迷ってゐます

 朝。利用しているゴミ集積所へ行くと、色あせた、物悲しさのあるロボットが直立していた。これはゴミなのか。いや、ロボットは大型ゴミなので、ここにあっても収集されない。型式をデバイスでリサーチすると、15年程前のもので、メーカー修理が終了している代物だった。おそらく持ち主は、ロボット修理専門店にだし、高額な修理代を払うより新品を購入したほうがよい。そんな結論に達し、投棄したのだろう。
 しかし、これは不法投棄である。放っておいても、自治体が引き取ることはない。誰かが処分費用を負担する必要がある。自宅から若干離れているため、生活に支障はないが、如何せん不気味である。角のとれた丸みのある、愛嬌のあるデザインが、妙な威圧感を放っている。今後、毎日のように会うことになるのか。お地蔵様じゃあるまいし、どうしたものか。
 男はとりあえずゴミを捨て、出社することにした。昼休み中、ある記事を目にした。近頃、捨てロボットが全国で問題になっていると。処分方法もそうだが、誤作動をおこし怪我人がでる事故も発生していると。
 仕事帰り。夜も更けだした夜8時、アレは街灯に照らされて直立されたままだった。変化と言えば、額に『収集できません』と紙が貼られていること。それはシュールで悲惨で、若干の可笑しみがあった。
 モノとはいえ、憐憫の情を覚える。しかし何も出来ることは無い。
翌朝。冷たい風が吹きすさむ中、ゴミを捨てに行くと、はす向かいのおばさんがロボットにニット帽を被せていた。
「なんか、可愛そうでしょ」
 おばさんはそう言うと、真っ白な雑巾でロボットを拭き始めた。それは家族の介護を行っているような、慈悲があった。
 数日後には花が供えられ、飲み物まで置かれだした。いつしか周辺住民にとって、それこそお地蔵様になった。色あせたボディは住民によって、綺麗に彩色され、かつての輝きを取り戻していた。
 ある時、噂を聞きつけ公民館に、ロボットの持ち主を名乗る中年男性が訪ねてきた。自治会長が対応した。
 話によると、自宅ガレージ前に置いていたところ盗難されたと。購入時保証書などの証拠もあることから、虚言ではない。
「正直、迷っています。非常に大事されているようですし」
「我々が勝手にやっていることで、持ち帰ってもらっても構いませんよ」
 人の良さそうな中年男性は、結局、そのままで良いということで帰っていった。一応、所有権の移譲の手続きを行い、正式に自治会の所有となった。
 そんな『ロボット地蔵』のムーブメントは全国に波及し、原点である、ゴミ集積所のロボットには参拝者まで現れる。
 ここまでくると、ただの廃品に神々しささえ感じる。男はゴミ袋を両手に、ロボット地蔵を見た。
「せっかくのロボットなのに、修理せずこのままで良いのかな」
 男はその迷いを振り払い、ゴミを捨て、立ち去った。

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