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第99回 「旧課程最後の地理Bにおける授業での取り組み」(地理総合研究チーム)

第99回は、地理Bの実践についてお話しいただきました。報告者の先生は新課程の科目を担当したことがなくて、来年からの科目に不安を感じているそうですが、今年度は新課程の科目も意識して取り組まれてきました。プロジェクター等の設備が充実したこともあって写真や動画をいっぱい見せること、問題を解きながら地図を見ながらなるべく生徒同士が話す時間をつくること、常に新しいデータを提供することを目標に授業を進め、グループ発表とレポート作成にも挑戦されたということです。放課後、希望者に共通テストに対応するための補習も行い、活動的な学びと受験と両方を満足させる工夫もされています。
 デーツはオタフクソースに使われている、浮稲はこんなところで作られている、ジュートはみんな使ったことがあるこの紐だ、など生徒の視覚に訴えることで興味を引き出しています。なかでも一番受けたのはサウジアラビアのTHE LINEの映像。サウジは石油しかないという生徒の思い込みを覆しました。しかし、毎回の授業で資料集に載っていない情報を提供するのは大変だったそうです。原材料の運搬や施設の稼働で予想以上に燃料や費用がかかるバイオマス発電所のお話も興味深く聞かせていただきました。
 グループ発表では「大阪万博にパビリオンを出すとしたら?文化や衣食住やSDGsを絡めて発表する」という課題に取り組んだそうです。カンボジアのグループが昆虫食を紹介したり、先生が予想した以上に生徒たちはユニークな視点から上手にスライドを作り、楽しんで学んでいるように感じたということでした。他にもテーマを特に決めずに、苦手なことを調べて発表したりもしました。発表後、自分で調べたほうが覚えやすいとか力がついたという感想が多く、生徒が自ら活動して生徒同士で学んでいく機会は大事だとおっしゃっていました。もう少し、短い時間でできるグループ発表&レポートを年間で細かく繰り返して取り入れることが今後の課題だそうです。
 先生が新たに発見したことや面白いことを伝え、生徒とのコミュニケーションを楽しんで授業を作られている様子が伺えました。

― 質疑応答 ―
・授業で使えそうな写真や動画をインターネット等で選ぶにあたって重視している選択基準は何か→すでに知っているけど違う見方ができるものを紹介するのが理想。難しいので、見たことがなさそうなものなど、自分が面白がれるものを紹介しているのが現状。
・なぜ万博を教材にしたのか→万博は未来とか社会を考えるうえで大事なもの。ただ衣食住を説明するだけではなく、伝統の中にも今に通じる良さがあったり、便利でなくても環境にいいなど様々な側面に気付くきっかけになると考えた。
・今年度初めて、授業の中で活動的なことを取り入れたのか。授業で生徒が作業することも大切だという報告だったが、なぜそのように考えたのか。→今年度、授業での活動的取り組みに力を入れている。他地域に転勤した元同僚に「この地区ではもう黒板なんか使ってない!」と得意気に言われたことに刺激を受けた。必要なことはだいたいノートに書いてあるし、プロジェクターもついているので改めて板書する必要はない、映像や写真を見せて考える時間を増やしたほうがいいのかな、と思って今回初めて取り組んでいる。一人で黙々と問題を解いたり地図に色を塗るのではなくて、様子を見ながらペアワークを入れることにこだわった。話し合いながら作業をさせた方が明らかに楽しそう。友達同士で「これやったやろ」「自分だったらこうやってグラフ見るかな」などの会話も聞こえてきて、知識や技能も身につけている感触がある。
・報告者の先生ご自身は地理という科目を通してどんな生徒を育てたいと考えているのか。→すーっと通ってほしくない。教科書や資料集に書いてあることを、知ってるから、受験に必要だから、と通り過ぎてほしくない。少しでも引っかかったり、面白がって、興味を持ってみると何気ない風景でも見方が変わる。そのために自分が興味を持ったり人から聞いて面白いと思ったことを見せるようにしている。そうすればどんどん生徒自身がやりたいこと学びたいことが見えてくるのではないかと思っている。
・校内、教科内の連携はどうなっているのか。報告者の先生が重視しているのは地理独自の学び方なのか。地理歴史科におけるものか。他教科も含めた学び方なのか(他教科でも同じパターンで学べることを授業で伝えているのか)。→普段からわからないことはすぐに聞く。連携と言えるかはわからないが、日本史の先生や公民の先生ともよく話しながら授業のヒントをもらっている。教科内でのつながりは意識していたが、他教科へのつながりは意識はできていなかった。地理は理科とも親和性が高いと思うので今後の課題となる。

― 議論(地理総合・地理探究でどのような悩みがあるか、授業で工夫していること) ―
・地理探究、世界史探究、日本史探究についてはどのように進めるのかまだまだ模索中。理科と地歴公民科の組み合わせなど教科を超えて連携をとり、探究科目を設定するような動きが校内にあるか、という話になったが学校の中でもそこまではできていない。知識だけでなく、いろんな学びや考え方をどのように広めていくかについて、学校現場で悩みになっていることは多いようだ。
・教科間の連携はあるほうがよいのか、良いとすればどういう点でよいのか。→中教審の答申が出たときに文科省の中で考えられていたのは「問いを立てる→様々な形で検証してその問いに答える」が基本でどの教科も同じ。問いと答えとの間が教科間で少しずつ違う。それをどんなふうに学んでくるかが問題となったので教科感の連携が気になった。
・地理はこれまで担当したことがほとんどないが、もし担当することになったら歴史総合や公共と同様、ある課題について生徒と会話しながら授業を作り上げていきたい。ただ、地理的な見方・考え方みたいなものが全く自分に備わっていない。
・歴史と地理は何が違うのか。「法則性」がくっついているか離れているかの違いという話になった。地理の場合は法則性が捉えやすい。歴史の場合は、法則性があっても個別の事柄とくっついて大きな物語のように授業が展開されてしまうのでわかりにくい。例えば田沼意次を法則性で捉えたら規制緩和。しかし人物の中に規制緩和の要素が埋まってしまって田沼意次の話にしかなっていない。
・地理は興味深いが担当するとなると自分の知識がなさすぎて不安だが、知識がないことに不安を感じているうちは、「教員が教える」という概念が抜けていない。今、教師に求められているのは課題をどういうふうに見つけさせるか、ということ。課題を見つけるサポートをしながら生徒とともに勉強して知識を身につけるべき。
・地理は日常生活で当たり前になっていることが教科書に載っている。生徒はこれまでに積み上げた知識をもっているので、授業は生徒とラリーしながら進めていける。
・普段の授業やジグソー法などの活動的取り組みで資料の準備が必要となるが、X(旧Twitter)で見つけたものや旅行先で手に入れた資料などをストックしておくと良い。資料を提示できなくても、課題を設定したら生徒自身が資料を探してくることも大切な学びとなる。
・今、授業を受けている生徒が大人になったときに社会科の授業をどんなふうに覚えているか、という視点で授業を考える。我々も学生時代の授業内容をどれだけ覚えているかは怪しい。チョーク&トークで一生懸命教えた知識よりも、動画を見たり、ペアワークやグループワークで自分たちがどんどん成長した体験が残っているかもしれない。
・先生が面白いと思う過程で生まれた問いや、気づきや驚きが、規則性や法則性につながり、授業の原動力になっている。その規則性や法則性をうまく応用させると、教科書が終わらない、活動的な取り組みを入れると時間が足らない、という悩みはなくなるのではないか。
(参加者16名)


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