第十二話

 ぽちっと電源ボタンを押してノートパソコンを立ち上げる。今日の目的は調べ物、手元に無い知識でも調べれば世界中の知識がこの手に集まるのだからインターネットとやらはほんに凄い。これこそ真の魔法じゃ。

 さてさて、今日も欲しい情報が見つかれば良いが。検索窓にキーワードを打ち込む。打ち込んだ単語は「パワハラ 対処」。昨日エマの奉公の様子を見てきて、はげちゃびん上司の酷さを目の当たりにした。あれは俗に言うパワハラに相当するだろう。こちらに来て初めて耳にした単語だが、定義だのなんだのを聞けば昔あったああいうのかと納得はできる。それをやめさせるにはどうすれば良いか、今日の問いはそんな所じゃ。

 行き着いた先は個人が運営するホームページらしき所、詳しい体験談が載っておった。ここならば、あの子の力になる叡智が見つかるだろう。まずは証拠集めとして録音と日記……。日記か、あの町のエマは三日坊主で終わっていたな。今回は果たしてどうだろう。となれば録音が重要になってくるであろう。音を後に残す魔法はある、だが魔法を使う訳にはいくまい。この地の人々にとって魔法は夢物語、現実にあるのだと見せた所で。今はカガクが支配する時代、ならばカガクによって生み出されたものを使うのが一番。だがしかし。

「……あいしー……れこーだー?」

 文字が読めてもそれが何を示すのかがわからなければ意味が無い。初めて見る文字の並びに首を捻る。いや、今のわしが相手取っているのはインターネット、わからぬ事を聞けば即座に教えてくれる生き字引。ならば聞けば良いのだ。検索をかけてみる。

「うわっ!」

 出るわ出るわ、あいしーれこーだーとやらの結果がわんさか。どれから見ていいやら、見た所でわしが理解出来るのかどうか。恐らくどういったものかを示す説明があるのだが、わしには言葉の意味がさっぱりわからん。新たな検索窓を開いて単語を検索したが、今度はどんな数字のものが良いのかがわからなくなってしまった。

 どうしたもんか。体験談の主はどういったものを使ったのだろう、それらしきデータがあるにはあったがさっぱりダメじゃ、ほんに言葉の意味がわからん。

 だがわしにはどうしても理解せねばならぬ訳がある。知らぬ事があるならば先人の知恵を頼るが一番。聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥。そういった言葉もあることくらい知っておる。このホームページを作った者と直接連絡を取ればわしがどんなものを用意すれば良いか教えてくれるじゃろうか。

「サイトを拝見し、連絡差し上げる。孫娘が上司にパワハラを受けているようで対処法を探しているのだが、恥ずかしい話パソコン以外の機械類には疎いもので。ICレコーダーについて貴殿の知識を拝借出来たらと思い、メールした次第である。孫は俗に言う事務仕事に従事し、主に大部屋で上司からの叱責を受けるようである。こういった場合はどの程度のものを購入すべきか、意見が欲しい。忙しいとはお見受けするが、返信お待ち申し上げる」

 管理人の連絡先というメールアドレスに相談内容を送信する。これで良かっただろうか。今時の文に適する言葉遣いすらわからん。ほんにわしの知識は時代遅れになったもんじゃえ。

 返信待ちの間に家事を進めておかねば。今夜はカレーじゃ。昔作っていた薬を思い出す匂いの食い物、今のエマには大好物とのこと。

 飯を作れば片付けもせねばならん。晩飯を食い終えた頃には返信が来ているじゃろうか。知らぬことを人に訊ねるというのは、こんなに待ち遠しいものじゃったかのぅ。

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