映画「THE FOOLS 愚か者の歌」に想う

THE FOOLS !
これ以上愚直にロックを生きた者たちがいただろうか?
時代に抗い無頼の筋を通し続けたロックンローラー
伊藤耕、川田良、そして仲間たちの「愚か者たちの歌」
この映画は彼らが生きた証であり、また墓碑銘でもある。

ロックという生き方…。
そんなフレーズは随分前から色褪せた写真のように、心の引き出しに仕舞い込んでいた。
だが、奴らは違った。
その筋金入りの無頼派のゆえ、自ら商業主義のワナから免れ、また弾かれたのだろう。
確かにフールズ以前から二人はトラブルメーカーとしても知られていた。
しかし、耕の憎めないキャラクター、良の振り切れた凄まじいギタープレイはファンを引きつけ続けた。

音楽は素晴らしく、酒やクスリ絡みのエピソードは悲しい。(1stアルバムの資金捻出の話には笑ったが…)
ただ、彼らの底抜けの言動は、打算とはまるで無縁なのだろう、泥んこのガキのように清々しい。
世の常識をものともせず、ド直球な愛と平和を歌い続け、最高のロックミュージックをかき鳴らし続けたのだ。
宇宙共産党宣言を口にする川田や、獄中で書いた最後の詩で至上の愛を連呼する伊藤を見て確信した。
彼らこそは古代ギリシャの路傍の哲学者ディオゲネスや、聖なる乞食坊主・寒山拾得の末裔であるに違いない。

とはいえ、触れば火傷するようなご両人、近くにいると大変だったろう。
歴代のメンバーたちや、家族のコメントも胸を打つ。とくに伊藤の妻の凛とした姿には、共に修羅場をくぐりぬけた者の、夫婦、家族などといった関係を超越したような威厳すら覚えた。また少年時代、どうしようもない親父・伊藤耕には殺意のみだったというご子息による弔辞にも泣かされた。

そういえば、我が友・篠田昌已もフールズの仲間の一人だったことを思い出す。映画に見る耕たちの人となりを知れば、篠田も彼らの魂の共同体の一員だった事が容易に納得出来る。
伊藤耕は篠田の葬儀にも駆けつけ、般若心経を詠み上げてくれたのだ。耕の般若心経で見送られるなんて最高じゃないか!
そしてついには、この映画でみんなが彼らを見送る事になったのだ。

最後に個人的な思い出を。僕は川田のバンドと2度対バンをしたことがある。
最初は1980年の吉祥寺マイナーで、伝説の短命バンド・午前4時と僕らは絶対零度。もう40年も前のことなので、あまりにも蒸し暑かったことしか覚えていない。が、さらに記憶をこらすと、俺たちは俺たち、彼らは彼ら…とひたすら自分たちの演奏に集中したものの、客席の関心は結果的に貴重なギグになった午前4時の方に注がれていたらしい…と、朧気ながら残像が蘇る。
二度目は2009年、新宿LOFTでのDRIVE to 2010の一夜、彼のバンドはTHE PANTZで僕らはシカラムータ。それまでにも、フールズ、ジャングルズは何度か見ていたが、30年ぶりの対バンで、彼のニューバンドは管楽器も入った大所帯。ジャズ・ソウル的な要素が面白かった。川田はピリピリしていて近寄り難かったが、楽屋でジャングルズのファンだと告げると彼も表情を緩めてくれた。

ところで、僕も含めて吉祥寺マイナーを語るとき、ついついマイナー派とロフトや屋根裏などの東京ロッカーズ系とを対比させる傾向があるが、実際はかなり入り乱れていた。
70年代末のかなり早い時期からマイナーにも出入りしていたという川田は、酒癖を別にすれば、マイナーでの評価はとても高かった。
オーナーのピナコテカ佐藤さん夫妻が、「いや、良は(ギターだけではなく)ピアノの弾き語りもなかなか面白いんだよ」などと言っていたのをよく覚えている。
79年に初めて見た彼らのSYZEは個人的にまだピンとこなかったので、マイナーでの川田の高評価は意外かつ興味を引くものだった。
その後のVibraphone入りの編成や、最後のバンドTHE PANTZのブラックミュージック的な要素など、彼の懐の深さを示す一貫した流れがあったのだろう。なかでもジャングルズのノイジーでアナーキーなギターは最高だった。僕の敬愛するロバート・クインと双璧をなす世界的にもカッコいい音楽だったと断言したい。
もちろん、フールズもこれは本物になったな、と体感させるケミストリーがあった。
そのような気になるバンド、ミュージシャンでありながら、それ以上の機会を持てなかったのは残念だが、この映画で、普通なら近寄れない距離で彼らの素顔や表情、演奏を間近に見ることができるのはとても嬉しい。

また、伊藤の獄中での不審な死因をめぐる裁判も、ついに勝利的和解を迎えたのは実に素晴らしい。本人もだが、関係者も本当に大変だったと思う。

あらためて耕さん、良さん、そして彼らの仲間たち、もちろん高橋監督もお疲れさまでした!
そしてありがとう!!!
全ロックファン必見。そして合掌…。

付記
フールズ評伝を完成させた我が旧友、志田歩の偉業にも乾杯しなくては!

映画『THE FOOLS 愚か者たちの歌』公式サイト (thefoolsfilm2022.jp)


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