストチャンス/Something ELse(1998)

  企画を立案した“T部長”(当時はTプロデューサー)こと土屋敏男氏は、書籍の中でこんなことを語っていた。

 そうして中学に入り、僕は母親にねだってギターを買ってもらった。三千円のヤマハのギターだった。
 しかし、Fのコードがどうしても押さえられなかった。
 あの時、Fのコードが押さえられていたら、僕もきっと、
“サムエル”と同じところにいたのではないか、と思うのだ。

『サムエル日記』あとがきより引用

 ギターでFのコードと言えば、初心者の誰もが最初にぶつかる壁として有名。何なら私も大学時代、少しだけギター教室に通い、Fを押さえられず挫折した者の一人である。

人差し指が6本全ての弦を押さえている。演奏中は一瞬でこの指にしなければならない。

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 私は今、創作小説においてスランプ状態に陥っている。『楠木ともり創作コンテスト』が大失敗に終わったのも記憶に新しいが、今年1月に満を持して始めた連続小説『SNS監視委員会』が思うように上手く書けず第三話でストップしていることが根本的な原因だろう。

 第三話は完全にフィクションだが、第一話の『いじめ問題』、第二話の『友達やめる問題』は私の実体験を基にしている。故にリアルで複雑な奥深い話にするつもりだったのだが、結果的にはかなり単純化、矮小化された着地となっている。文字数が想定の何倍も多くなってしまい、上手く削る方法を知らないことが災いし、私の頭脳と知識、経験では結論を矮小化して短くすることが精一杯だったのだ。

 否、今に限らず、ずっとスランプなのかもしれない。私は『ガーリーな魔法少女』の記事リンクを事あるごとに貼っており、今も貼ろうとしているわけだが、それくらい自分の中で最も気に入っている作品である。

 しかし、この作品ですら細かい粗は幾つもあり、完成した当時はそこまで納得のいく出来だとは思えなかった。ただ、その後の1年4ヶ月、これを超える作品を全く生み出せていないから相対的に一番になってしまったというだけである。要するに私は常にスランプ状態だとも言える。

 とどのつまり、私は創作小説における“Fのコードがどうしても押さえられなかった”人なのである。そして、「Fのコードが押さえられていたら、僕もきっと、“サムエル”と同じところにいたのではないか」とも思うのである。もし私に文章力やストーリー構成力、その他諸々が備わっていたら、今ごろプロになろうと足掻き、でも名声を得られず躓いていたのかもしれない。

 そう考えると、“Fのコードが弾けない”現状で良かったのだと安堵できる。嫌な仕事と煩わしい人付き合いで人生の大半を費やし、限られた時間で駄作しか生み出せないことに何度も涙した。そんな時に土屋氏の言葉を思い出し、創作小説を趣味の範囲で留めている内は自由で気楽に居られることにも気付いた。

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 ここで『note創作大賞2023』についても触れねばならない。前回の『2022』で悔しい思いをした人を何人も知っている。Fのコードも弾けない私みたいな人間が生半可な気持ちで応募作品を増やし、審査の負担を重くすれば他の真剣な作品たちにも影響を与えかねない。ただでさえ応募意思が全く無いのに投稿画面でたまたま見つけた『#創作大賞』のボタンをクリックするだけの便乗参加者もごまんと存在すると言うのに。

 しかし、自由で気楽な私はもう深く考えるのをやめた。7月17日という創作大賞の締切日が、半年近くも放置していた『SNS監視委員会』を完結に導くラストチャンスだと思ったからだ。当初は社会問題に一石を投じる風刺作品にするつもりだったが、今は矮小化、ミニマムな着地になっても良いとさえ思っている。肩の力が抜けた途端、第四話のストーリー展開もある程度は見えてきた。ただ、本当に創作大賞に応募するとなれば後2週間ほどで最低でも第四話、第五話(第六話?)まで仕上げねばならない。間に合わなければ真剣に書いたこの記事さえも格好悪くなってしまう。それだけは避けたい。

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 このお気持ち表明、本当はラジオでする予定だったが、制作があまりにも遅れているので先にnoteに吐露させていただいた。声優・鶴野有紗さんのブログで小説を読んだこともこの考えに至った理由の一つであることは付け加えておく。感謝の意としてブログのURLも貼らせていただく。ありがとうございます。


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