見出し画像

価値とは何か(デヴィッド・グレーバー)

ソクラテス: 皆さん、今日はデヴィッド・グレーバーさんという非常に興味深い人類学者をお迎えしています。グレーバーさんは価値と交換の文化的側面について研究されており、『価値論:人類学からの総合的視座の構築』という著書でその理論を展開されています。グレーバーさん、あなたの研究で最も中心となる考えは何でしょうか?

デヴィッド・グレーバー: ありがとうございます、ソクラテスさん。私の研究の核心は、価値が単なる経済的な指標ではなく、人々が世界を理解し、意味を形作る方法であるという点にあります。価値は文化的なプロセスを通じて創造されますが、それは社会的な相互作用、儀式、信仰に深く根差しています。

ソクラテス: それは非常に興味深い視点ですね。では、具体的には、どのような文化的プロセスが価値を形成するのでしょうか?

デヴィッド・グレーバー: 例えば、イロコイ族のワンパムや、クワキウトル族のポトラッチのような儀式は、単に物々交換の場ではなく、社会的な地位や精神的な価値を交換する場でもあります。

ソクラテス: 「ワンパム」や「ポトラッチ」とは何でしょうか?

デヴィッド・グレーバー: まず、イロコイ族のワンパムですが、これは貝殻を加工して作られるビーズや紐のことで、交換の媒体、契約の証、さらには物語や伝説を記録する手段として用いられています。ワンパムは単なる「お金」ではなく、法的な約束や条約の証明としての役割も果たしています。つまり、ワンパムは経済的価値だけでなく、社会的な信頼とコミュニティの結束を象徴するものなのです。

次に、クワキウトル族のポトラッチですが、これは部族の中で特に地位が高い家族が主催する贈り物交換の儀式のことです。この儀式では、主催者は参加者に大量の贈り物を配り、時には財産を焼き払うことさえあります。この行為によって、彼らは社会的な地位や権威を確立し、その地位を維持することを目指します。ポトラッチは、豊かさと寛大さを示す手段であり、贈り物を通じて社会的な関係を強化し、地位を再確認する機能を持つのです。

ソクラテス: 非常に興味深いですね。確かに、それらの儀式は経済活動を超えた特別な文化的意味を持っていると言えるでしょう。しかし、このような価値形成の方式が現代社会の問題とどうつながるのでしょうか?

デヴィッド・グレーバー: 現代社会においても、私たちはブランドやマーケティング、広告を通じて「価値」を創造しています。これらはすべて文化的な物語やアイデンティティを形成し、消費者の行動を形成する力を持っています。つまり、市場経済自体を一種の文化的儀式と見なすこともできるのです。

ソクラテス: なるほど、市場経済を文化的儀式と見なすとは斬新な視点です。それによって何が理解できるのでしょうか?

デヴィッド・グレーバー: 経済活動がどのようにして人々の価値観や社会的関係を形成しているのか、また人々がそこからどのような影響を受けているのかが明らかになります。経済活動は単に物質的な富を生み出すだけでなく、人々の間の力関係やアイデンティティを形成する文化的なプロセスでもあるのです。

ソクラテス: それは確かに重要な洞察です。しかし、この理論が現実の問題の理解にどのように役立つか、もう少し具体的な例を教えていただけますか?

デヴィッド・グレーバー: もちろんです。例えば、労働市場における「ブルシット・ジョブ」(クソどうでもいい仕事)を考えてみましょう。これは仕事をしている本人が、その仕事が世界に対して何の価値も提供していないと感じる種類の仕事です。現代の多くの労働は、社会的または経済的にまったく必要でないか、ひょっとすると有害でさえあるにもかかわらず、権力者のとりまきづくりや、組織の利益保護のためになされています。このことは、私たちの社会で生み出される「価値」が、根本的な矛盾を内包してることを浮き彫りにします。

ソクラテス: なるほど、それは興味深い視点ですね。グレーバーさんのお考えには、経済や社会の現実に対する深い批判が含まれているように思います。現代社会が直面している最大の課題は何だとお考えですか?

デヴィッド・グレーバー: 最大の課題は、「効率」や「成長」を最優先する思考から脱却し、人間の幸福や文化的な充足を重視する社会をどのように築くかです。この変革は簡単ではありませんが、私たちの考え方や価値観に革命をもたらすことが求められています。

ソクラテス: グレーバーさんの言葉には常に深い洞察が含まれており、私たちが日常生活で当たり前と考えている多くの概念に疑問を投げかけますね。グレーバーさん、本日は貴重なご意見をありがとうございました。私たちの対話が、多くの人々にとって思考の種となり、より良い社会を目指す一助となることを願っています。

デヴィッド・グレーバー: こちらこそ、このような機会をいただき、感謝しています。皆さんが私の考えを自分たちの生活や社会にどのように活かしていくかを見ることができるのを楽しみにしています。

主要ソース

関連エントリー


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?